35. エピローグ ~未来へつなぐ光~
「ねえ、結花ちゃん」
夕焼け色に染まる校庭で、かなちゃんがぽつりと言った。
「わたしたち、本当に世界を救えたのかな?」
あたしは少し考えてから、空を見上げた。
宇宙なんてもちろん見えない。
あの戦いの跡も。
あの眩しすぎる光も。
あそこにはもう何も見えない。
だけど――。
「うん」
あたしは笑って答えた。
「救えたよ」
あの戦いで終わったものは、たくさんあった。
終わらせなければならなかったものも。
「機械の国」が何億年も背負い続けてきた憎しみ。
それを思えば、あたしたちが絶対に正しいなんて言いきれない。
選ばれた者と、取り残された者。
豊かな者と、貧しい者。
その溝は、簡単に埋められるものじゃなかった。
それに、あたしたちは完璧じゃない。
間違ったかもしれない。
それでもあたしたちは、未来を生きることを選んだ。
機械の国も滅んだわけじゃないから、いつかまたこのコロニーが襲われるかもしれない。
もしかしたら、相手の方に正義があるのかもしれない。
だけどあたしたちは、見える範囲でだけでも、あたしたちの大好きな人たちを守りたい。
敵として現れた機械兵器の中には、捕らわれた魔法少女たちがいた。
彼女たちは兵器でも、燃料でもなかった。
誰かの娘であり、誰かの友達であり、誰かの憧れだった。
彼女たちは救えなかったけれど。
その罪は、きっとあたしたちが一生背負っていかなければならない事なんだと思う。
男子たちも変わった。
今まで誰にも知られず宇宙で戦ってきた彼らの存在は、ようやく多くの人に知られるようになった。
世界を守っていたのは魔法少女だけではなかった。
魔法少女を支えていた少年たちもまた、英雄だったのだ。
カイトは相変わらず口数が少なく、それでも誰よりも頼れるリーダーだった。
春樹は少しだけ背が伸びて、少しだけ自信がついた。
「守りたい」
あの日の言葉は、今でも彼の生き方そのものになっている。
他の仲間たちも、それぞれの場所で空を守り続けている。
そして、ミカエラ。
第三コロニー最強。
『一人要塞』
そんな肩書きを持っていた彼女は、最後まで誰かを守ることを選び続けた。
強かった。
本当に強かった。
でも。
一番すごかったのは、その強さじゃない。
弱さを知っていたこと。
負けたことを認められたこと。
そして、もう一度立ち上がる勇気を持っていたこと。
あたしは、その背中からたくさんのことを教わった。
桃果さん。
美咲さん。
ルカさん。
カンナさん。
かなちゃん。
裕太お兄ちゃん。
名前を挙げればきりがない。
みんな違う戦い方をして。
みんな違う強さを持っていた。
だから、この世界は守れた。
そして、あたし。
鈴原結花。
正直に言う。
最後まであたしは、自分が主人公だなんて思えなかった。
あたしの周りには、自分より強い人ばかりいた。
頭のいい人。
勇気のある人。
優しい人。
かっこいい人。
何度も思った。
「あたしなんていなくてもよかったんじゃないかな」って。
でも、違った。
主人公って、一番強い人じゃない。
一番すごい人でもない。
泣いて。
迷って。
失敗して。
それでも一歩だけ前へ進もうとする人。
そんな人のことを言うんだって。
今なら少しだけわかる。
そういえば。
あのお漏らし事件。
あの頃は世界の終わりみたいに恥ずかしかった。
学校でからかわれて。
泣いて。
もう外なんか歩けないって本気で思った。
でも。
今ではみんな笑い話だ。
春樹なんて今でも時々その話をしようとして、みかちゃんに頭を軽く叩かれている。
「女の子の秘密は墓場まで持っていきなさい」
なんて言われながら。
平和になった証拠だ。
世界は、これからもきっと平和なままじゃない。
また新しい問題が起こるだろう。
誰かが泣く日もある。
戦わなければならない日も来る。
だけど、その時はもう知っている。
魔法だけじゃ世界は救えない。
科学だけでも救えない。
どちらかが正しくて、どちらかが間違っているわけでもない。
必要なのは。
誰かを守りたいと思う心。
それだけなんだ。
人工的に作られた夕焼け空を、一筋の飛行機雲が横切っていく。
ずっと昔に地球から見えた、本物の夕日じゃない。
でも。
あたしには十分きれいだった。
「行こう、みんな」
あたしが歩き出すと、仲間たちも続く。
「お前が仕切るのかよ!」
カイトに突っ込まれて、頭をクシャッと撫でられる。
「もう!主人公なんだから最後ぐらいカッコつけさせてよ!」
あたしはぷうっとほおを膨らめる。
だけど、本当はそんなに気分は悪くない。
一人じゃない。
だから前へ進める。
今日も。明日も。その先の未来も。
人は、魔法だけでは生きられない。
人は、科学だけでも生きられない。
だからこそ、人は支え合う。
それが――
あたしたちが、未来へ残した一番大きな奇跡だった。
― 完 ―
この後、設定資料を公開します。




