33. 決戦②
敵の大群は、いくら倒しても減ることがないほどに、宇宙を覆っていた。
黒い機械兵。
混在する新型と、旧型。
そして、その中心に存在する未知の大型兵器。
コロニーの人々は、ただ空を見上げることしかできなかった。
あまりにも巨大な戦力。
あまりにも絶望的な数。
意思疎通ができない敵。
それはもはや、滅亡に限りなく近い。
宇宙では二機の人型機動兵器が戦っている。
操縦席には、二人の少年。
カイトと春樹。
そして、彼らと共に二人の魔法少女がいた。
結花。そしてミカエラ。
本来ならあり得ない組み合わせだった。
魔法を持つ少女。
魔法を持たない少年。
しかし。
今、世界を守るために必要なのは。
どちらか一方の力ではなかった。
敵の大群との戦闘が激化する。
旧型機は、これまで何度も戦ってきた機械兵。
そして、その中に混ざる新型機。
見た目はそれほど違わない。
しかし、動きも出力も段違いだった。
魔法耐性。異常な出力。今ではそこに強力な自己修復能力まで加わっている。
魔法少女を取り込むことが可能となったその時から、「機械の国」の機械兵の強くなる勢いは異常だった。
「数が多すぎる!」
春樹の声が震える。
テスト生としては優秀な成績を残せるようになったとはいえ、彼には実戦経験があまりにも少なく、未熟。
ヴァリアントの周囲には、敵が次々と迫る。
だが、ミカエラは冷静だった。
ヴァリアントに魔力を供給しながらも、さらに領域を展開。
敵の動きを大きく制限するとともに、コックピットに座る春樹にアドバイスを送る。
『春樹』
「うん」
『敵を見て』
「・・・?」
『機械だと思わないで』
ミカエラは静かに続ける。
『そこには、理由がある』
その言葉の意味を。
彼らはすぐに知ることになる。
「・・・カイト」
結花の声が震えた。
「新型機の内部・・・」
「見えている」
カイトも表情を変えていた。
敵機の内部。
そこに存在していたもの。
それは、魔法少女たちだった。
透明なカプセル。
眠る少女。
身体には無数の管。
魔力回路へ直接接続された装置。
そこから吸い上げられる魔力。
みんなそのことを、理解していたはずだった。
もちろんミカエラも。
でも、その中からかつて知った魔力を感じて狼狽した。
それは、第三コロニーの仲間たちの魔力だった・・・。
ミカエラの身体が大きく震えた。
「そんな・・・」
間違えるはずがない。
あの魔力を。
何度も隣で感じてきた。
「エミちゃん・・・」
震える声が漏れる。
「リーちゃん・・・」
「セリカちゃん・・・」
その瞬間だった。
通信機からではない。
もっと直接、心へ響くような声が聞こえた。
『・・・ミカちゃん』
優しい声。
忘れるはずのない声だった。
「エミちゃん・・・?」
『やっと・・・会えたね』
ミカエラは息を呑む。
「ごめん・・・!」
「今助ける・・・絶対に助けるから!」
涙を流しながら叫ぶ。
だが、返ってきたのは静かな声だった。
『ううん』
『もう、助からない』
ミカエラの表情が凍りつく。
『私たちは、もう兵器の一部になってる』
『無理に助ければ、この子たちも巻き込んじゃう』
「そんなことないよ!方法はあるから!!絶対に探すから!!!」
すると、今度は元気だったリーゼの声が響く。
『ミカ先輩・・・もう十分だよ・・・苦しいの・・・ずっと・・・ずっと苦しい』
その声には、かつての明るさは残っていなかった。
ただ、疲れ切った少女の願いだけがあった。
『お願い。もう終わらせて』
続いて、セリカの落ち着いた声が聞こえる。
『私たちの身体は、生かされているだけ。魔力を吸われ続け、戦うたびに意識だけが戻る・・・その繰り返しでした』
短い沈黙。
『これは、生きているとは言えません』
ミカエラは首を振る。
「嫌・・・」
「そんなの嫌だよ・・・やっと会えたのに・・・今度こそ、一緒に・・・」
エミルナが優しく遮った。
『ありがとう。その気持ちだけで十分』
『でもね、ミカちゃん・・・あなたは、生きて!!!』
「・・・!」
『あの日・・・私たちは、あなたを信じられなかった・・・ごめんなさい』
ミカエラは、胸が熱くなる。
『最後まで信じてあげられなかった・・・苦しかったよね・・・怖かったよね・・・全部、一人で背負わせちゃった』
「違う・・・」
ミカエラは何度も首を振る。
「悪いのは私なの・・・私がおままごとなんて・・・」
『違う』
今度は三人の声が重なった。
『ありがとう、最後まで守ってくれて』
『私たちの先輩になってくれて』
『だからもう、自分を責めないで』
その時、不意に警報が鳴り響く。
『アーク・ファルコン各部限界』
『主機出力、急速低下』
『残存稼働時間、わずか』
カイトの緊迫した声が通信に入る。
「ミカエラ!」
「時間がない!」
ミカエラは唇を噛み締めた。
助けたい。今すぐ助けたい。
でも、もう間に合わない。
『ミカちゃん』
エミルナが最後に微笑むような声で言った。
『私たちの未来は、ここで終わる・・・だから』
『あなたが未来へ進んで。結花ちゃんを守って。みんなを守って』
リーゼも笑う。
『泣かないでよ、先輩。最後までかっこいいミカ先輩でいて』
セリカも静かに続けた。
『これ以上、私たちに縛られないでください・・・あなたは、生きてください』
三人の声が少しずつ遠ざかっていく。
「嫌・・・!行かないで!!」
返事はもうなかった。
ミカエラは震える手で涙をぬぐう。
そして、小さく目を閉じた。
しばらくの沈黙の後、決意したように通信を開く。
「・・・カイト」
「分かってる」
短い返事だった。
それだけで、彼には伝わった。
ミカエラは嗚咽を押し殺しながら、震える声で告げた。
「お願い・・・あの子たちを・・・解放してあげて!!!」
その言葉は、彼女がようやく下した、あまりにも苦しい決断だった。




