32. 決戦①
アーク・ファルコンとヴァリアントが発進した時。
コロニーの管制室は、静まり返っていた。
誰も歓声を上げない。
誰も「勝てる」とは言わない。
そこにいる全員が理解していた。
これから向かう場所は、戦場ですらない。
文明と文明がぶつかる、絶望そのものだと。
巨大なハッチが開く。
二機の人型機動兵器は、ゆっくりと宇宙へ滑り出した。
「アーク・ファルコン、発進」
「ヴァリアント、発進します」
あたしは初めて宇宙へ上がった。
でも、それはあたしが想像していたのとは全然違う世界だった。
黒いと思っていた宇宙は、黄金色に輝いていた。
下を見下ろすと、あたしたちのコロニー。
宇宙に浮かんでいると思った『それ』は、「ダイソン球」と呼ばれる人類が作った最大の装置に敷かれたレールの上を走っている。
元は、膨大なエネルギーを生み出すその装置を管理する人たちのための居住空間だったものだ。
その時のあたしに「ダイソン球」の知識はなかったけれど、それは人類の英知の終着点とも言える装置。
もっとも、『ダイソン球』の機能自体はあたしたちの時代にはその多くが失われているんだけど・・・。
そして、ダイソン球の影の中だけが、あたしたちが生きて移動できる空間だ。
「・・・知ってたの!?」
カイトは答えなかった。
でも、知っていたに決まっている。
カイトたちはこれまでも、あたしたちの知らない『ここ』で激闘を繰り広げてきたのだから。
だけど、そんなことに驚いている場合じゃない大変な事態が迫っていた。
「・・・なんだ、これ」
宇宙空間。
そこに広がっていたもの。
それは、敵艦隊だった。
一機。十機。百機。
そんな数ではない。
黒い機械兵器が、宇宙そのものを覆い尽くしている。
大型機。
旧式の量産型。
かつて何度も戦った機体。
そして、新型。
魔法少女を「動力」とする兵器。
「旧型と・・・新型?」
結花が息を呑む。
「混ざってる・・・」
旧型は数で押し潰すため。
新型は、たった一機で魔法少女を倒すため。
役割が違う。
それも、明確に。
「敵は・・・本気で来てる」
カイトが呟く。
その瞬間。
ヴァリアントの内部。
エーテルタンクの中から声がした。
『ハルキ』
「ミカ」
『数を数えないで』
第三コロニー最強の魔法少女ミカエラ。
今はエーテルの中で、春樹の機体を支えている。
『敵が何百いても、一機ずつ見る』
「・・・」
『目の前の誰かを守る。それだけ考えて』
春樹は操縦桿を握り直した。
「分かった」
『うん。それでいいよ』
その声は、いつものミカエラだった。
強くて、冷静で、優しい。
一方、アーク・ファルコンは敵陣へ突入していた。
「右!」
『見えてる』
結花の警告より早く、カイトは機体を動かす。
レーザーを紙一重で回避。
『きゃあっ!?』
思わず、悲鳴。声は出ないので、正確には悲鳴ではないんだけど。
敵機に思わず怯んでしまったあたしをよそに、カイトは一瞬で反転、加速、そして至近距離からの斬撃。
音もなく、敵機が爆散する。
「すご・・・」
結花は思わず息を呑む。
これが。
男子エース。
カイト。
魔法を使えないはずの人間。
それでも、誰よりも戦場を理解している。
「カイト」
『何?』
「・・・やっぱり、すごい」
『結花がいるからだ』
「え?」
『魔力供給が安定してる』
カイトは淡々と言った。
『だから、限界まで動ける』
その言葉が嬉しかった。
自分も戦えている。
そう思えた。
しかし、その直後。
計器が異常を告げる。
『警告』
機体からアラートが鳴る。
『魔力出力低下』
「・・・?」
カイトが眉をひそめる。
推進力が落ちていく。
武装出力も下がる。
「結花」
『・・・』
「おまえ、まさか・・・」
カイトは計器を見る。
魔力供給量は正常。なのに・・・。
出力だけが落ちている。
「これは・・・」
モニターに数値が表示される。
エーテル純度99.44%・・・99.23%
不純物、増加!
少しずつ増えていく。
カイトには、たぶん原因が分かっている。
それは、あたしが・・・
前だったらカイトがそれを無神経に指摘して、あたしがそれに対して言い返して・・・
けど、今のカイトは何も指摘せず、
「長時間戦闘はできない」
と事実だけを述べる。
乙女としては恥ずかしいことだけど、あたしもカイトもわかっている。
今は、それどころじゃない。
問題は、それだけじゃなかった。
映像が拡大される。
新型機の、その内部構造。
カイトの表情が変わる。
「・・・」
そこに映っていたもの。
新型機の中心部。
動力炉のいちばん奥。
透明なカプセル。
その中に。
捕らわれた魔法少女たちがいた。
眠ったまま。
身体から伸びた管が、機械へ接続されている。
「・・・嘘」
声にならない声が震える。
『聞こえる・・・』
耳で聞こえたんじゃないけどそう感じた。
自分の魔力を無理やり引きずり出される苦しみの声。
それは、生きながらにして発する断末魔のようでもある・・・
言葉を紡ぎ出すことすら出来ない。
新型機が強い理由。
魔法耐性。
高出力。
長時間稼働。
その全ての答えがそこにあった。
「じゃあ・・・」
春樹が震える声で言う。
「敵を倒したら・・・」
誰も答えなかった。
答えは分かっていた。
「その子たちは・・・」
ミカエラが目を閉じる。
『助からない可能性が高い』
結花の手が震える。
「助けなきゃ・・・」
当然だった。
それが魔法少女だから。
でも、現実は残酷だった。
新型機を破壊すれば、敵軍の戦力を大きく削ることはできる。
しかし捕らわれた少女たちの生命維持も停止する。
逆に救出を優先すれば。
敵軍の多くはコロニーへ到達する。
今の彼らには全員を救う力がなかった。
「・・・」
カイトは黙って敵を見る。
守りたい。助けたい。でも・・・。
選ばなければならない。
誰かを救うために、誰かを見捨てざるを得ない。
そんな決断を。
彼らは迫られていた。




