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26. 花咲いろは

※この話は花崎いろは視点です。


ルカさんが魔法の力を失ったのは、私にとってはとてもショックだった。


カンナさんから魔法を習って、初めて一人前になった魔法少女。


孤高の人だったルカさんと、私が初めて心を通わせた話。


あれはもう、3年も前のことになる・・・。




魔法少女には、色々な人がいる。


優しい人。面白い人。泣き虫な人。


そして中には怖い人だっていた。


その代表が金城ルカさんだった。


当時中学二年生。このコロニーで、最初の魔法少女。


敵を一人で倒し、危険区域へ一人で入り、怪我をしても顔色一つ変えない。


だから後輩たちは皆、彼女を恐れていた。


「またルカ先輩だ・・・」


「あの人と組みたくない」


「失敗したら怒られるよ」


そんな声を、私は何度も聞いた。


でも、私は少しだけ違うことに気付いていた。


ルカさんは、


誰にも話しかけない。


誰とも笑わない。


休憩時間も一人。食事も一人。


訓練が終われば、一人で帰ってしまう。


怖いというより寂しそう。


私の目には、そう見えた。




その日も合同訓練だった。


カンナさんが号令をかける。


「二人一組で組んでください」


みんなが一斉に動く。


「桃果ちゃん、一緒にやろ!」


「うん!」


「美咲ちゃん!」


「よろしく!」


次々に組が決まる。


だけど。


ルカさんだけが取り残された。


年齢が上で、怖い人。


誰もがそういうイメージを持っていて、近付こうとしない。


周囲には妙な沈黙が流れていた。


私は思わず手を挙げた。


「私、ルカさんと組みます!」


その瞬間、空気が止まった。


「えっ!?」


「いろはちゃん!?」


ルカさん自身も少し驚いた顔をした。


「・・・私で、いいのか?」


初めて聞くくらい、小さな声だった。


私は笑ってうなずいた。


「もちろんです!」


訓練は予想以上に厳しかった。


ルカさんは本当に強いし、速くて正確。


しかも迷いがない。


私は何度も置いていかれた。


「もっと早く」


「敵を見る」


「足を止めない」


厳しい。


だけど、怒鳴ったりはしない。


失敗すると、静かに理由を教えてくれるだけだった。


怖い人じゃない。


むしろ、不器用なんだ。


休憩時間、私は思い切って聞いてみた。


「どうしていつも一人なんですか?」


ルカさんは少し黙った。


「・・・その方が楽だから」


「本当に?」


「・・・」


長い沈黙。


そして。


「近くにいる人が傷つくくらいなら、一人の方がいい」


その言葉が、胸に刺さった。


ルカさんは強すぎる。


だから危険な任務ばかり任される。


だから仲間が怪我をする。


だから自分だけで戦おうとする。


そうやって、いつの間にか孤独になってしまったんだ。


その日の訓練が終わる頃。


後輩の一人が足をくじいた。


「いたっ・・・」


私は駆け寄ろうとした。


でも、それより早くルカさんが動いていた。


「無理するな」


しゃがみ込んで、


優しく足首を見る。


「少し冷やそう」


その声は驚くほど柔らかかった。


私は思わず笑ってしまう。


「やっぱり優しいじゃないですか」


ルカさんは少し困ったように目をそらした。


「・・・別に」


その様子を見ていた後輩たちも、


少しだけ表情が変わった。


「あれ・・・」


「ルカ先輩って・・・」


怖いだけじゃない。


そんな空気が少しずつ広がっていく。


帰り道、私はルカさんと二人で歩いていた。


夕焼けが長い影を作る。


「今日、みんな少し話しかけてくれましたね」


「・・・そうだね。」


「嬉しかったですか?」


ルカさんは苦笑した。


「嬉しい、なんて思っちゃいけないと思ってた」


「どうして?」


「強い人は一人で立つものだから」


私は首を横に振った。


「違います。」


ルカさんがこちらを見る。


「強い人だって、一人じゃ寂しいです」


「・・・」


「助けてもらってもいいんです。頼ってもいいんです。だって私たち、仲間じゃないですか」


その一言で、ルカさんの足が止まった。


夕日に照らされた横顔は、今にも泣きそうだった。


だけど、ルカさんは笑った。


本当に・・・本当に、小さく。


「・・・ありがとう」


それは私が初めて見た、金城ルカさんの素顔だった。


ルカさんは、最初は遠くで聞いているだけだった。


誰かが話しかけると、短く返事をする。


それだけだった。


だけど、その少しずつが、


いつの間にか当たり前になっていった。


自分から話しかけることは少ない。


でも、後輩たちも、少しずつ怖がらなくなっていった。


「ルカ先輩、お疲れ様です!」


「・・・お疲れ」


最初はそれだけ。


でも数週間後、


「ルカ先輩、一緒に帰りませんか?」


「・・・いいよ」


さらに時間が経って、


「ルカ先輩、この前教えてもらった動き、できました!」


「そう。・・・よく頑張ったね」


こんなふうに、変わっていった。


もちろん、厳しい訓練は相変わらずだったけれど。


私は思う。


本当に強い人は、誰にも頼らない人じゃない。


誰かを守りながら、誰かにも支えられる人なんだ。


あの日、私が橋を渡したつもりだった。


でも本当は、ルカさんが私に教えてくれた。


強さと優しさは、一緒にあっていいんだって。

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