25. OGたちの戦い
その日、出撃したのはOGのルカさんと、いろはさんだった。
自ら「後輩たちに戦い方を見せる」と申し出たのはルカさん。
その援護兼サポート役として、いろはさんが同行していたらしい。
いろいろ詳しい事情を知らなかったあたしは、その頃は「何を偉そうに!」なんて思っちゃったりしてたんだけど・・・。
かつて都市だった荒野。
そこに住む人々は既にみんな避難して、誰もいない。
その中央で、大鎌を肩に担いだルカと、その少し後方で杖を構えるいろはだけが敵を見据えていた。
二人の前には、新型機械兵が二体。
「いろは」
「はい!」
「あなたは絶対に前へ出ないこと。今日は"見せる"戦いだから」
「・・・はい」
少しだけ不満そうに返事をするいろは。
ルカは苦笑すると、大鎌を構えた。
「最近の若い子は、敵が強くなったって大騒ぎね」
「ルカさん、まだ高校生なんですからそんなオバサンみたいな言い方しなくても・・・」
「私にそんなツッコミ入れてくれるのはあんただけよ」
ルカは少し苦笑いする。
しかしそんな彼女も、内心ではいろはに救われていると感じることも少なくはない。
「ルカさん、来ます!」
いろはが言い終わるより前に、ルカの姿が消え、瞬時に敵の目の前に現れる。
次の瞬間。
ギィィン!!
新型機の捕縛チェーンが真っ二つに切断された。
さらに大鎌が一閃。
左腕が吹き飛び、続く斬撃で装甲が十字に裂ける。
敵の射撃は正確。
しかしルカは最小限の動きだけで全てをかわし、逆に距離を詰める。
「遅い」
大鎌が円を描く。
新型機は大きく吹き飛ばされた。
「やっぱり普通の敵じゃないですね・・・」
後方からいろはが分析する。
「ええ。でも、この程度なら問題ないわ」
ルカは右手を掲げた。
「グラビティ・アンカー」
紫色の魔法陣が敵を拘束する。
空間そのものが重くなり、新型機を完全に拘束する。
「捕まった時点で終わりよ」
大鎌が振り下ろされる。
新型機は両脚を切断され、完全に戦闘不能になった。
もう一体も逃げようとしたが、いろはの魔法が進路を塞ぐ。
「逃がしません!」
その隙を逃さずルカが一撃。
こちらも戦闘不能となった。
「さすがです!」
いろはが思わず笑顔になる。
しかし。
ルカは返事をしなかった。
「・・・ルカ先輩?」
大鎌を支えにするようにして立っている。
息が荒い。
額には脂汗。
「先輩?」
ルカはそっと自分の手を見る。
指先から、淡い魔力の粒子が静かに消えていく。
(・・・とうとう、来たのね)
魔法少女として、いつか必ず訪れる瞬間。
魔法を失う時。
まだ戦える。
でも、それほど長くはない。
ルカには、それが分かった。
「ルカ先輩!帰りましょう!」
いろはが駆け寄ろうとする。
しかし。
「来ちゃ駄目!」
鋭い声が戦場に響く。
いろはの足が止まる。
「でも!」
「命令よ!」
ルカは苦しそうな表情を隠したまま、新型機を見つめる。
「わたしは大丈夫」
「それより・・・この新型を絶対に逃がしちゃ駄目・・・必ず捕獲して」
「先輩・・・」
「この敵を調べられれば・・・後輩たちが助かる」
その一言で、いろはは全てを悟った。
ルカは、自分のことより後輩を選んだのだ。
「・・・分かりました」
涙をこらえながら、いろはは残る機体へ向かう。
逃走を始めた敵を必死に足止めする。
一方ルカは、最後に残った敵へ向き直った。
「さて・・・」
消えゆく魔力を無理やり絞り出す。
身体中が悲鳴を上げる。
それでも大鎌を握る手は震えなかった。
「後輩の前で・・・無様な戦いは見せられないもの」
巨大な魔法陣が展開される。
今までで最大の魔力。
「これで――終わり」
眩い一閃。
新型機は両腕と脚を失い、完全に機能を停止した。
その瞬間だった。
ルカの身体から光がふっと消える。
手にしていた大鎌も粒子となって崩れていく。
「・・・ああ」
ルカは静かに微笑んだ。
「間に合ったわね」
そこへ敵を拘束したいろはが戻ってくる。
「ルカ先輩!」
「早く・・・調べて」
ルカは座り込んだまま、新型機の胸部を指差した。
二人で装甲をこじ開ける。
そこには透明な円筒形のカプセル。
そして。
眠る、一人の少女。
白い魔法少女服。
色褪せたリボン。
「・・・!」
ルカもいろはも息を呑んだ。
任務中に消息を絶った魔法少女だった。
「生きてる・・・」
胸はゆっくり上下している。
だが身体中には無数の管が接続されていた。
心臓。
首筋。
手首。
魔力回路へ直接。
さらに透明な液体が、少女の身体から淡い光を吸い上げている。
「これは・・・」
ルカは震える手で液体を調べる。
魔力が反応する。
「エーテル・・・?これは魔力を吸い取る装置よ。本人の意思とは関係なく・・・」
少女から吸い上げられた魔力は、そのまま機械兵の動力部へ送られていた。
つまり。
「機械兵は・・・」
いろはが呟く。
「魔法少女を燃料にして動いてる・・・」
ルカは通信機を起動した。
「カンナ!聞こえる!?」
返事を待たず叫ぶ。
「敵の捕獲に成功。敵は魔法少女を生きたまま閉じ込めて、魔力を吸い続けてる!」
通信の向こうが静まり返る。
ルカは眠る少女を見つめた。
「行方不明になった子たちは・・・まだ生きてる」
その言葉は希望でもあり、絶望でもあった。
助けられるかもしれない。
しかし同時に――敵は今この瞬間も、どこかで多くの魔法少女を"生きた燃料"として使い続けているという、あまりにも残酷な事実を突きつけていた。




