22. 桃果と美咲
これは、あたしが後から聞いた桃果さんと美咲さんの戦いだ・・・。
「本当に行くの?」
出撃ゲートの前で、桃果さんが静かに尋ねた。
その声は優しかったけれど、親友の美咲さんには分かっていた。
本気で止めようとしてるんだ、と。
「もちろん」
美咲さんはいつものように短く答える。
「でも・・・ゲージは」
「足りる」
食い気味だった。
・・・いや、足りない。
けど、他に出撃できる人はいない。
魔法少女はローテーションを組んでいる。
理由は簡単。
マジカルゲージが満タンじゃないと、本来の力が出せないからだ。
だから今日は、本来なら桃果さん一人の日。
でも今回は違う。
新型の敵。
今までのガラクタとはまるで違う強さ。
司令室のモニターには、市街地を破壊しながら進む黒い機械兵の姿が映っていた。
「あの黒い敵は強力です。今までとはまるで違う・・・。二人で行ってください」
カンナさんの判断だった。
「了解です!」
桃果さんは決断した。
だけど、美咲さんは黙っていた。
・・・
「美咲」
カンナさんが呼ぶ。
「現在のゲージは?」
少しだけ間があった。
「八十」
嘘だった。
本当は半分もない。
それを知っていたのは、美咲さん本人だけだった。
「変身するよ!」
二つの光が夜空へ飛ぶ。
桃色と青。
いつもなら別々の日に街を守る二人が、今日は肩を並べていた。
「右お願い!」
「了解」
息はぴったりだった。
長年組んできたわけじゃない。
それでも実力者同士で親友同士。
言葉なんてほとんど要らない。
桃果さんが敵を引きつけ、
美咲さんが正確に急所を撃ち抜く。
一体、二体、三体。
ガラクタ相手なら問題にならない。
だけど。
「来る!」
黒い敵が一瞬で距離を詰めた。
「速い!」
ももかさんの攻撃を紙一重でかわす。
「こんなの・・・!」
そのまま腕を変形。
巨大な刃が振り下ろされた。
ギィン!!
美咲さんが受け止める。
「っ!」
重い。今までの敵とは比べ物にならない。
「桃果!」
「うん!」
二人で挟み撃ち。
爆発。
そして煙があがる。
「・・・倒した?」
違う。煙の中から赤い光。
「後ろ!」
美咲さんが叫ぶ。
桃果さんは振り向く。
間に合わない。
ドン!!
青い光が割り込んだ。
「美咲!」
敵の拳が、美咲さんを吹き飛ばした。
道路を転がり、ガードレールを突き破る。
「ぐっ・・!」
立ち上がる。
でも遅い。
「どうして防御魔法を・・・」
そこで、桃果さんは気付いた。
美咲さんの魔力が、急激に落ちていることに。
「まさか・・・!」
「まだ・・・大丈夫。攻撃に、魔力を回さないと、って思っただけ」
そう言って笑う。
だけど、その笑顔は青ざめていた。
ゲージ不足。
防御魔法の強度は著しく落ちていたのだ。
「撤退しよう!」
「ダメ。」
即答だった。
「ここで逃げたら、市街地に入る。」
敵の後ろには住宅街。
避難が終わっていない。
だから、美咲さんは飛んだ。
「美咲!」
青い光が敵を挑発する。
狙い通り、敵は美咲さんだけを追う。
「今!」
「はぁっ!」
桃色の魔力が敵の装甲を砕く。
しかし。
敵は倒れない。
逆に長い腕を伸ばした。
「しまっ・・・!」
ギシッ。
青い身体が掴まれた。
「美咲!」
敵はそのまま宙へ持ち上げる。
「ぐっ!?」
美咲は歯を食いしばる。
骨まで砕けそうな握力だ。
「離せぇぇっ!」
桃果さんの魔法が連続で命中する。
それでも敵は離さない。
「・・・っ!」
美咲さんは最後の力で魔法を放つ。
至近距離。
爆発。
敵の腕が一瞬だけ緩んだ。
「今!」
ももかさんは全力で美咲さんの腕を掴み、引いた。
しかし、抜けない。
ブチッ。
嫌な音がした。
「きゃあああっ!」
左肩が外れる。
さらに勢いのまま地面へ叩きつけられる。
左手首も不自然な方向へ曲がっていた。
「美咲!」
「走って!」
涙を浮かべながら叫ぶ。
「今なら倒せる!」
桃果さんは迷った。
助けるか、倒すか。
ほんの一瞬・・・その一瞬で、決断した。
「ごめん!」
最大出力で桃色の光が敵を貫く。
敵は大きくよろめく。
そして轟音。
敵は撤退を開始する。
もう、桃果さんに追うだけの力は残っていなかった。
戦いは終わった。
救護室。
「左肩脱臼。左手首複雑骨折」
医療スタッフが静かに告げる。
「命に別状はありません」
その言葉に、桃果さんはようやく息を吐いた。
ベッドの上で、美咲さんは苦笑した。
「勝った?」
「うん」
「なら、よかった」
「よくないよ!」
桃果さんの声が震える。
「どうして無理したの!」
美咲さんは少しだけ目を逸らした。
「・・・ごめん」
「ゲージ、足りなかったんでしょう?」
沈黙。
それが答えだった。
「もし死んでたら、あたし・・・」
「でも」
美咲さんは静かに言う。
「私しかいなかった」
その言葉に、桃果さんは何も返せなかった。
それは事実だったから。
司令室。
報告を聞き終えたカンナさんは静かに目を閉じる。
「戦力が足りない・・・」
現役だけでは限界。
新しい敵に対抗するには、もうローテーションなどと言っていられない。
そして彼女は決断する。
「魔法少女OG会へ連絡してください」
「え?」
「引退した魔法少女にも、応援を要請します」
こうして、かつて街を守った少女たちが再び集められることになった。
それが後に、結花たちも巻き込む新旧混成チーム結成の始まりとなるのだった。




