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20. 結花とミカエラ

ミカちゃんの戦い方は、まさに『一人要塞』という言葉がぴったりだった。


自分自身はほとんど動かず、周囲に展開したインフィニティビット――無数の光の球みたいな魔力兵器で空間そのものを支配する。


そこに近づいてくる敵は、次々と撃ち落とされていく。


ミカちゃん本人は、


「接近戦は苦手なんだよね」


なんて言っていたけど、正直言ってあの無数の光の玉に近づくこと自体が至難の技だ。


逆に、一定以上離れてしまうと迎撃する密度が下がってしまい、本来の力を発揮できないらしい。


つまり、ミカちゃんの最大の強みは、自分の支配する距離に相手を入れること。


その間合いに持ち込めば、とにかく圧倒的に強い。


ただし、弱点もある。


移動しながら魔法を使うこと。


飛行魔法と攻撃魔法を同時に使うこと。


防御を保ったまま最大出力の攻撃をすること。


そういう複雑な動きは苦手みたいだった。


だから、彼女は動かない。


自分の領域に入ってくる敵をすべて迎撃する。


だから、相手が逃げてしまえば追撃は難しいし、遠く離れた場所で戦っている仲間を助けに行くこともできない。


あくまで、自分が守るべき場所を完全に守り抜くタイプ。


第三コロニーでは、ミカちゃんが鉄壁の守りを固め、その間に仲間が攻撃するという戦い方をしていたらしい。


でも、今回は違う。


このコロニーには、あたし以外にその役割を担える仲間はいない。


それでも――。


「第三コロニー最強」


そう呼ばれていた実力は、やっぱり本物だった。


もちろん、戦い方が違うから単純な比較はできない。


それでも、少なくとも、あたしには桃果さんや美咲さんにも負けているようには見えなかった。


何しろ、重要な場所にミカちゃんを向かわせるだけで、戦況が大きく変わるのだから。


あたしがここへ来たのは、カンナさんの指示だった。


ミカちゃんの戦い方も、あたしがどうサポートしたらいいかも、すべてカンナさんから聞いている。


それに、今のミカちゃんの精神的なダメージも考慮されて、しばらくはあたしと常にコンビで行動することになったのだ。


このコロニーの魔法少女の中で、一番ミカちゃんと近しい関係にあるのはあたしに間違いないから。


そして、あたしもこれで見習いは卒業だ。


指令室でミカちゃんの戦いを見ていた人のほとんどはミカちゃんの本当の年齢を知らないから、みんなすごく驚いていたらしい。


同じ年だと思われて、コンビを組むことになったあたしとしては、このレベルの実力者と比べられることになるのは、ちょっと肩身が狭いけど・・・。


うーむ。


・・・と、そこまではいい。


問題は、こんなにも早くミカちゃんが実力を発揮することになった理由だった。


敵の数が、ものすごい勢いで増えていたのだ。


今までの体制では追い付かなくなったからこそ、ミカちゃんが戦っている。


あたしたち魔法少女が活躍する機会が増えることは、一見すると良いことみたいだけど、実際には違う。


戦いが増えているということは、それだけ平和ではなくなっているということだから。


「いくよ~っ! インフィニティビット!再展開!」


ミカちゃんの声と同時に、無数の光球が空間いっぱいに広がる。


まるで夜空に無数の星が生まれたみたいだった。


そして、その星々が一斉に敵へ向かう。


逃げ場なんてない。


範囲内に入った敵は、次々と光に包まれて消えていった。


これが、第三コロニー最強と呼ばれた魔法少女の力。


あたしが担当するのは、その隙を突いた攻撃。


「フレアスタークラッシュ!!」


あたしの『光の小太刀』が一閃する。


最後に残った敵を切り裂いた。


・・・まあ、正直に言うと。


ミカちゃんが何十体も倒したあと、あたしは最後の一体を倒しただけ。


しかも、その敵はミカちゃんの攻撃でかなりダメージを受けていたはず。


つまり、あたしはほとんどおまけみたいなもんなのでは?


あたし主人公なのになぁ・・・。


そんなことを考えていた、その瞬間。


「結花ちゃん、まだ気を抜いたらダメ! まだ動くよ!!」


ミカちゃんの叫び声。


次の瞬間、倒したはずの機械兵から、チェーンのような武器が飛び出した。


「うわっ!」


あたしは反射的に横へ飛ぶ。


ギリギリだった。


というか、たまたま動いた方向がよかっただけ。


完全に運で避けただけだ。


・・・まあ、運ぐらいはよくなくちゃね。主人公だし。


なんて、そんな冗談を言っていられる状況じゃなかった。


「・・・結花ちゃん」


ミカちゃんの声が低い。


「アイツ、とくにヤバいよ。今までの敵と全然違う」


正直、あたしには敵の強さの違いを完全には理解できなかった。


固くて速い。


それぐらいしかわからない。


でも、ミカちゃんが警戒している。


それだけで十分だった。


「ミカちゃんでも・・・キツい?」


あたしが聞くと、ミカちゃんは小さくうなずいた。


「いくらなんでも数が・・・ね。援軍を呼んだ方がいいかも」


そう言われて、あたしは手首の赤いブレスレットを開いた。


見習いを卒業した証として支給された通信装置。


今までは桃果さんと常に一緒だったから必要なかったものだ。


「カンナさん、聞こえますか? 結花です。ミカちゃんの救援に来てます。けど・・・強敵が出て、苦戦中です」


しかし、返事はなかった。


正確には――。


カンナさんの声は聞こえた。


でも、それはあたしへの返事ではなかった。


誰かと、かなり焦った様子で通信している。


「・・・あ、結花ちゃん? カナルだよ」


カナちゃんの声だった。


「今、お姉ちゃんは桃果さんと交信中で・・・桃果さんたちも強敵と戦っているみたい。援軍を送れる状況じゃないわ」


一瞬、嫌な予感がした。


「美咲さんは大怪我して、今は桃果さんが一人で戦ってる。危険なら、一旦退却して!」


カナちゃんの声は真剣だった。


向こうも、こちら以上に危険な状況なのだ。


「ミカちゃん、どうする?」


あたしは隣のミカちゃんを見る。


「・・・あたしは最後まで戦うよ」


ミカちゃんは苦笑した。


「って言うとかっこいいんだけどね。本当は、結花ちゃんたちと違って機動力がないから逃げ切れないだけ」


そして。


「だから、結花ちゃんだけ逃げて」


と言った。


「そんなのダメに決まってるじゃん!」


あたしは即答した。


「頼りないかもしれないけど・・・あたしはミカちゃんの相棒だから!」


本当なら。


一人だったら、絶対に逃げ出していた。


最後まで戦うなんて、口で言うのは簡単だ。


でも、勝ち目のない戦いで無理をすれば、ただ命を失うだけ。


そんな勇気が、自分にあるなんて思っていない。


それでもここに残る理由。


それは――。


ミカちゃんと一緒なら、なんとかなる。


そう思えたからだった。


「聞こえてた? カナちゃん。あたしたちは最後まで戦うよ!」


あたしはブレスレットに向かって、もう一度はっきりと言った。


カナちゃんは一瞬だけ黙り、それから静かな声で言う。


「だったら聞いて。今度の敵が今までと違う理由がわかったわ」


その一言で、あたしもミカちゃんも表情を引き締めた。


「敵は・・・魔法に対する耐性を持ってる」


「耐性・・・?」


思わず聞き返す。


「今までなら、魔法は当てた分だけ確実にダメージを与えられた。でも今回は違う。威力の一部を無効化されてる。つまり、生身で戦う魔法少女の方が圧倒的に不利になる」


なるほど。


だから、ミカちゃんの攻撃をまともに受けても立ち上がれたんだ。


もちろん、平然としていたわけじゃない。


効いてはいる。


でも、効き方がおかしい。


「それから・・・もう一つ」


カナちゃんの声が少しだけ低くなる。


「敵の目的の一つは、おそらく魔法少女の捕獲よ」


その言葉に、背中を冷たいものが走った。


捕獲。


つまり――殺すことが目的じゃない。


さっき飛んできたチェーン。


あれを思い出して、思わず身震いする。


そうか。


あれは仕留めるためじゃなくて、捕まえるためだったんだ。


もし敵が最初から殺すつもりだったなら、たまたま避ける、なんてありえなかった。


「だから近寄る時は特に気を付けて!」


通信はそこで途切れた。


急に、足が重く感じる。


さっきまで取り戻したはずの勇気が、音を立てて崩れていく。


怖い・・・ものすごく怖い。


でも、このまま立ち止まれば、それこそ終わりだ。


「結花ちゃん!」


ミカちゃんが優しく呼ぶ。


「まだ作戦はあるよ」


その一言だけで、不思議と少しだけ落ち着いた。


やっぱり実戦経験は全然違う。


「聞いて」


ミカちゃんは敵を見据えたまま説明する。


「あたしが一番困るのは敵の障壁」


敵を包む淡い光。


「だから結花ちゃんが先に障壁を切って。その一瞬だけ防御が消える。その隙に、あたしが最大出力で撃ち抜く」


なるほど。


さっきと違って、本体じゃなく障壁を狙う。


「わかった!」


これしかない。


あたしは空高く跳び上がる。


あたしの技、フレアスタークラッシュは、高く跳ぶほど威力が増す。


自分の脚力だけじゃ足りない。


重力で落下しながら加速して、一気に叩き斬る。


敵もそれを理解したのか、チェーンを射出してくる。


でも、今度は怖がらない。


怖いけど、目はそらさない。


タイミングだけを見極める。


「本日二度目のっ! フレアスタークラッシュ!!」


一気に急降下。


光の小太刀が、敵本体ではなく障壁だけを切り裂く。


「今だよ!」


あたしが叫ぶより早く、ミカちゃんは動いていた。


本当は、守りを解くのはまだ、怖かった。


だけど、今は一人じゃない!


ミカちゃんの勇気が、結晶になった!


インフィニティビットが守りを解いて次々と集まり、一つの巨大な光の輪を形作る。


さらに最後の一つだけが中央へ移動し、弓を引くように後ろへ下がる。


赤熱。


橙。


黄。


そして――眩しい青白い光。


周囲の空気まで震え始める。


「いっけぇぇぇぇっ!!」


ミカちゃんが両手を振り下ろした。


「フラッシングバスター!!」


青白い閃光が光の玉が集まった巨大なレンズを貫いた瞬間。


一本の光の柱が空間を切り裂いた。


鉄壁の守りを誇るミカちゃんが、その守りを全て捨てて打ち込んだ一撃。


轟音すら聞こえない。


光だけが世界を塗りつぶす。


次の瞬間。


敵の胸部には、直径一メートル以上はありそうな真円の穴が開いていた。


爆発ではない。


撃ち抜いたというより、その部分だけが世界から消え去ったような穴だった。


「・・・やった?」


思わず声が漏れる。


でも敵は、まだ動いた。


片腕を失い、装甲も焼け焦げ、それでもゆっくりと後退していく。


「追撃する!?」


あたしが叫ぶ。


返事がない。振り返るとミカちゃんが、その場に倒れていた。


「ミカちゃん!」


慌てて駆け寄る。


敵はその隙に姿を消していった。


追いかける余力なんて、最初から残っていなかった。


肩を揺すると、ミカちゃんはゆっくり目を開ける。


「・・・なんとか・・・追い返せたね」


苦しそうに笑う。


「ちょっとだけ・・・休ませて・・・」


「よかった・・・」


それだけ言うのが精いっぱいだった。


意識はある。


命に別状はなさそう。


それだけで胸がいっぱいになる。


あたしは急いでブレスレットを開いた。


「カナちゃん! 聞こえる!? 敵は撤退したよ! 大ダメージは与えたけど、倒しきれなかった! 桃果さんたちは?」


すぐ返事が返ってくる。


「もう一機も撤退したわ。桃果さんも無事よ。美咲さんも、重症だけど命に別状はないわ」


カナちゃんは少し考えてから続けた。


「たぶん二機は通信してた。どちらかが撤退を決めたから、もう片方も退いたんだと思う」


「そうなんだ・・・」


全身の力が抜けた。


その場にぺたりと座り込む。


足が震えていた。


「それにしても・・・」


あたしは逃げていった敵を見つめる。


「ロボットタイプが撤退するなんて、今まで一度もなかったよね」


ミカちゃんも静かにうなずく。


「敵も、失いたくない技術なんだと思う」


少し息を整えてから続けた。


「機械であるあいつらに魔法耐性なんて、普通じゃない」


「もし、この技術が量産されたら・・・」


その先を、誰も口にしなかった。


でも、頭の中には同じ光景が浮かんでいる。


今日みたいな敵が十機。


二十機。


百機。


そんな軍勢が押し寄せてきたら――。


魔法少女は、本当に勝てるんだろうか。


いや。勝てない。


そんな嫌な予感だけが、胸の中でどんどん大きくなっていく。


しかもあたしの悪い予感って、これまでの経験上、ほとんど外れたことがない。


いい予感はしょっちゅう外れるのにね。


・・・それって、なんか損してない?


そんな自分らしいツッコミを心の中で入れてみたけど、不安は少しも消えなかった。


怖すぎる・・・。


その時のあたしは、おねしょをせずに明日の朝を迎える自信がなかったのだった。

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