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19. コンビ結成

 宇宙で食い止められなかった敵の一部は、コロニー内に侵入した。


 おびただしい数。


 担当の魔法少女だけでは対応しきれない。


 圧倒的に人数が足りない中、ミカエラは自ら出撃を志願した。


 正直、まだ怖い。


 敗北のトラウマは、彼女の心を深く蝕んでいた。


 (だけど、守りを固めるだけなら・・・)


 それは、最前線。敵の数だって最も多い。


 しかしそこは、彼女が最も得意とする戦場でもあった。


「・・・まだ来るの?」


 ミカエラは、荒れた通路の中央で静かにつぶやいた。


 周囲には、倒された機械兵の残骸。


 けれど、その向こう側から、また新しい敵が現れる。


 一体・・・二体・・・瞬く間に増えて、すぐに十体をこえる。


 さらにその数は、時間が経つほど増えていく。


「さすがに、これは第三コロニーの時よりきついかな・・・」


 そう言いながらも、ミカエラの声に焦りはなかった。


 彼女は、かつて第三コロニー最強と呼ばれた魔法少女。


 そんな彼女は、いつしかこんな2つ名で呼ばれていた。


 ――《一人要塞》。


 仲間たちがそう呼んだ理由は、彼女の特殊な魔法にあった。


「インフィニティビット!」


 ミカエラが杖を掲げる。


 次の瞬間、空間に無数の光球が浮かび上がった。


 小さな魔力の球。


 しかし、その一つ一つが強力な防御結界を内包している。


 おびただしい数の光球は規則的に、そしてまんべんなく配置される。


 まるで星空そのものが近くに降りてきたような光景。


 それが、ミカエラの最大の魔法。


 インフィニティビット――


 攻撃魔法ではない。


 敵を直接倒す力でもない。


 その本質は――空間支配。


 ミカエラが制御する範囲に侵入したものは、すべての動きを監視される。


 攻撃は自動的に迎撃され、敵の進路は制限される。


 攻撃を防ぐだけなら、ほぼ無敵。


 だからこそ、第三コロニーでは、こう戦っていた。


 ミカエラが絶対防御の壁になる。


 そして、その後ろから仲間たちが攻撃する。


 敵はミカエラを突破できないから、仲間は安全に戦える。


 完璧な連携だった。


 だから彼女は。


 《一人要塞》たりえたのだ。


 しかし、今は違う。


「・・・」


 ミカエラは、自分の周囲を見渡す。


 誰もいない。


 守る仲間も、攻撃してくれる仲間も。


 ここには、自分しかいない。


 機械兵が領域へ踏み込む。


 瞬間、無数の魔力球が反応した。


 光の弾幕は、敵機の装甲を正確に撃ち抜いていく。


 一体、二体。そして三体。敵は次々と倒れる。


 けれど。


「・・・やっぱり」


 ミカエラは小さく息を吐いた。


「時間がかかる」


 これが、彼女の最大の弱点。


 この魔法を展開している間、ミカエラは空間そのものを支配している。


 その代わり、自分から打って出ようとすれば、防御に隙が生まれる。


 ほんの一瞬の隙。


 それでも、今の彼女にとっては、その一歩を踏み出すことが何より怖かった。


 どうしても、恐怖感が拭えない。


「第三コロニーなら・・・」


 ミカエラは一瞬だけ目を閉じる。


 仲間がいた。


「ミカエラ、そこお願い!」


「任せて!」


「今、隙ができた!」


 自分が守って仲間が攻める。


 それが彼女の戦い方だった。


 でも、今は。


「私、一人なんだよね・・・」


 その言葉を口にした瞬間。


 目の前の大型機械兵が動いた。


 今までの敵とは違う。


 装甲は厚く、動きも速い。


 そして。


「・・・また魔力反応」


 ミカエラの表情が険しくなる。


 敵から感じる力。


 それは、以前の機械兵にはなかったものだった。


 魔力。しかも、どこか嫌な感じがする。


 まるで誰かの力を無理やり利用しているような。


「・・・考えるのは後にしないと」


 ミカエラは杖を握り直した。


 敵がまた、領域へ・・・。


 光球が一斉に反応する。


 しかし、こんどの機械兵は止まらなかった。


「え?」


 初めて、インフィニティビットの防御を突破する敵が現れた。


 正確には完全突破ではない。


 防御そのものは成功している。


 だが、敵は自分の装甲を破損しながらも、強引に前へ進んできた。


「力押し・・・?」


 ミカエラは驚く。


 今までの敵の出力なら、まだかなり余裕があった。


 でも、こいつは違う。


 壊れることを恐れず、物理的な力だけでなく、魔法的な力をぶつけられているような・・・。


 そして奴らは何かを破壊するためではなく。


 何かを回収するためだけに動いているようだった。


 何か・・・?


 いや、目的はミカエラ本人だった。


「だったら・・・」


 ミカエラは決意する。


 一瞬だけ・・・本当に一瞬だけ。


 空間支配を解除する。


 彼女はこの瞬間が苦手だった。


 いまだに残る恐怖。トラウマ。


 でも・・・私は一人でも、戦える!


 彼女は自分を鼓舞し続ける。


「ここ!」


 インフィニティビットの光球が集まり、巨大な一つの光になる。


 守りの魔法を攻撃へ変換する。


 その瞬間。


 彼女の周囲の防御が薄くなる。


 敵はそこを狙った。


「しまっ――」


 別方向から接近していた小型機械兵。


 ミカエラが気付いた時には遅かった。


 しかし、光が走る。


 小型機械兵は吹き飛んだ。


「・・・危なかった」


 ミカエラは自分の前に展開された防壁を見る。


 誰かが助けてくれたわけではない。


 インフィニティビットが、自動的に残った防御領域で守ったのだ。


 でも、限界は近い。


「一人で全部守るのは・・・やっぱり無理かな」


 ミカエラは苦笑した。


 ゲイルに敗れた時もそうだった。


 自分は、誰にも負けないと思っていた。


 でも、魔法の国の少年一人に、完膚なきまでに敗れた。


 その記憶は、今でも消えない。


 怖い。


 また負けることが。


 また、大切なものを守れないことが。


 それでも・・・。


「私は・・・もう逃げない」


 ミカエラは前を見る。


「私は魔法少女だから」


 その瞬間。


 通信が入った。


「ミカちゃん!」


 聞き覚えのある声。


「カナちゃん!?」


「大丈夫!? 今そっちに――」


「来ちゃダメ!」


 ミカエラは叫ぶ。


「ここは危険すぎる!」


 だけど、あたしはすでに、到着していたわけで――


「ミカちゃん!」


 ここで主人公のあたしが、さっそうと登場したってわけ。


 ・・・なんて言えるようなカッコいい状況じゃないんだけど。


 むしろミカちゃんの強さと凄さを目の当たりにして、驚きでいっぱい。


 ミカちゃんの力になりたい・・・そう思った。


「他の娘たちは手が離せないけど・・・半人前のあたしなら、ミカちゃんを手伝える・・・ううん、一人前以上の力を発揮して見せる!」


 その言葉に、ミカエラの目が少しだけ潤む。


「・・・結花ちゃん・・・」


「だから、守ることだけ考えて!」


「でも・・・」


「攻撃する人が必要なんでしょ?」


 一瞬の沈黙。


 そして、あたしは続けた。


「今度は、あたしがその役目を引き受けるから!」


 ミカエラは、久しぶりに笑った。


「・・・そっか」


 光球が再び輝きを増す。


「じゃあ、お願い」


 第三コロニー最強。


 一人要塞。


 その名を持つ魔法少女は。


 初めて、一人で戦うことをやめた。


 そしてその時。


 敵の奥深くにあるものを、あたしたちはまだ、知らなかった。



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