15. ミカエラ・ファンタネラ②
「今日は転校生を紹介します」
翌日。
先生が教室でそう言った。
「第三コロニーから来ました、一条みかさんです」
もちろん、一条みかという名前は仮のものだ。
ミカちゃんは教壇の前に立つ。
すると、男子たちから一斉に声が上がった。
「おおっ!」
ミカちゃんは、めっちゃ美少女。
青い目で、金髪。
少し目がパッチリ大きくて、おでこが少し広めで、三つ編み。
このコロニーの感覚では珍しいタイプだけど、それが逆に新鮮に映ったらしい。
「よろしくお願いします」
ミカちゃんは元気よく挨拶した。
・・・あれ?
もしかして、わざと子供っぽくしている?
ミカちゃんが本当は中学生だと知っているあたしには、そう見えた。
「席は事前に話した通り、鈴原さんとカナルちゃんの間に入ってもらいます」
先生が説明する。
ミカちゃんの席は、あたしの後ろになった。
空いていた席ではない。
わざわざみんなが一つずつ後ろへ移動して、作ってくれた席だ。
先生、ありがとう!
ちなみに、あたしは一番前。
ミカちゃんがその後ろ。
そして、カナちゃんはさらにその後ろになる。
小学生の場合、後ろの席の方が人気だから、文句を言う子はいなかった。
――その時までは。
「おもらしコンビが一緒だ!」
誰かが言った。
予想していたことだった。
でも、実際に言われるとやっぱり腹が立つ。
しかも、誰が言ったのか分からないように言うところが余計に嫌だった。
「今言ったの誰よ!」
思わず立ち上がる。
すると、
「事実言っただけじゃん」
「みんなテレビで知ってるし」
「おー怖っ! こんな奴に魔法使われたら大変だな!」
男子たちが次々に言う。
反論したくても、何を言っても言い訳みたいになる。
そんな時だった。
隣に座ったミカちゃんが、そっとあたしの肩に手を置いた。
そして、首を横に振る。
「やめた方がいい」
そう言われている気がした。
確かに、その通りだった。
ここで怒鳴り返したら、相手の思うつぼだ。
あたしは悔しさを飲み込んで、席に座る。
「よく学校来れたよなー」
さらに追い打ちが飛んでくる。
耐える。耐えるしかない。
・・・でも、やっぱり、ムカつく!!
その時だった。
別の男子の声が響いた。
「お前ら、いい加減にしろよ。みっともないだろ」
その男子は立ち上がっていたから、誰が言ったのかすぐ分かった。
長瀬春樹。
普段はあまり目立たない男子だ。
今まではカナちゃんの隣の席で、席替えの結果、ミカちゃんの隣になった子だった。
「長瀬、転校生の前だからってカッコつけんなよ!」
「ハルキ、さては転校生に惚れたな!」
「ひゅーひゅー!」
今度は話題がそっちへ移る。
男子って本当に単純。
でも、おかげであたしへの攻撃は止まった。
ちなみに『ひゅーひゅー』は、指笛ができないから口で言っているだけ。
カッコ悪い。
まったく、小学生男子って・・・。
同級生に対してそう思うのは、自分でもどうかと思うけど。
この時ばかりは、そう思わずにはいられなかった。
先生が困り果てているのも、無理はなかった。
ちなみにうちのクラスの担任の片岡先生は、小学校から大学までずっと女子校だったらしい。
しかも新任。
つまり、男子小学生の扱いについては、ほとんど経験がない。
聞いた話では、このクラスはかなり大変だから別のクラスを担当した方がいい、という話もあったそうだ。
それでも先生は、
「大変なクラスだからこそ、自分が受け持ちたい」
と言って、このクラスを選んだらしい。
その気持ちはすごいと思うけど・・・。
残念ながら、今の状況を一人で収めるのは無理だった。
結局、授業時間に入っても騒ぎは収まらず、とうとう教頭先生が様子を見に来ることになった。
そして、一番騒いでいた男子たちを立たせることで、ようやく教室は静かになったのだった。
放課後。
帰り道で、ミカちゃんは春樹を呼び止めた。
「ねえ、長瀬春樹君。さっきは助けてくれてありがとう」
ミカちゃんは、自然な笑顔でそう言った。
あたしだったら、たぶんこんな風に素直にお礼を言えない。
恥ずかしいというか、照れくさいというか・・・。
でも、ミカちゃんは当たり前みたいに言う。
「別に・・・」
春樹は少し顔をそらした。
「ああいうの、ムカついただけだよ。それに・・・」
少し間を置いて、
「からかわれるの嫌だから、もう俺に話しかけるなよ」
と言った。
え?
は冷たいことを言っているようだけど、でも――
顔が真っ赤だ。
・・・照れてる??
クラスの男子たちが言っていた通り、ミカちゃんに一目惚れしたのかもしれない。
あたしでも分かるくらいだから、たぶん誰が見ても分かると思う。
でも、ここでからかったら、あたしもあいつらと同じになってしまう。
それもなんかムカつくから我慢。
「ごめんね。そこまで気が回らなかった」
ミカちゃんは素直に謝った。
「今度から気をつけるね」
なるほど。
これが中学生の対応なのか。
・・・参考になる。
あたしが参考にできるかどうかは別として。
そのまま二人の会話は終わると思った。
だけど。
ミカちゃんが立ち去ろうとした時、春樹の顔が少し寂しそうに見えた。
あたしはそれに気づいた。
でも、あたしが反応したら春樹が恥ずかしいだろうと思って、何も言わずにミカちゃんの手をそっと握る。
まあ、そんなことをしなくても、ミカちゃんはちゃんと分かっていたみたいだけど。
その証拠に、歩く速度がすごくゆっくりだった。
「おい、お前」
春樹は、たぶん勇気を全部使って、ようやくそれだけ言った。
もちろん、あたしたちが口を挟むなんて野暮なことはしない。
「なあに?」
ミカちゃんは少し大げさにおさげの髪をひるがえして振り返り・・・
そして、少しだけ首を傾けて春樹をじっと見る。
春樹は一瞬固まった。
でも、すぐに言葉を続けた。
「からかわれるのが嫌だから話しかけるなって言っただけで・・・」
少し顔を赤くしながら、
「お前のことが嫌いなわけじゃないからな」
と言った。
うん。
それは分かる。
あたしでも分かるくらいだから、ミカちゃんには当然分かっているはずだ。
そして、分かった上で――
「そうなんだ」
ミカちゃんは笑った。
「あたしに惚れると大変よ」
「え?」
「あたしの方が先におばさんになっちゃうから」
え?ちょっと待って!?
ミカちゃんそれ、年齢を隠している人が言って大丈夫なの!?
でも、春樹は別の意味に受け取ったらしい。
「そりゃ、そうだな」
まさか年齢を知ってる!?
って思ったけど、もちろんそんなわけがない。
春樹は続けた。
「俺は男だから、おばさんにはならない。おじさんになるんだ」
・・・。
あたしは言葉を失う。
小学生男子の理論って、たまにこうだよね。
間違ってはいない。
でも、何かが違う。
女子にはちょっと理解しにくい発想だ。
だけど、その妙な返しのおかげなのか。
二人の間の空気は、一気に柔らかくなった。
「ハルキ君」
「ん?」
「ちょっと場所、変える?」
ミカちゃんが言う。
「人が見てないところで話したいな」
そんなことを言われて、春樹が断れるはずもなかった。
「ホントに・・・ここに入るのか?」
ハルキが冷や汗を浮かべながら、ミカちゃんを見た。
ミカちゃんがあたしたちを連れてきたのは、ごく普通のファーストフード店。
だけど、小学生にとって学校帰りの寄り道はかなりハードルが高い。
校則で禁止されてるし、先生に見つかったら間違いなく怒られる。
「お金はあたしが払うから、心配しなくてもいいわよ」
ミカちゃんはさらっと言う。
でも、ハルキの冷や汗は引っ込まない。
「お前・・・意外と不良なんだな。」
「そうよ」
ミカちゃんはあっさりうなずいてから、少しだけ首をかしげた。
「嫌いになった?」
・・・。
こういうセリフが間髪入れずに出てくるなんて。
もしかして、ミカちゃんって魔性の女?
(いいえ、魔法少女です)
思わず心の中でセルフツッコミ。
「き、き・・・嫌いになんかなってねぇし!」
ハルキ、ものすごく慌ててる。
面白い。
・・・いや、本人は真剣なんだから笑っちゃダメか。
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