12. ターニングポイント①
不穏なニュースがカンナさんから伝えられたのは、それから少ししてのことだった。
他のコロニーにいる魔法少女たちが、次々に行方不明になっているというのだ。
あ、そういえば説明してなかったわね。
宇宙には、あたしたちのコロニーと同じようなコロニーがいくつか存在している。
『魔法の国』もその一つなんだけど、他のコロニーと比べて魔法技術が圧倒的に進歩している。
それから、『機械の国』は『朽ちた惑星』の地下深くにあると言われている。
大昔には地球と呼ばれていたその星は、遠いご先祖様までたどっていけば、すべての人類の故郷。
だけど今では、地表付近は人間が暮らせるような環境ではなくなっている。
どうしてそんなことになったのか、正確な理由はもう伝わっていない。
でも、人類の歴史はすでに何億年。
それだけ長い時間があれば、いろいろなことがあったとしても不思議じゃない。
話を戻すと、『機械の国』と『魔法の国』を除けば、ほとんどのコロニーはあたしたちのコロニーと似たようなものだ。
魔法技術では『魔法の国』には遠く及ばない。
科学技術では『機械の国』には遠く及ばない。
ただ、コロニーごとにモデルになった時代や場所が違うから、街の雰囲気なんかはまったく違うらしい。
そしてカンナさんは、それぞれのコロニーに魔法の技術を伝えていた。
自分たちのコロニーを、自分たち自身で守れるようにするために。
各コロニーの魔法少女ということは、桃果さんや美咲さんと同じ立場の人たちだ。
その人たちが行方不明・・・。
襲われて、敗れて、連れ去られた・・・?
そう考えたくはない。
だけど、普段それほど交流のない複数のコロニーで、同じような事件が起きている以上、同一犯の仕業と考えるのが自然だった。
『機械の国』の新兵器なのか。
それとも・・・。
ううん。
でも、仮にそうだったとしても桃果さんなら大丈夫!
桃果さんは最強!
桃果さんは無敵!!
なんたって、みんなの憧れの魔法少女なんだから。
・・・って、あたしは思っていた。
だけど、その時点ですでに、正義を守る魔法少女としての考え方は根本から間違っていたのだ。
桃果さんに頼ればいい。
桃果さんなら何とかしてくれる。
そんな考えを持っていた時点で。
そして――
あたしは、一人でいる時にそいつと遭遇してしまった。
「おおっと、ごめんね。色が似ていたから間違えちゃったよ・・・こんなに弱っちいなんて、おかしいとは思ったんだけどねぇ・・・」
くう・・・。
こいつ、あたしが足腰立たなくなるまで攻撃しておいて、この言い草!?
体に大きな怪我はない。
それは悔しいけど、こいつが手加減していたからだ。
何か言い返してやりたい。
でも、意識がもうろうとしていて、何を言うかすら考えがまとまらない。
こいつは『魔法の国』のゲイルと名乗った。
たぶん、あたしと同じくらいの年齢の男子。
あたしたちのコロニーでは、男子は魔法を使えない。
だから油断した・・・と言えばそうなのかもしれない。
でも、それはただの言い訳だ。
たぶん、何度戦ったとしても、たぶんあたしに勝ち目はなかった。
ゲイルの目的は桃果さん。
あたしが襲われたのは、人違いだったらしい。
とはいえ、あたしの変身後の姿は『ミニももか』だから、完全な見間違いというわけでもない。
「じゃあ、せっかくだから君には、桃果をおびき出すための人質になってもらうよ」
その言葉を聞いた瞬間――
あたしの体は、急激に小さくなった。
あたしが元から小さいとか、そういうレベルじゃなく・・・。
小人・・・いや、それよりももっと小さくされてしまったのだ。
ゲイルの親指と人差し指で、簡単につまみ上げられてしまうくらいに。
げげ、これはヤバすぎる!
「ちょっと!あたしをどうするつもりよ!」
人質というからには、いきなり殺されることはないと思いたい。
でも、実際に指でつまみ上げられている恐怖は、想像以上だった。
「じゃあ、桃果をおびき出す準備をするから。この中に入っててね」
!?
驚く暇もなかった。
あたしは筆箱のような入れ物の中にポイと放り込まれ、そのままフタを閉じられてしまった。
筆箱みたいな入れ物――そう思ったけど、それは本当にただの筆箱だった。
鉛筆を固定するための樹脂製の輪っかが6つ並んでいて、そのうち2つには鉛筆、1つにはシャーペン、もう1つには赤鉛筆が差してある。
残り2つは空だった。
そのほかにも、消しゴムのカスを手で練ったものや、折れた鉛筆の芯。
かわいくない怪獣のシールまで貼られている。
まさに『ズボラな男子の持ち物』という感じが満載だった。
パタン、と独特な音を立てて閉じられたフタは、強力なマグネットで固定されているらしい。
小さくされてしまったあたしの力では、とても開けられそうになかった。
「あなたも、捕まっちゃったの?」
筆箱の中に差し込む光は、わずかに歪んだフタの隙間から入ってくるだけだった。
だから気づかなかったけど、どうやら先客がいたらしい。
あたしは目を凝らした。
少しずつ暗さに慣れてくると、その子もあたしと同じように魔法少女の姿をしていることがわかった。
「ゆ・・・油断しただけよ!男子の魔法使いなんて、あたしたちのコロニーにはいないから・・・」
そう言いながら、あたしは強がった。
「でも、なんとか脱出したら、あんなやつボコボコにしてやるんだから!」
口ではそう言ったけど、本当は怖かった。
その証拠に、自分でもわかるくらい声が震えていた。
きっと、この子にも気づかれていたと思う。
それでも彼女は、あたしの強がりを指摘したりはしなかった。
代わりに、
「わたしはミカエラ・ファンタネラ。第三コロニーの魔法少女よ」
そう名乗った。
「あたしは鈴原結花。ゆかって呼んでいいよ。それから、ミカエラさんのこと、ミカちゃんって呼んでもいい?」
その時のあたしは、ミカエラちゃんが自分と同じくらいの年齢だと思っていた。
背の高さも、小学3年生の中でもそんなに大きくはないあたしと大して変わらなかったし、顔立ちも、あたしのクラスにいてもまったく違和感がない感じだった。
彼女自身もそれがわかっていたのか、年齢については何も言わず、
「うん、いいよ」
とすぐに了承してくれた。
「ねえ、ミカちゃん。あたしと一緒にアイツをやっつけようよ!」
あたしは提案した。
「さっきは強がっちゃったけど・・・やっぱり一人じゃ自信ないし。でも、二人で力を合わせれば、きっとなんとかなるよ!」
正直に言えば、二人で協力して不意打ちを狙うつもりだった。
正義の魔法少女としては、正々堂々戦うべきなのかもしれないけど、今はそんなことを言っていられる状況じゃない。
「ふうん。いい考えだねぇ」
突然、聞き覚えのある声が響いた。
「でも、この娘はもう戦えないよ。負け犬だからね」
!?
あたしたちの目の前に、ゲイルが現れた。
どうやら、会話を聞かれていたらしい。
「くぅっ!男の盗み聞きなんて、趣味悪いわよ!」
あたしは、できるだけ怖がっていることを悟られないように言い返した。
本当は、ミカちゃんに協力を持ちかけた時点で、二人で不意打ちする気満々だった。
でも、今は筆箱の中に閉じ込められている。
ここにゲイルが来たということは、彼自身も小さくなっているということだ。
あたしたちを小さくできるくらいなんだから、自分を小さくすることも簡単なのだろう。
あたしは警戒して身構えた。
だけど、ミカちゃんはただ怯えて立ち尽くしているだけだった。
その怯え方は、普通じゃない。
ゲイルはあたしには目も向けず、ミカちゃんの方へ歩いていく。
だから、あたしはミカちゃんをかばうように二人の間へ割って入った。
「最初からザコの君には、人質としての価値しかないんだ」
ゲイルはそう言った。
「ねえ、この娘に教えてあげなよ。第三コロニー最強の魔法少女だった君がさ」
・・・え?
みかちゃんが、第三コロニー最強?
すごいじゃん!
だったら、やっぱりこいつを倒せるんじゃ――。
一瞬だけ期待した。
でも、みかちゃんの尋常じゃない怯え方を見れば、それが無理だということはすぐにわかった。
ゲイルは握った拳を裏返すと、ミカちゃんのお腹のあたりへグッと押し当てた。
「たしか、この辺だったよね。装甲が薄そうなところ」
そして、意地悪そうに笑う。
「ここに一発叩き込んであげたんだっけ。そしたら、どうなったんだっけ?」
ミカちゃんの顔から、みるみる血の気が引いていった。
そして――
とうとう泣き出してしまった。
「・・・やめて・・・」
震える声。
その瞬間、みかちゃんの魔法少女の衣装の下から、小さな音が響いた。
恐怖のあまり、おしっこを漏らしてしまったのだ。
「ははは」
ゲイルは笑った。
「実演までしてくれなくてもいいのに。また漏らしちゃったのかい?第三コロニー最強さん?」
ゲイルは、言葉だけでミカちゃんを追い詰めていく。
それに合わせるように、ミカちゃんの震えもどんどん大きくなっていった。
そしてとうとう、足に力が入らなくなったのか――
自分が漏らしてしまった水たまりの中へ、ビチャッという音を立てて座り込んでしまった。
ミカエラの登場に合わせてキャラクターイメージ(挿絵)を更新しました。




