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11. 朝霧美咲

昼休み。


校庭では男子たちがサッカーをしていた。


その輪から少し離れた場所で、美咲は鉄棒に寄りかかりながらぼんやりと空を見上げていた。


(・・・まだ話してない)


桃果とは、あの日以来ほとんど口をきいていない。


教室でも席が近いのに。


目が合えば、お互いすぐ逸らしてしまう。


(別に謝ればいいだけじゃん)


そんなことは分かっている。


けれど。


(・・・なんであたしからなのよ)


意地だけが邪魔をしていた。


そんな時だった。


「やっぱ男の方が強いよな!」


校庭から聞こえた大きな声に、美咲は顔をしかめる。


「あいつら女子なんかすぐ泣くし!」


「ケンカも男の方が強い!」


男子たちは笑い合っている。


(またそれ・・・)


悔しい。


確かに、変身しなければ腕力ではかなわない。


運動だってそう。


でも、だからと言って。


(だからって、負けっぱなしなんて嫌!)


胸の奥がもやもやする。


魔法を使えば、私たちの方がずっと強い。


でも、その気持ちを晴らすためだけに魔法を使うなんて。


そんなことは絶対に許されない。


それだけは、美咲にも分かっていた。


その瞬間だった。


――ズン。


地面が揺れた。


「な、なんだ!?」


校庭の中央に黒い光が走る。


空間が裂ける。


そこから現れたのは、銀色の装甲をまとった機械兵だった。


「きゃあああ!!」


子どもたちが悲鳴を上げて逃げる。


だが。


「うわっ!!」


さっきまで「男の方が強い」と笑っていた男子が転び、逃げ遅れた。


機械兵が腕を振り上げる。


(・・・)


美咲の足が止まる。


(男の方が強いんでしょ?だったら、自分で何とかすればいいじゃない)


そんな意地悪な考えが、一瞬だけ頭をよぎる。


さらにもう一つ。


(桃果がやればいいんだ)


桃果は敵を倒したことがある。


美咲は桃果に先を越されたことが悔しくてそう思ってしまった。。


後から考えればそれは、確かに嫉妬の気持ち。


だけどその時、少し離れた場所で桃果が立ち止まっていた。


ペンダントを握りしめたまま動けない。


(・・・)


美咲は思い出す。


桃果はこの前、半人前なのに一人だけで変身したことで司令官のカンナに厳しく叱られていた。


また勝手に変身したら、今度はもっと怒られるかもしれない。


「どうしよう・・・」


桃果が小さくつぶやく。


その姿を見た瞬間、美咲は駆け出していた。


優等生の桃果じゃなくて、あたしが叱られたらいい。


「桃果!」


「えっ?」


美咲は桃果の手からペンダントをひったくる。


「み、美咲!?」


「今回はあたしがやる!」


「でも!」


「今はケンカしてるんだから、止めないで!」


勢いのままペンダントを握りしめる。


「ミニかんな!変身!」


光があふれた。


ミニかんなになった美咲が地面へ着地する。


機械兵はこちらを向いた。


(・・・来る!)


次の瞬間。


ドンッ!!


強烈な一撃で吹き飛ばされる。


「くっ・・・!」


地面を転がる。


息が詰まる。


(こんなに強いの!?)


桃果は、こんな敵を一人で倒したのか。


胸の中に、初めて尊敬が湧いた。


(・・・すごい)


悔しい・・・でも、本当にすごい。


(でも、だからこそ負けたくない!)


立ち上がる。


何度倒されても。


何度吹き飛ばされても。


「右!」


桃果の声が飛ぶ。


「えっ!」


美咲が反射的に横へ飛ぶ。


その瞬間。


機械兵の攻撃が空振りした。


「今!」


桃果が叫ぶ。


「胸の赤いところを!」


美咲は全力で跳び上がる。


「はあああああ!!」


青い光をまとった拳が赤いコアを貫いた。


ピシッ。


機械兵に亀裂が走る。


次の瞬間。


ドォォォン!!


爆発とともに敵は崩れ落ちた。


静寂。


美咲はその場へ座り込む。


肩で大きく息をしていた。


「美咲ちゃん!」


桃果が駆け寄る。


「すごかったよ!」


満面の笑みだった。


「初めてなのに、一人で勝てたんだよ!」


その笑顔を見て。


美咲の胸が少しだけ温かくなる。


「・・・ありがと」


自然に出た言葉だった。


「え?」


「助けてくれて」


桃果は照れたように笑う。


「ううん。」


その時だった。


(・・・あ)


二人とも同時に思い出す。


(今、ケンカ中だった)


空気が止まる。


美咲は無言でペンダントを差し出した。


「・・・返す」


ぶっきらぼうな一言。


桃果も静かに受け取る。


「・・・うん」


それ以上、何も言えない。


本当は、謝りたい。


仲直りもしたい。


でも、二人とも言葉が出なかった。


少し離れた場所では、助けられた男子が頭をかきながら立っていた。


「べ、別に・・・」


照れくさそうに顔を背ける。


「助けてくれなんて言ってねえし・・・」


美咲は苦笑する。


そして腰に手を当てて言った。


「助けてなんて言われなくても!」


男子が振り向く。


「みんなを守るのが魔法少女だから!」


言い切ると、美咲はぷいっとそっぽを向いた。


男子は何も言えなかった。


さっきまで「男の方が強い」と笑っていた自分を、命がけで守ってくれた女の子。


その小さな背中が、今は誰よりも大きく見える。


彼はただ黙って、美咲の後ろ姿を見つめていた。


その瞳は、さっきまでの強がりとは違う。


まるで、本当に憧れの人を見つめるような、まっすぐな眼差しだった。

次回、結花大ピンチ。新たな魔法少女が登場するも、彼女は深いトラウマを抱えていて…

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