9 「うちの子をよろしくね」 【side:シャラフィーヤ】
「シャラ、アシューくん」
だがその幸せは長くは続かなかった。
部屋をノックする音と父の声。
私は急いで起き上がれば、部屋の扉が開かれる前に衣装部屋から出て扉を閉める。
きっとロイノードル家が帰ろうとして、アシューを探しているんだと気づいた。
もう取られたくなくて、隠す。
扉が開き、ロイノードル夫妻とミシュー、私の父がやってきた。
「シャラ?…アシュー君は一緒じゃないのか?」
「…………知らない」
私は顔を逸らし嘘をつく。
だが、4歳のする事は大人にはお見通しだった。
父親ならなおさら、私の行動が予測できたようで…
「まさか…」
と呟けば部屋の中を探し回る。
「かくれんぼ?ミシューも探す」
ロイノードル当主の抱っこから下りたミシューも部屋を見て回っていた。
そして父が衣装部屋の取ってに手をかける。
私は慌てて父の足にしがみついた。
「そ、そこには何も無いよ!」
「ほほう…ここだな。」
そんな反応すれば、正解だと言っているようなものだ。
父は扉を開ければスヤスヤ眠るアシューを見てため息をついた。
父の横からひょこっと衣装部屋を見たミシューが目をキラキラさせながら中へと入り、くるくる回る。
「すてきっ!アシューの好きなキラキラがいっぱい!ぱぱー、ままっ!みて!アシュー秘密基地で寝ちゃってる!」
「あら、ほんとねぇ」
「遊び疲れて眠ったか?よほど楽しかったんだな」
ミシューとロイノードル夫妻がアシューの傍に行く傍らで、私はじっと見つめてくる父から顔を逸らしていた。
「……」
「……」
そんな私と父の雰囲気とは裏腹に、衣装部屋の中ではほのぼのとした雰囲気が流れている。
「まるで秘密基地みたいだな」
「こんなにキラキラした空間…アシュー絶対好きよね…欲しがったらどうしましょう?」
「ははっ!その時はシャラフィーヤくんに責任を取ってもらおうじゃないか。キラキラ光る屋敷でも作ってもらって、アシューを住まわせてもらわないとな」
その言葉に私はピクっと反応し、父は慌てて夫妻の方を振り返る。
「ばっ…!!」
キョトンとして首を傾げるロイノードル家当主を恨めしそうに父は睨みつけていた。
私はロイノードル夫妻へキラキラした瞳を向け
「うん!僕責任もってアシューを幸せにするよ!!」
キラキラの屋敷に住まわせてあげる為に、もっともっと魔法が使える様に頑張るっ!!
「あらあら、かわいいわね」
「その時はうちの子をよろしくな、シャラフィーヤ君」
「うん!」
「おまえら…うちの子が本気にするだろ…」
この時、ロイノードル夫妻が本気だったのか冗談だったのか、天然なのか…。
…わからないが恨めしそうに、じとっと見つめる父にほのぼのした微笑みを返していた。
それからまた父は私をアシューに会わせてくれなくなった。
剣や勉学のご褒美、誕生日プレゼントに何が欲しいか聞かれれば、私はいつも同じものを欲した。
「アシューが欲しい」
「………だから、アシュー君は物じゃないんだぞ、シャラ…」
「分かってる」
「なら、欲しいと言って貰えるものじゃないのも分かるな?」
「でも、欲しいんです。」
むぅ…と小さく頬を膨らませる。
私と父のやり取りを見ていた母は扇子で口元を隠しながら小さく笑い声を立てた。
「ふふっ、もういいじゃないアナタ。こんなに何年も一途に思っているのだから」
椅子から立ち上がった母は私の前にしゃがみ、髪を優しく撫でてくれた。
「シャラは私に似ちゃったのね。一度欲しいと思ってしまったらもう止められない気持ち、分かるわ」
「お母様も、そういう経験あるの…?」
母の笑みが深くなる。
「えぇ。お母様も、お父様が欲しくてたまらなかったから、手に入れたのよ。」
「何言ってるんだ、私がオマエに惚れてアプローチして婚約までいったじゃないか?」
一度後ろを向いて父と視線を合わせた母。
父はその視線の意味が分からず、首を傾げた。
私の方に顔を戻した母はまたにこりと微笑み
「こんな風に、周りにも…相手にすら悟らせないのが賢いやり方よ。シャラは賢いからきっと私以上に上手く出来るわ。」
「……?」
父の不思議そうにする表情と母の言葉にピンときた私は深く頷いた。
「分かった!僕頑張るよお母様!」
「ふふっ、ねぇアナタ。こんなにシャラが望んでいるのだから婚約の打診くらいはしてあげてもいいんじゃないかしら。」
「しかし…アシュー君は私の友人の子で…もしシャラが欲しいあまりに犯罪を犯さないかと…心配なんだよ。」
なんせ、悪気なく無意識にした前科があるのだ。
それが父には心配だった。
「あら、シャラに犯罪を犯して欲しくないならますますアシュー君にはシャラの物…コホンッ…傍に居てもらわないと。アシュー君が他の子と結婚なんてしたら………ねぇ?
ふふっ、ほら見てよ、そういう話をしただけで、シャラが怖い顔をしているわ」
この時どんな表情をしていたか分からないが、父親の顔が真っ青になっていたのは覚えている。
「……わ、わかった。ただし、アシュー君の意思は尊重するんだぞシャラ、それだけは約束してくれ」
「!!はいっ!!絶対約束します!!ありがとうお父様!!」
そうして母の力添えもあって父はしぶしおぶ折れ、婚約を前提とした顔合わせの機会をくれた。
まずは、アシューと顔合わせた日に光魔法で自分の周りをキラキラさせてみた。
結果は大成功でアシューは私にとても興味と好感を抱いてくれた。
最後に会った時アシューはまだ二歳だったから、私の事は忘れてしまっていたが、そんな事は些細な事。
これから、沢山二人の思い出を作りながら、アシューに私を好きになっていって貰おうと思っていた。
……思っていたのだが、予想外の変化があった。
私の心境はアシューと過ごす時間が積み重なる事に変わっていった。
アシューと顔合わせをした日までの私は、ただアシューが“欲しかった”
小さい子が、おもちゃやお菓子を欲しがるソレに近い気持ちだったのだ。
でも、アシューと過ごすうちに私はアシューが愛しくてたまらなくなり恋心が芽生えたのだ。
アシューを一言で表すなら“自由”
剣術も教養も全力で取り組み、
キラキラした物が好きだから、それを身につけるのに相応しい身体や姿でいたいんだと、ボディーケアにも抜かりなく、
変な大人に連れていかれそうになった時は私が助けたのだが、自分の無力さに大泣きして「誰よりも強くなるんだ!!」と宣言していた。
…その通り、本当に強くなってしまうのだからかっこいい。
「大丈夫だよ、アシューのことは私が守ってあげるから」
と言った事もあるのだが、頬を赤く染めたアシューに
「さ、サンキュー…なら、フィーは俺が守るからな」
と、男前な返しをされてしまった。
アシューは守られるだけのお姫様になる気はないようだ。
守られるだけのカゴの鳥でいてくれたら…ずっとキラキラなお屋敷で囲って、誰にも合わせず私だけのアシューにできるのに…
そんな事、アシューは望んでいないと分かっている。
それをしてしまえば嫌われてしまうだろうな…。
それから、アシューが私との婚約を望んでくれた。
床に寝そべって大声でだだをこねたらしい。
それほど私を望んでくれたと聞いた時は本当に嬉しかった。
私が一方的にアシューが好きで、アシューが手に入るなら、彼が私をどう思おうがどうでも良かったはずなのに…
相思相愛って…こんなに幸せな気持ちになるんだ…
婚約者になってからはさらにアシューを溺愛した。
アシューが私をみてくれるように、剣術と体術を鍛えた。
その甲斐あってアシューは私と模擬戦をするのをとても楽しんでくれた。
贈り物も沢山した。
でも、
「俺の身体ひとつしかないから、全部身につけられない…フィーから貰ったの全部好きだから全部付けたいのに…」
と泣いて困らせてしまったらしい。
…私がプレゼントしたものを全て気に入ってくれているのは嬉しい。
が、泣かせたくはないので、アクセサリーは誕生日にだけ、と自分で自分に制約をかけた。
アシューは本当に私が贈ったものを大切にしてくれていて、誰になんといわれようと何年も同じアクセサリーを付けてくれている。
そんなところも愛しくてたまらない…。




