10 嫉妬 【side:シャラフィーヤ】
あれは私が10歳くらいの時だった。
ある日、アシューが彼の好みとは違う万年筆を持っていた。
珍しいな…と思い聞いてみると、
「これ、友達がプレゼントしてくれたんだ!」
と、嬉しそうに話してくれた。
「へぇ……」
嬉しそうに、だ。
その言葉と表情に私は…アシューが他の人間からマーキングされたような…すごく不愉快な気持ちになった。
今まで気にならなかったが、アシューが使うもの、アシューの目に入る物の中には私以外の人から貰ったものや与えられた物が沢山ある。
毎日アシューの視界に入り、たまに大切にアシューに触られる…。
当たり前なのだが、それが凄く不快で…全て消して、全て私が与えたくなった。
ずっと私を見てほしい。
考えて欲しい。
他の人間を彷彿させるものを見て、その人を思い出すなんてしないで欲しい。
他人からの物がアシューの傍にあるのが許せなかった。
私は、アシューが他の人から貰ったものを大切にする姿に酷く嫉妬してしまうらしい。
それに気づいた出来事だった。
それからすぐに、お揃いの万年筆を買ったらアシューは喜んでお揃いの方を使ってくれた。友人から貰った万年筆が引き出しにしまわれて数年後、アシューが完全に忘れた頃にこっそりとそれは処分した。
そんな自分の気持ちに気づいてから、洋服、下着、訓練着、靴下、靴、カーテン、万年筆、インク、棚、イス、髪を結えるリボン、絨毯、ベッド、枕、ティーセットにカトラリーまでありとあらゆる物をプレゼントし、アシューの周りを少しづつ私で染めていった。
他から与えられた物は少しずつバレないように処分しようと思っていたのだが、私がそんな事しなくてもアシューが自ら私が与えたものと交換して飾ったり使用してくれた為、万年筆以降する事はなかった。
20歳になった今ではアシューの部屋とアシューが身に付ける物は私がプレゼントした物ばかり。
アシューは気づいているのか、それともアシューも私の物で囲まれる事を喜んでくれているのだろうか…。
どちらかは分からないが、アシューがまったく嫌そうではないので、私は今日もアシューへのプレゼントを見繕う。
深い青の生地に金の刺繍が施された礼服を彼は喜んでくれるだろうか。
近々あるパーティーで、私は王女様の護衛を王女様から命じられてしまった為、アシューと参加する事が叶わない。
アシューの傍に居られない代わりに、私の色を纏わせて牽制する。
パーティーで私と王女様が一緒に居る姿を見て、アシューが可愛い嫉妬をしてくれるのは嬉しいが…
私もまた、他の人とアシューが話している姿を見ると嫉妬してしまう。
アシューの嫉妬は、可愛い。
普段会う時も綺麗にしているが、王女様と居る所を見られた日の次に会う時は、飛び抜けて美しくなるのだ。特別な日並にバッチリ化粧をして髪型も凝っている。
そして…
「なぁ、俺綺麗?」
「フィー気に入ってくれるかな…」
「これでフィーの視線独り占め出来るよな…?」
と、メイド達に話しているのだ。
それをたまたまこっそり聞いてしまった時は、あまりの可愛さに悶えた。
表情には出なかったが、暫く固まってしまった。
いつも以上に美しい婚約者。
そんな人が腕に絡みついてピットリ引っ付いては、私の褒め言葉をソワソワして待つのは更に可愛くて…勿論、アシューが真っ赤になって離れて行こうとするくらい褒め殺している。
「もういいっ!!」と言われても離さないし褒め続けたら、いつも最終手段で唇に唇を押し付けてキスで口を塞いでくる。
これでは話せなくなるから、褒めるのは終了だ。
ここまでのやり取りが楽しくて仕方ない。
その最終手段の口付けも欲しくて褒め続けているだなんて、アシューは気づいてないんだろうな…。
対して私の嫉妬はドロドロとしてどす黒く醜い。
他の人と話して欲しくないどころか、剣の訓練で誰かと剣をぶつけ合うのも、化粧や服を着替える際に使用人やメイドが彼に触れるのも、彼が誰かに微笑むのも…嫌でたまらない。
相手を消したくなるし、アシューを閉じ込めて誰にも見せたくないという願望は出会った時から当たり前にある。
…これが異常な願望だと理解していた。
だから代わりに、別の事で嫉妬を消化している。
他人と話しているのを見て嫉妬した時は、二人きりになったタイミングでアシューを人目につかない場所へ連れていき、他の人に話しかけたその口を舌が絡み合う深い口付けで塞ぐ。
「フィー…?…んんっ…!…」
武にすぐれたロイノードル家の息子であるアシューが息も絶え絶えになるほど濃厚で長い口付けを…
「ハァッ…ハァッ…ふぃー…まっ…んんっ!!」
「愛してる、シュー…」
他人の言葉を聞いた耳は、舌を挿れて綺麗に拭き取る。
私以外の言葉をアシューの耳に残したくない。
念には念を入れて、耳元で甘い言葉と愛を沢山囁いて私の声と言葉で上書きして徹底的に相手の声と言葉を消す。
勿論両耳に…つまり、なかなか終わらない。
こんなにたっぷりと三箇所愛されたアシューは、私が満足して唇を離した時には身体を桃色に染めて情事後の様に艶かしい姿になっている。
潤んだ瞳と濡れた唇から零れる熱い吐息…いつもベッドまで連れて行きたくなるよ。
「フィー…も…やりすぎだっ…」
「ごめん…嫌だった?」
眉尻下げて申し訳なさそうに小首を傾げて聞けば、アシューは悔しそうに見つめてきた後、プイッと顔を背ける。
「…………嫌じゃ、ない…」
小さく呟く唇。
羞恥で赤くなった耳と項。
あぁ、ほんとに可愛い…
嫉妬の感情が居座るスペースが皆無になるほど、胸の中は愛しい気持ちで満たされる。
私の醜い感情を産むのも消してくれるのもアシューだけだ。




