11 ロイノードル家、双子が喧嘩した日【side:シャラフィーヤ】
それは何の変哲もない朝だった。
今日もいつも通りの一日になるだろうと思っていたら…ロイノードル家の騎士が馬を走らせ慌ててやってきた。
その緊迫した雰囲気からただ事ではないと気を引き締めたら、告げられた言葉は「兄弟喧嘩」
「・・・」
私とリンサーラはお互い顔を見合せてまた騎士へと視線を戻した。
「何事かと思ったら…」
「兄弟喧嘩くらい、あの二人ならよくしているではありませんか?」
リンサーラが頬に手を当て小首を傾げる。
この騎士はあまり見た事が無い。
もしかしたらまだロイノードル騎士団に入団したばかりで二人の喧嘩を初めて見たのかもしれない。
「大丈夫ですよ、あの双子は喧嘩してもちゃんと仲直り出来るので」
安心させる様に妹と二人微笑んでいたが、騎士の真っ青な顔は変わらず、首を横にブンブン振る。
「それが、昨夜からずっと喧嘩してるんです!」
「それは珍しく長いですね」
私とリンサーラは変わらず穏やかに話を聞く。
「素手や口論じゃなくて、剣で戦ってるんです!!」
「は?/え?」
私とリンサーラの声が被る。
今まで喧嘩は見た事あるが、剣で…?
「今、お屋敷には当主様不在で、あのおふたりを止められる人が誰も居ないのです!!このままじゃ屋敷が…屋敷が崩壊してしまいますっ!!」
崩壊だなんてそんな事出来るわけないじゃないか、と普通なら笑う。
が、あの二人ならやりかねない…
それに、剣を使うなんて危なすぎる。
ミシューは女騎士の中ではトップの実力を誇るのだ。
ちょっとの油断も許されない。
アシューも優れているので、リンサーラも心配して顔が真っ青になっている。
緩んでいた気が再度引き締まり
「お兄様、早く向かいましょう!!」
「あぁ…」
二人慌ててロイノードル家へと向かった。
その先で見た光景は……凄かった。
賊に入られたのではないかというほど庭はボロボロ。
花壇の花は踏み荒らされてはいないが、庭師が丹精込めて育てた薔薇や他の花々はところどころ切られてみすぼらしい姿になっているし、オブジェやベンチは切断されている。
双子から離れた場所でシクシク泣いている庭師が哀れだ。
剣がぶつかり合う音の方を見れば、部屋着姿と鬼の形相で剣を振るう双子が…。
「はぁ……リン、私が二人の剣を止めるから……」
「はい。一瞬の隙を付いてミーに抱きつきますわ。……絶対アシューお兄様を止めてくださいませね?私のミーが傷ついたら許しませんから」
私が自身の剣を抜き、右手に剣を左手に鞘を持つ間、リンサーラは二人にじりじりと様子を伺いつつ近づいて行く。
「それはこっちのセリフだ。ちゃんとミシューを止めるんだぞ?私のシューが傷ついたら許さないからな」
二人と距離が近づき、間合いを図る。
少しでもズレたら二人の剣が体を引き裂くだろうな……とそれが冗談ではないから苦笑するしかできない。
タイミングを掴んだ私は、二人の剣がぶつかる瞬間二人の間へと飛び出した。
「「!!??」」
「「お義兄様!?/フィー!?」」
私の剣にミシューの剣がぶつかり、アシューの剣を鞘で受け止める。
タイミングバッチリで良かった。
「二人ともそこまでだ」
「お姉様!!!」
二人の剣を受け止めた瞬間、リンサーラが物陰から飛び出してミシューの背にしがみついた。
先程まで冷ややかに私を見ていた瞳はポロポロと涙を零し、可憐な少女にしか見えない。
ミシューも突然現れたリンサーラに驚いていた。
「え!?サーラまで!?」
「もう止めてくださいませ、ミーお姉様…っ……」
「あぁぁっ!!泣かないでサーラ!!もうしないからっ!!ねっ!?」
そう言ってミシューは剣から手を離してリンサーラを強く抱き締めた。
「フィー、なんでここに居るんだ!?」
アシューも驚きつつも私に会えたのが嬉しいといわんばかりに破顔して、剣を地面に突き立てて手を離し、両手で私に抱きついてきた。
私も剣を鞘へと収めれば片手をアシューの背に回して抱き寄せる。
その身体には大怪我は無いにしても小さな傷があちこちにあり、寝間着に血が付いている。
アシューはそれを気にしてないようで先程まで兄弟喧嘩をしていたのが嘘みたいにご機嫌に私の唇へ挨拶の口付けを落とした。
アシューは気にしなくても、私は気にする。
「……とりあえず、話は怪我の治療をしながらしようか」
アシューの背に回している手に力が籠った。
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シャワーを浴びて綺麗になった二人は、向かい合って置いてあるソファーにそれぞれ座る。
ミシューの隣にはリンサーラが居て、私はアシューを膝の上に乗せて怪我した場所に薬を塗る。
幸い二人とも葉っぱで切ったくらいの細く浅い傷ばかりだ。
「大怪我はしてないようで安心したよ…」
と、表面上言っているが、こんなに沢山付けるのは許せなかった。
治療をしながら喧嘩の理由を聞いていたらどうやらお互いの婚約者を“腹黒”呼ばわりされたのが許せなかったらしい。
話をしている途中もまた喧嘩が再熱しそうになったが、リンサーラが泣きそうな顔でミシューにしがみついて止め、私が後ろからアシューを抱きしめて居た為再熱はしなかった。
その後、着替えの為に双子はそれぞれの部屋へ向かう。
私はミシューが一人になるタイミングを狙い近づいた。
「ミシュー」
部屋に入る前、誰も居ない廊下で声を掛ける。
「ゲッ………なんでしょうかお義兄様……」
私の方を振り返ったミシューはとっても嫌そうな表情をした。
私はニコリと微笑む。
「兄弟喧嘩は仕方ないが、今日のはちょっとやり過ぎじゃないか?」
「…だって、アシューがサーラを腹黒扱いしたのよ!!お義兄様なら分かるでしょ!!あんなに可愛くて優しくて天使のように純粋な妹を腹黒だなんて言われたら、お義兄様だって怒るでしょ!?」
「……」
いや、まったく。
リンサーラも私や母に似ている為、純粋ではないだろう。
腹黒というのもあっている。
「…さぁ?私はそれよりも、アシューをあそこまで傷付けた君に怒っているんだ。」
微笑みながらミシューへと近づけば、後ろへと下がり壁まで追い詰められた彼女の顔の横に両手を付き、退路を塞ぐ。
所謂壁ドンというやつだ。
「…っ……」
「一歩間違えばアシューが大怪我を負っていたかもしれない。アシューが怪我をしなくても、君が大怪我を負ったらアシューは君の事で頭がいっぱいになるだろう。…それも不愉快だ。」
「…っ…な、なによ!!私たち双子の兄弟喧嘩に口を挟まないでよ!!」
年上の狂気じみた男から迫られている今の状況はとても怖いだろうに、まだ子犬の様にギャンギャンと吠えかかってくる。
流石はロイノードル家のご令嬢だ。
だが、子犬に吠えられてもまったく怖くない。
私はミシューの首をガシッと掴んだ。
「なっ…!?」
首を締めたりはしない。
が、首にある小さな切り傷に軽く爪を立てた。
「い゛っ……!!」
私の首を掴む手の手首を掴みながら顔を歪ませるミシュー。
私はその耳元へと唇を近づけ低い声で告げた。
「兄弟喧嘩は別にいいよ。ただ、やり過ぎだって言ってるんだ。…もういい大人になるんだから、殴りあったり剣を使うのは今日を限りで止めるんだ、いいねミシュー…?」
ミシューの顔が縦に揺れず、まだ反抗している気配がある。
「……絶対止めるんだ。もしまた、今日みたいに物が壊れる程の激しい兄弟喧嘩をするようなら……」
「〜〜〜ッッッ!!!」
“コロスゾ”と殺意を込めた視線を向けたらようやくミシューは涙目で何度も大きく首を縦に振ってくれた。
私は殺意を引っ込め、首を掴んでいた手を離せばミシューの頭をよしよしと撫でる。
「いい子だミシュー。…それと、私はアシューの前では優しいから、腹黒と言ってもきっと信じてはくれないと思うよ?」
プルプル震えながらも、ミシューは私を強い眼光で睨みつけてきた。
流石アシューの妹だ。




