7 「私も同じです王女様」【side:シャラフィーヤ】
「いつまで引っ付いてる」
母とアシューの姿が見えなくなれば私は腕を大きく動かし密着していた王女様を払った。
「キャアッ!!シャ、シャラフィーヤ様…?」
「おまえっ!王女様に何をする!」
私に振り払われて床に尻餅を付く王女様は困惑した表情で私を見上げる。
護衛が王女様と私の間に入り、王女様のメイドが彼女の側に寄り添いながら、どちらも私を睨みつけてきた。
私は王女様が触れた場所を手で払えば冷めた目で見返し
「…今まではシューの前で乱暴な姿は見せたくないから振り払わなかっただけだ。婚約者の命を奪おうとした女に触れられて嬉しいわけないだろ。」
「…なっ…え?」
応接室にゾロゾロとサフィンクス家の騎士が入って来て状況を把握できず動揺する王女様と彼女を守ろうとする王宮の騎士達を取り囲む。
騎士達が空けた隙間からサフィンクス当主であり、宰相を勤める父が前へと出た。
「王女様、貴方には故意にスタンピードを起こし国を危険にした罪に加え、ロイノードル家のご子息殺害しようとした容疑もかかっています。君達、王女様を捕らえなさい!これは宰相としての命令です。」
そう言われても互いに目配せして動けずにいる王宮の騎士達。
父がため息を付けば代わりにサフィンクス家の騎士が王女様に手を伸ばした。
が、それを彼女はバチンッと払い除け
「…捕える?!なぜっ?!私は王女なのよ!その私を捕えるだなんて!!私はスタンピードとも、あの男の殺人未遂だって、何も関係ないわ!!」
「捕らえたソレイユ騎士が白状したのですよ。それに、スタンピードを起こす為に使用された魔物寄せの植物は国庫にしか保管されていないので出入口の記録玉の映像を見れば誰が持ち出したのかすぐに分かります。国庫に保管されている物は持ち出す際に申請が必要で無断で持ち出した場合、窃盗になるのは…もちろん王族である王女様ならご存知ですよね?」
貴族や王族なら成人するまでに必ず学ぶ事なのだが…勉強嫌いな王女様が覚えているかは怪しいところだ。
「…〜〜〜ッ」
顔が真っ青になっている姿を見る限り、どうやら学んで無かったようだ。
「…身に覚えがあるようですね」
「う、うるさいわね!国庫にある物は国の物、この国は王族の物なんだから、王族である私の物なのよ!!私のものをいつ、何に使おうが私の勝手でしょ?!」
「いいえ。勝手に使ってはならないのですよ」
父親は無表情で淡々と告げる。
王女様であろうが、国の財産に手をつけていいわけが無い。
そんな事をすれば収支のバランスが取れず国はすぐ滅んでしまう。
この王女様は、陛下に似て国のトップに立つ器じゃない。
…それならそうと陛下と同じように自分の器の小ささを認め、大人しくしてくれてたら良かったのに…。
「そんな事…知らないわ!私に関係ないわ!!
私を罪に問えばお父様が黙ってないわよ!!逆に貴方たちの方が国外追放よ!!」
「国外追放…」
その言葉に私は下唇に人差し指の第二関節を当てて考える。
私のその姿を勝手に解釈した王女様は何故かパッと表情が明るくなって胸を張り
「そうよ!国外追放なんて嫌でしょう?謝罪をして、私を妻に迎えてくれるならこれまでの無礼は許してあげるわ!」
「…どうして私が謝らなければならないのですか?」
私は首を少し傾げ、まだ床に座り込んだままの王女様に近づけば目の前で片膝を付いて顎を掴んで上を向かせた。
「う゛っ…!」
「国外追放になるのは大歓迎ですよ。それで一時でも貴女を牢屋にぶち込んで平民以下の扱いをさせられる。それに…アシューを連れて同性婚が可能な国に行って結婚するのはいいアイデアだ。」
同性婚廃止となったこの国に居続けてもアシューの願いは叶えられない。
それならば、それも悪くない。
私の貴重な光魔法とアシューの強大な魔力量は他国でも重宝されるだろう。
その家族が一緒に付いてきたとしてもおつりが出る程だ。
もし無理だとしてもどこかのギルドに所属し魔獣を狩って生活するのも悪くない。
「ふぁんふぇ…(なんで…)」
王女様が何か言いたそうなので顎を掴んでいた指の力を緩めた。
王女は涙を流しながら縋るように見つめてくる。
「なんで…あの男がいいのよ!!私の方が、あの男より地位が上なのに!!」
「…じゃあ貴女は、なぜそこまでして私に固執するのですか?地位が上の男が良いならこの国より豊かな国の王を狙えばいい。」
「わたしは…貴方がいいのよ…!…地位なんて関係なく…!」
「私も同じです王女様。私も地位や見た目、性別なんて関係なくアシューが好きで、アシューが良いんです。」
「……っ…じゃあなんでっ!私が貴方の腕に腕を絡めても何も言わなかったのよ!!パーティーで何度もそんな姿をあの男に見せたのよ!婚約破棄したかったんじゃないの?!あの男より私の方がいいのかも?…って思ってもしょうがないじゃない!!」
「それは貴女が王女様なので、強く断われば立場や命が危うくなるでしょう?」
それから私は他の人には聞こえないよう王女様に顔を近づけ小声で話す。
「…という建前もありますが、アシューが嫉妬してくれるのが愛しかったからです。」
「え……」
相手が王女様だから近すぎるとか触るなと言う事も出来ず、護衛は婚約者の仕事なのでどうすることも出来ないし、私が浮気や心変わりするはずないと分かっているから、それを疑う発言も出来ず、やきもきして次に会った時にとても甘えん坊になるアシューの可愛さと言ったら…。
程良い嫉妬はスパイスとなって関係を長続きさせてくれるし、アシューが私への好意を再確認して更に私でいっぱいに出来る。
顔を離して見た王女様の表情は愕然としていた。
好いた相手から利用されていたのがそれほどショックだったのだろう。
「あぁ、でもさっきアシューの前で振り払わなかったのは違いますよ。彼の前では紳士で居たいですし、彼は今安静にしなくてはいけないんです。なのに…部屋からここまで一人で来て、まさか…シューがあんなに取り乱して王女様に向かっていくとは…アシューの事で頭がいっぱいで、貴女に抱きつかれていた事はすっかり抜け落ちてました。
…決して、貴女を選んだというわけではありませんので。」
微笑みながら告げる私に王女様は口を開けたり閉じたりして何か言いたそうにしているが、言葉にならなかった。
私はもう用は無いと、その顎から手を離す。
と、同時にサフィンクスの騎士が王女様の手首を後ろで縛った。
「〜〜〜ッ…許さない…許さないわよ!!王女である私の気持ちを弄んで!!利用しただなんてっ!!」
「…………」
「うわっ!!??なにをっ!?……っ…」
私は王女様を見下し、近くに居た王宮の騎士から剣を奪えば王女様に突きつけ殺意の籠った目で睨みつけた。
「ヒッ…!!」
「許さないのはこっちのセリフだ。アシューの命を奪おうとして…ただで済むと思うな…」
「あ…あぁ…っ…」
「そこまでにしなさいシャラ。
素が出てきてるぞ、後は私に任せてアシュー君の元に行ってあげなさい。」
父親が私の右肩に手を乗せ止める。
「…………」
「王女様は法に則って裁く。今お前が私刑してしまえば、お前の印象が悪くなる。私や家族は別にそれでは構わないが、お前が困るだろう?」
「………」
父親の言う通りだ。
俺が王女様を殺害したと知ったアシューに怯えられるのも困る。
殺らないが、もし殺るならば誰も居ない場所で秘密裏にやらなくては…。
私は父親が差し出した手に剣を渡せば、最後まで王女様と王宮のメイドや騎士達を射殺さんばかりに睨みつけてから、言われた通りアシューの居る自室へと向かった。
部屋へと行く途中で母親と廊下で出会う。
「?…一緒に行ったのでは…?」
「今は一人で居たいらしいから、良い子にしておくという約束で部屋の前で別れたわ。」
母親は眉尻下げて小首を傾げて微笑む。
「アシュー君、泣いちゃったわ…早く行って、話をして安心させてあげなさい。」
「…っ…あぁ…」
母親の横を通り過ぎれば、先程より更に急いで部屋へと向かった。




