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大好きな婚約者と結婚したいだけなのに、世の中そんなに甘くない!  作者: 青李


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6 結婚式予定日の朝 【side:アシュー】


【結婚式当日の朝】


「ん……」


大好きな香りがする…。

大好きなシャラフィーヤの匂いと、ふわふわした気持ちいい布に包まれている…

とても気持ちがいい……。

このままもう少し眠っていたいな…

あぁ、でも目を覚まさないと……

今日は…

今日は…


「結婚式!!??」


パチッと目を開けた俺は勢いよくベッドから体を起こした。


「いっ…っ…いやいや、それより準備…!」


起き上がった際に背中がツキッと傷んだが気にしない。

いや、それどころじゃない。

辺りを見渡せば、そこは自室では無く見知ったシャラフィーヤの部屋。

部屋には誰に居なかった。

寝起きでまだ寝ぼけていた俺はあわあわしながらベッドから出て辺りをウロウロする。


「ど、どうしよう…今何時だ!?ウエディングドレスはサフィンクス家にあるから大丈夫…あぁ、でも香油とかアクセサリーは俺の部屋!!今から行って間に合うか!?」


結婚式当日というのは、朝から大忙し、…らしい。

お風呂に入って肌を整えて、着付けや化粧…時間なんていくらあっても足りない!と人妻から聞いた事がある。

なのに、そんな日に寝坊するなんて!!


ドラゴンを倒した後、腹痛で意識を失った事などどうでもいいくらい俺は慌てていた。

目が覚めた今腹痛は無いし、背中はちょっと痛いくらいだから問題無い!

それよりも今は結婚式!!


今の時刻は分からないし、とにかく時間が無いと思った俺はシャラフィーヤを探しに部屋を出た。


今はマナーなんか気にする余裕無く、寝巻きと裸足のまま廊下を全力ダッシュしていた俺はメイドを見つけた。

メイドに向かっていけば、急ブレーキ並に全力疾走からピタッと止まる。


「ねぇ君!シャラフィーヤがどこにいるか知らない?」


メイドは俺を見て驚きに目を見開く。


「あ、アシュー様!目が覚めたのですね!!良かった…!」


メイドは俺を見て、潤んだ瞳で感極まっているようだが、俺はそれどころでは無い


「うん!おはようっ、いい天気だな!ところでフィーは?」


「坊っちゃまでしたら、今は応接室に…「分かった!サンキュー!」


俺は最後まで聞かずに応接間を目指す。


「あ、アシュー様…そんなに走ったら、お身体に触りますーっ!!」


俺が去った後、メイドが真っ青な顔で嘆いていたのだが俺は気づかなかった。


応接室へと着いた俺はドアノブに手をかけた。

そこでようやく我に返る。

応接室という事は、誰かお客様が来ているという訳で……

そんな中へこの格好で突入するのは……

躊躇っていれば、中の話し声が聞こえてきた。


「陛下からのお言葉です。

此度のドラゴン討伐の褒賞に王女様との婚姻をお与えになるそうですぞ。」


「…お断りします。私なんかに王女様は勿体ないですよ」


「そんな…遠慮しないでくださいませシャラフィーヤ様…」


王宮からの使者らしき男性の声と、シャラフィーヤの声、それから王女様の声までした。

王女様まで来ているのか…。


「同性婚が廃止にならなければ、本来なら今日、結婚式を挙げる予定だったのでしょう?このまま中止にせず、私と式を挙げましょうよ。サフィンクス家の招待客なら、高位貴族も全員いるでしょうから、私(王女)の結婚式としても問題無いわ」


何を言ってるんだ。

今日挙げるのは“俺の”結婚式だ。

あの女は、同性婚を廃止して、俺の命を奪おうとして、俺の背中に傷を付けて、あげく結婚式とシャラフィーヤまで奪うつもりか?

ドアノブを掴んだままの手が怒りで震えている。

相手は王女様だから…シャラフィーヤにベタベタしてても我慢して、同性婚廃止になっても仕方ないと割り切っていたが…命を狙われて、背中に傷をつけられて、結婚式を乗っ取られて…それだけならまだ…ギリギリ耐えられる。

けれど…シャラフィーヤはダメだ。

シャラフィーヤだけはダメだ。

これだけの事をされて地雷を踏まれてもなお目を瞑れる程、俺はまだ大人じゃない。

怒りを抑えきれず、中に押し入ろうとドアノブをぎゅっと強く握りしめる。


「……残念ながら、王女様が来られる前に中止する事は決定しています。

招待客にも関係者にも連絡済みなので、今日結婚式を行うのは不可能です。」


「…………え?」


冷水を浴びせられたみたいに、怒りが消え去った。

代わりに心を占めるのは、悲しみと聞き間違いであって欲しいという願望。


「そう?じゃぁ、別の日に改めて結婚しましょう」


「お断り致します。私には愛する婚約者がいますので、国王陛下のお気持ちだけ頂戴いたします。では…」


「ちょっ……まって…シャラフィーヤ様…!!」


シャラフィーヤを引き止める王女様の声を無視して、扉が開かれる。

眉間にシワを寄せていたシャラフィーヤは、俺が扉の目の前に居るのを見ると一瞬驚きに目を見開いた後、いつものように優しく微笑んで抱き寄せようとした。


「シュー、目が覚めたんだね」


「あ………」


だが俺はどうしても確認したい事があって、いつものように背中に手を回すことは出来ず、胸元に手を付いてシャラフィーヤを押して拒んだ。


「シュー?」


「…フィー…結婚式が中止って、どういうことだ…?」


「シュー…」


「フィーだって、楽しみだって言ってたじゃないか…なんで、俺に相談もなく勝手に中止だって決めたんだよ…っ!!俺が倒れたからか?…もう、全然平気で大丈夫なのに!!」


自身の胸元を強く掴み、流れ落ちそうになる涙を必死に堪える。

眉尻を下げて、どこか寂しそうに困った表情で俺を見つめるシャラフィーヤ。


「落ち着いてシュー、ちゃんと後で説明するから…今は部屋に戻ろう」


シャラフィーヤが一歩近づき、手を伸ばしてくるのを、俺は後ろに数歩下がって拒んだ。


「ヤダ…だって…結婚式挙げようっていってくれたじゃんかっ!!今日が良い!!…今日っ!俺が!フィーと結婚するんだっ!!」


シャラフィーヤを困らせている自覚はある。

部屋の中で、ソファーに座っているサフィンクス夫妻も心配そうにこちらを見ているのが視界の端に映った。


今はシャラフィーヤの言う通り部屋に戻ってゆっくり話すべきだ、こんな風にわがまま言って無理に式を挙げてもらっても心から幸せを感じられないだろうと頭では分かっている。

分かっているのに、理性が働いてくれない。

感情が先走って止まらない。

そんな俺をさらに煽る声が…


「同性婚が廃止になったのだから、あなたとシャラフィーヤ様が結婚するなんて無理なのよ!大人しく身を引きなさいアシュー・ロイノードル!!見苦しいわね!!私がシャラフィーヤ様と結婚するのよ!!」


王女様がシャラフィーヤの腕に腕を絡ませ密着しながら、俺を睨みつける。

それにシャラフィーヤは眉間にシワを寄せ王女様を睨んでいるが、王女様は俺を見ているから気づいていない。

でも、なんで王女様に何も言わないんだシャラフィーヤ!

王女様とシャラフィーヤ、どちらにもイラッとした俺は、王女様を睨み返す。


「〜〜〜っ!!ふざけんな!!シャラフィーヤは俺のだ!!お前こそ何度も断られてんだからいい加減にしろよなっ!!」


相手が王女様だとか、女性だとか、もうそんなのはどうでも良かった。

恋敵が大好きな婚約者にべったりしながら、俺が10年間待ち望んだ結婚をすると言うのだ。

もう…耐えられるわけない。

俺は手を伸ばし王女様をシャラフィーヤから引き離そうとした。


「キャァァァッッッ!!!」


「っ!!シュー、やめるんだっ!!」


「………っ!!」


シャラフィーヤの手が俺の腕を掴み、もう片方の腕は王女様を後ろへと押して庇うような動きをしている。


シャラフィーヤに…こんな大声で、静止をかけられたのは、初めてだった…。

だって、俺の好きにしていいって、いつも俺を甘やかしてたのに…

なんで…なんで…王女様を庇うんだよ…


「シャラフィーヤ様…」


庇われた王女様はシャラフィーヤの腕に更にしがみつき、密着して頬を赤く染めてうっとりしている。

俺と視線が合えば、ふふんっとドヤ顔して微笑んできたのがまたムカつくなっ!!


「こんのっ…俺のシャラフィーヤにいつまで引っ付いてんだよっ!!離せよフィー!!」


「シュー!!」


今すぐ引き剥がしたいのに、シャラフィーヤが強く腕を掴んでいるせいで動けない。

それどころか、咎める様に名を呼ばれる。

それに気を良くした王女様はわざとらしく瞳を潤ませ、身体を震わせながらシャラフィーヤの腕にさらに顔を埋め


「キャアッ!怖い!早く不敬罪でその男を捕まえて牢屋に連れて行って!!」


「シュー、落ち着いて…」


「なんで俺が悪者みたいな扱い受けなきゃいけねーんだよっ!!悪いのはあっちだろっ!!」


いつもシャラフィーヤは俺の味方だったのに…!

戸惑いと悲しみと歯がゆさで、初めてシャラフィーヤを睨みつけ怒鳴った。

感情が抑えきれず爆発して止まらない。

そんな俺を背後から誰かが脇に腕を通して後ろへと引っ張る。

それと同時にシャラフィーヤが俺の腕から手を離した為、数歩後ろへよろめいた。

振り返ると、シャラフィーヤの父親が俺を後ろへと引っ張ったらしい。

隣には母親も居た。


「…落ち着いてアシュー君。」


「お義父さん…」


「…彼は戦闘後で目を覚ましたばかりでまだ興奮しているんだ。

長年夢見ていた結婚式も無くなって混乱もしている。

…ドラゴンを倒した英雄を不敬罪だなんて言わず大目に見てくれないだろうか?」


「ふんっ!…お義父さまがそう言うのなら」


王女様の“お義父さま”発言にシャラフィーヤの父がピクッとこめかみを震わせるが、表情は保ったままだった。


「……ありがとうございます。それと、怪我もしているんだ、彼に乱暴しないでくれ」


「アシューちゃん、感情が高ぶってしまうのはしょうがないわ。気持ちはとても分かるから、ね。大丈夫だから、私と一緒にシャラの部屋へ行きましょう。」


シャラフィーヤの父親が王宮側の騎士と王女様を宥め、母親が優しく俺に寄り添ってくれた。

その優しく落ち着く声に少しだけ冷静さを取り戻した俺は頷く。

体から力が抜ければ、お義父さんは腕の力を緩め俺を解放してくれた。

俺の片手はお義母さんが握ってもう片方の手は背に回されて部屋の方へと促される。

少し冷静になり、自分の晒した醜態が恥ずかしかったしシャラフィーヤに向けてしまった怒りを思い返すといたたまれない気持ちと、王女様を庇うような姿のシャラフィーヤにまだ怒りも燻っていた俺は彼の顔を見ることが出来ないまま、お義母さんに促されるまま部屋へと歩いていった。


一歩一歩歩く度に、先程の言葉と出来事が何度もフラッシュバックする。


「あのね、結婚式の事だけれど…」


「………結婚式…中止にするなら、同性婚廃止になった時の話し合いで、そう決めてくれたら良かったのに……」


お義母さんの言葉を遮る様にポツリと口から零れた。

あの時だったら、仕方ないと…嫌だけど、今よりショックは少なかったと思う。

あの時、シャラフィーヤがきっぱりと断言してくれて嬉しかったのに…

期待させて、安心しきってる状態で…俺に相談なく勝手に中止にしてしまうなんてあんまりじゃないか…


「そうね…でも、」


「お義母さんも…俺のウエディングドレス姿、楽しみだって…言ってくれたじゃん……か……っ……」


いつでも結婚式に挑めるよう、目元が腫れないようにと堪えていた涙がぼろぼろと零れる。


「アシューちゃん…」


分かっている。

シャラフィーヤや両家の親が中止と決めたのはきっと俺の体調を考慮してくれたんだと。

そうで無くても、なにかちゃんとした理由があるんだって。

分かっているのに、俺は自分の気持ちを制御できず、醜態を晒しまくってしまった。

シャラフィーヤとお義母さんまで責めて、何してるんだ…

自分が情けなくて、涙が止まらない。


「えぇ、楽しみにしているわよ。今日は出来なかったけれど、落ち着いたら挙げられるわ。だから泣かないでアシューちゃん…」


「それっていつなんだよ…っ…」


「それは…」


お義母さんの言葉が詰まる。

眉尻が下がって目を伏せる姿に言い過ぎた…と俺も落ち込んだ…。


「……ごめん、俺今ほんとにおかしいんだ…なんか、興奮状態で…全然感情のコントロール効かなくて……ほんと、ごめん……」


「ふふっ、そうね。しかたないわ」


さっきまで落ち込んでいたのに、今のお義母さんの声には喜色が混じっていた。

何故…?と不思議で視線をお義母さんに向ける。


「……?」


…なんでお義母さんはそんな嬉しそうに笑っているんだろう?

俺はお義母さんを責めてしまったのに、微笑ましい視線で見てくる。


「………」


あれだ…風邪を引いた時に我儘になる小さな子に向ける視線だ。

なんだか複雑な心境になって、また少し冷静になれた。


「……しかた、ないのかな…。でも、頭冷やしたいから、ちょっと一人になっていいか……?」


「んー……ちょっと心配だけど、シャラが来るまで、シャラの部屋で大人しく寝て安静にしておくならいいわよ?約束出来る?」


「あぁ、約束する…」


「そこまで言うなら、分かったわ。じゃあまた後でね」


シャラフィーヤの部屋まで戻ってくれば、そこでお義母さんとは別れた。

一人ベッドまで来れば、シーツを手繰り寄せ顔を埋める。


「グスッ………」


シャラフィーヤの匂いにまた涙腺が緩んだ。


「シャラフィーヤを…睨んで……怒鳴って…あんな、取り乱した姿見せちまった…」


東洋には“百年の恋も冷める“という言葉があると聞いたことがある。

まさに今、そうなってしまったかもしれない…


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