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大好きな婚約者と結婚したいだけなのに、世の中そんなに甘くない!  作者: 青李


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5 結婚式まであと1日 【side:アシュー】


【結婚式まであと1日】


西の空に落ちる太陽が赤く染まる頃、ようやく結婚式の段取りや確認が終わり一息ついた。

あの話し合いから今日まで俺もシャラフィーヤも忙しくて会えていない。


…少し寂しい…


明日になれば同じ家で過ごせるのだから後数時間の辛抱なのに、シャラフィーヤの事となるとどうも俺は辛抱弱くなる。


その寂しさを紛らわすのと、固まった身体を解すため俺は久しぶりに訓練着に着替えて身体を動かす事にした。

と言っても怪我を負わないようにウォーキングとストレッチ、簡単な素振りくらいだが…


…まさか、この後これがとても役に立つとは思わなかった。

シャラフィーヤから俺は勘が鋭いと何度か言われたことがあるが、この時もそうだったのかもしれない。


太陽が沈みきり、身体を動かしスッキリした俺が屋敷の中に入った瞬間、同じタイミングで王宮からの使者がやってきた。

今両親は領地でちょっとしたトラブルが起こってしまい昨日から不在だ。

魔物の動きがいつもと違い何やら嫌な予感がするらしい。

明日の結婚式までには絶対帰ると言っていたが…。


「ご苦労さまです。良ければ応接室の方へどうぞ」


とにかく今は父親の代わりに長男である俺が対応しなければならない。


「ハァッ…ハァッ…いや……良ければ、ここで……」


応接室で対応しようとしたが、使者はこの後も急ぎ他の貴族の屋敷へ向かわねばならないらしく、応接室へ向かう時間も惜しいらしい。

そんな相手に着替えてくるとも言えず、汗をかいた訓練着姿のまま対応する事に。


急いで来たせいで乱れた息をできる限り落ち着かせながら使者は話す。


「ハァッ…ハァッ…夜遅くに、申し訳、ありません…っ!

森のダンジョン近くで、スタンピードが、発生しましたっ!!

全ての貴族から騎士団を派遣し魔物を討伐するようにと、国王陛下からの命令ですっ!!」


「!?」


聞き間違いかと耳を疑った。


【スタンピード】【ダンジョン】


授業や祖父母世代から話を聞いたことがある単語。

それくらいの認識しかなく、魔法が廃れていくのに比例して同じく数が減っている魔物。

ダンジョン内の魔物も同じく減少傾向に有り、外に出てくる事は無くなった。

なので無理してダンジョン攻略更をする必要が無い。

魔法が廃れてきている今攻略するのはむしろ危険だと判断され封鎖されている。


だから、俺達にとってダンジョンもスタンピードも物語の出来事。

現実でスタンピードが発生するなんて、“ありえない”という環境で育ったのだ。



知らせを聞いた瞬間、固ってしまった俺とは違い、傍に居た有能な執事が直ぐに動いた。

俺もハッとしてすぐに冷静に対処する。


「……っ……分かりました。準備が出来次第すぐ騎士団を連れて向かいます。」


「ありがとうございます!では、私は他の貴族にも知らせなければならないのでこれで…!!」


使者は慌ただしく一礼すればすぐに屋敷から出て早馬に乗って行ってしまった。


「…急ぎ領地に居る両親へ連絡を。騎士も屋敷の警備以外は非番の者もかき集めろ。」


俺は差し出されたタオルで汗を拭いながら、次々と執事と使用人に指示を出していく。


「…アシュー…?…どうしたの?」


屋敷の慌ただしさに気づいたミシューが2階の階段からホールへと様子を伺いならゆっくり降りてくる。

その髪からは雫が落ちており、部屋着を着ている事からどうやらお風呂上がりの様だ。


「ミシュー…まだ髪濡れたままじゃんか」


俺はミシューのメイドが持っていたタオルを借りて優しく拭う。

拭いながら、じとっと見つめ俺の返事を待つミシューに今の状況を説明した。

それを聞いたミシューの表情も次第に強ばっていく。


「なっ!?じゃあ、私もすぐ準備を…!!」


「いやミシューは…、こら待てって!!」


部屋へ戻ろうと踵を返したミシューの腕を俺は慌てて掴んだ。


「ダメだ。ミシューは屋敷に残れ」


「どうして!?」


俺の方へ振り返ったミシューは納得できないと大声を出すのに対し、俺は苦笑しながら優しく話し


「屋敷を守る者が必要だろ?それにもしもの時、二人とも死んだらロイノードル家はどうなる?一人は残るべきだ。」


「…っ…それなら、アシューが残るべきよ!!アシューが長男で、時期ロイノードル家当主に相応しいんだからっ!!私の方が死んだって…」


「そんな事言うなよ…」


俺は髪を拭いていたタオルでミシューの両頬を包み、コツンと額を合わせる。


「〜〜〜っ…」


言っちゃダメな事を言った自覚はあるみたいで黙り込むミシュー。


「今の時代は女も家を継げるんだ。それに…もしもの可能性を低くするなら、俺が行くべきだろ?」


「なんでよ…」


「だって…、俺の方が強い」


「なっ?!」


ニヤッと笑えば、怒りで顔を赤くするミシュー。

俺はミシューの拳が来る前に一歩後ろへ引いた。


「聞き捨てならないわっ!!」


「だって事実だろ?」


意地悪に笑いながら、俺は執事が差し出してくる防具を身に付ける。


「違うわ!互角か私が上よ!!」


「全力出せば俺が強い」


「でもっ!!…それでも私が行くわ!!

だって、アシューは結婚式があるじゃない!まだ諦めてないって言ったじゃないっ!」


ミシューが地団駄を踏み、まだ駄々を捏ねる。

俺はミシューの相手をしながら防具を付け終わった。

コートを羽織ったタイミングで、ロイノードル騎士団の準備が整った事を耳打ちされる。

俺はまだ反論するミシューへ近づけば、耳元へ唇を近づけ


「 」


ミシューは俺が口にした一言で動きを止め静かになった。

視線が絡めば目を見開き口を開けたり閉じたり、魚のようにパクパクさせる。


「あ………っ………」


「心配すんな!傷一つ付かずに戻ってくるつもりだ!俺がすっげー強いのは知ってるだろ?だから大丈夫だよ、ミシュー。実は身体を動かせないでけっこうストレス溜まっててさ、発散する為に大暴れさせてくれ!」


笑って頭を撫でれば、ミシューへと背を向ける。


「ま、待ってよアシュー…!!なんで、なんで分かったのよ!!」


まだ困惑しているミシューに振り返り、後ろ向きに歩きながら人差し指を立てウインクする。


「そりゃあ…双子だからかな?」


玄関を出れば前へと向き直り、気持ちを切り替えた。

傍に着た従者が差し出した黒いリボンを受け取れば、愛馬に向かって歩きながら下ろしていた腰まである長い髪を頭の上の方で1つに結ぶ。


「……ミシュー様に、何を言われたのですか?」


あのミシューが一言で大人しく引き下がったのが不思議だったのだろう。

後ろから付いてくる従者が聞いてきた。


「ん?…“今お前生理中だろ?”って言ったんだ」


「なっ?!」


従者がギョッとするのに俺は声を出して笑う。


「……双子って、そういうのも分かるんですか?」


俺の愛馬は鞍を付けられて準備万端。

俺は一撫でした後、愛馬に跨った。


「まっさか〜!当てずっぽうで言ったら当たったんだよ」


「あぁ…なるほど…」


従者は苦笑しながら、自分の馬に跨る。


「まさか当たるなんてな…ラッキーだったよ。おかげで説得に時間がかからずすんだ。」


今は時間がない。

魔物が街に入る前に殲滅しないと…

それに、シャラフィーヤも心配だ。

貴族の騎士団に討伐を命令すると言うことは、王宮の騎士も向かっているだろう。

シャラフィーヤが強いことは知っているが、それでも大好きだから……どうしても心配してしまう。

俺は急いてしまう気持ちを押さえながら愛馬を走らせた。





ーーーーーー



森で王宮や他の貴族の騎士団と合流した俺達は休む間もなく魔物討伐に加わった。

サフィンクス家の騎士もいるみたいだが、話す余裕は無い。

話には聞いていたが、実際は思ったよりも何倍も…めっちゃくちゃ!!大変だった!!

魔法が失われつつあるこの世界で、魔物も年々数を減らしていたのに、こんな事が起こるなんて…。

祖父世代が面白おかしくスタンピードの武勇伝を話していたが、全然面白くないぞ!?

森に入ってもシャラフィーヤは見つからず、討伐中に王宮の騎士に聞いたら、シャラフィーヤ含めた一部のソレイユ騎士は王族の警護で残っているらしい。

シャラフィーヤが安全な場所に居ると分かり、ホッとひと安心する。


「良かった…」


心配事が一つ減り、俺は大きく深呼吸をすれば気持ちを切り替え魔物退治に本腰を入れる。

森の中は弱い魔物から強い魔物まで色んな種類の魔物が居た。

それも問題だが、なにより数が多い!!

強い魔物は複数で相手するしかなく、手が足りない。

とにかく切って切って切りまくる!

魔物のレベルを考え陣形を組んだり戦略を考える…なんて暇なんてなかった。

魔物が殲滅するのが先か…俺達人間の体力が底をつくのが先か…。


「ははっ…鬱憤が溜まってたんだ…発散にはちょうどいいっ!!!おらぁっ!!!」


口に笑みを浮かべながら、俺は振りかぶった剣を思い切り魔物へと振り下ろした。


ロイノードル家の騎士曰く、この時の俺は魔物を切り血飛沫を浴びながら高笑いしてて、魔物より恐ろしかったらしい。

高笑いしてたか、俺?

……記憶にない。

が、ずっと剣を我慢していたのと同性婚の廃止という理不尽な目にあった憤りを魔物にぶつけまくっていたから、もしかしたら笑っていたかもしれない……


フィーがこの場に居なくて良かった!

ほんっとうに良かった!


ーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー



「ハァッ…ハァッ…ハァッ…お、わった…?」


息を切らした騎士達が辺りを見渡し、もう魔物が居ないと分かると次々と地面へとへたり込んだり寝転んでいく。

そんな中、俺は腰に手を当てて騎士達を見下ろし


「ハァッ…ハァッ…ハハッ!…たったこれだけでへたり込むなんてまだまだだなっ…!」


「とかいいつつ、アシュー様も息が上がってるみたいですが?」


「そうだそうだ!怪我もしてるし、引き分けですよ!」


「き、きのせいだ!今日は…あれだ!久しぶりに剣を振り回したからしょうがないだろ!絶好調の時ならこんなのよゆーだし!」


これは強がりというわけではない。

戦闘中、何度も体や思考が鈍っているのを感じて気持ち悪くて仕方なかった。

もっと早く動けたら、こうじゃなくて、こう動いた方が効率がいいとか…

反省点は山ほどある。

結婚式で綺麗な姿を見せたいなら、スタンピードみたいに急な戦闘が起こった時に無傷で圧勝できるくらいにはもう少し訓練を続けてなければいけなかったと、これも大反省だ。


「だから結婚式の為とはいえ、ちゃんと訓練しなさいとあれほど言いましたのに…」


「う゛ぅ…」


ロイノードル家の騎士団長がぼそっと呟いた言葉がグサッといい音を立てて胸に刺さる。


「さ、さーてと、俺も手当を手伝うかな〜…」


騎士団長の小言が始まる前にそそくさとその場を離れた。

ロイノードル騎士団員達の集まっている場所へ行く途中で、他の家門の騎士が二人、木の根元にしゃがんでいるのが見えた。

俺は自分と年齢が近い(と言っても相手の方が学園を卒業していて年上だろうが)その騎士達に近寄った。


「何してんだ?」


「あっ‥あ!ロイノードル家のご令息…の…」


「堅苦しい挨拶や呼び方はいいから、アシューって呼んでくれよ。お前たち、サフィンクス家の騎士だろ?まだ新入り?」


「は、はい!!」


「これからよろしくな。で、何してたんだ?こいつ、随分苦しそうだけど……」


俺は、騎士二人の前に居る木に寄りかかったまま真っ青な顔で苦しむもう一人の若い騎士に気づき、その前へと膝を着いてしゃがんだ。


「さっきまで元気だったんです。怪我も少なくて …でも、いきなり顔が真っ青になって段々酷くなっていくし…団長に報告に行こうとしていたんです。」


「そか、それがいいな。一人は報告に行ってくれるか?」


「はい!私が行ってきます!」


「サンキュ。たぶん、魔物の瘴気にあてられたんだろう。」


魔力を持っている者ならある程度大丈夫だが、魔法が衰退している今の時代、魔力がゼロな人間も出てきた。

まだ珍しい方だが、これから先増えるだろうと予測されている。

この騎士はその先駆者だ。

魔力が少ないものやゼロの者は瘴気に弱い。

そんな人が瘴気の濃い自然界(森や海)に長時間居なければ、瘴気に当てられて体調を崩す事はたまにある。

スタンピードなんて普段の魔物討伐に比べられない程の数と長時間相手にするのだから、こうやって体調を崩してしまうのも仕方ないだろう。

ちょっと重めの風邪みたいなもので放置すると命に関わるが、服薬か光魔法の癒し(治癒)ですぐによくなる。

が、今苦しい事に変わりない。

俺は手袋を外し苦しんでいる騎士の頬に手を当て撫でれば、焦点の合ってない瞳がうっすらと開かれた。


「キツイよな…俺もフィーみたいに光魔法で癒せたら良かったんだけど……」


治癒に特化した光魔法は遺伝が関係する。

どんなに努力をしても、自分の先祖に光の魔法使いが居なければ使えないし、もし居たとしても覚醒するかは個人差がある。

シャラフィーヤはその光魔法が使える貴重な存在だ。


「だい…じょうぶ…です…この手…が、当たってると、…冷たくて気持ちいい水が流れてくるみたいにスッキリして…少し苦しさが紛れて…ちょっと……楽に、なりました。」


「え?まじか?」


母親が病気の子供の頭を撫でたり抱きしめたりする感じで、少しでも気休めになったら…と思ってやったのだが、ホントに気休めにはなってくれたらしい。


確かに、焦点があっている。

俺の魔力とかなにか関係あるのだろうか?

…分からないが、とりあえず良かった!


「まじで…っす…美人の手ってすごい…」


「あぁ、そういや、おまえ男女関係無く美人が大好きだったな…」


さっきまで心配していたのに、今は冷めた視線を向ける隣の騎士。

大好きな美人に触れてもらって良くなったのだと思うと、確かにそんな目を向けたくもなるだろう。

二人のやり取りに俺は吹き出してしまった。


「ふはっ、戦闘で結構ボロボロなんだけど、それでも美人だって言ってくれるか?」


何言ってんだこいつは?みたいな目で見ないでくれ隣の騎士。

それは俺が美人じゃねーっていいたいのか?


「えぇ…俺が今まで出会った中で…一番綺麗です」


「そか!よかった!じゃぁ明日の結婚式も安心して挙げられるな!」


「へ…結婚…?」


少し顔色が良くなった騎士が目をゆっくりパチクリさせる。


「結婚……そうですよ!シャラフィーヤ様と結婚式!明日!!……え、なんでここに花嫁が居るんですか!?ば…」


「ははは…」


“馬鹿じゃないんですか!?”という言葉をギリギリ飲み込んだ隣の騎士。

“なにやってるんですか、あんた!?“みたいな目で見ないでくれ。

言葉にせずとも十分伝わってるぞ。

今目の前の騎士に手を当てて無ければ殴るか蹴っていたかもしれない。

そんな事をしていたら、苦しんでいた騎士は楽になったのかいつの間にか眠りに落ちていた。

まだ顔色は悪いから、瘴気が抜けた訳ではないようだ。

少し楽になっている今のうちに、早く屋敷に戻って薬を飲んでもらいたいものだ。


「おーい、担架持ってきたぞ!!」


ちょうどいいタイミングでサフィンクス家の副団長とさっき呼びに行った騎士が戻ってきた。

俺の隣に居た騎士は俺の傍を離れてそちらへと向かう。


…そのタイミングを狙ったかのように、悪意はやってきた。


「さて、俺も一緒に「アシュー様!!!」」


目の前の騎士の具合を見ることに集中していた俺は、他の騎士の危機を知らせる声色で背後に迫る殺気に気づき後ろを振り返った。

俺の目に映るのは剣を振り上げた騎士。

避けようと思えば避けれた。

だが、避けると目の前の騎士に当たってしまう。

抜刀して間に合うか…間に合ったとして、受け止めきれるか…

一瞬の判断。

俺は目の前の騎士を地面に押し倒すように斜め前へと避けた。

ガッツリ切られはしなかったが、剣は俺の背中を右上から左下に向かって傷をつくる。


「う゛っ!!!」


傷は浅いが、けっこう痛い…っ…。

俺を斬り付けてきた騎士はチッと舌打ちすればまたすぐに剣を構える。


「アシュー・ロイノードル!!死ねぇぇぇぇぇ」


少し離れた場所から俺の名前を叫んだ騎士や他の家門の騎士が走ってくるが、間に合いそうにない。

抜刀する時間も無い俺は目の前に居る騎士を守るよう覆い被さるので精一杯だった。

痛みに備えて目をキツく閉じる。

が、相手の騎士の攻撃が俺に届く事は無かった。


「グァァァッッッ!!」


俺の後ろで苦しげな声がしたかと思えば、地面に剣が落ちる音と人が倒れる音がした。

恐る恐る目を開く。


「シュー、大丈夫か?」


俺をそう呼ぶのはこの世でただ一人。

いつもより焦りが滲んでいるが、いつもと同じ温かで優しい声に身体から力が抜ける。

俺は下敷きにしてしまっていた騎士から退き、後ろを振り返る。


「フィー…お前、なんでここに…?」


そこには、少し息を切らしたフィーと、その下で腹部から血を流すソレイユ騎士が…。

俺を襲った相手はソレイユ騎士だったらしい。

俺が退いたと同時に下敷きにしていた騎士は一度目を覚ましたがもう安全だと分かるとすぐにまた眠りについてしまった。

他の騎士が担架で運んで行く。

シャラフィーヤも俺に近づき抱きあげれば、背中に手を当て治癒してくれた。

出血が止まり、痛みが引く。

完治まではいかなくてもだいぶ楽になった。


「さんきゅ…フィー…」


「どういたしまして。

…ロイノードル家にお義父さんが居ない状況で、こんな事が起こったらシューは絶対行くだろうと心配して来たんだよ。…でも、先輩達に引き止められたせいでくるのが遅くなった…ごめん、シュー…」


俺の傷を見て眉根を寄せて悲しそうにするシャラフィーヤ。

背中の傷はシャラフィーヤの光魔法のおかげでもう痛くない。

俺はお礼の意味も込めて、シャラフィーヤの頬に軽い口付けをした。


「…まるで物語の王子様みたいにナイスタイミング過ぎて、ドキドキした。助けにきてくれてありがとな、フィー…」


唇を離して満面の笑みを浮かべれば、シャラフィーヤも優しく微笑み返してくれる。


「おい貴様!!なんでここに居るんだ!!お前には王女様の護衛を任せていただろうが!!」


「「……」」


そんな俺達の甘々な雰囲気をぶち壊す声が。

その声に俺はスンッと現実に戻され、俺を襲ってきた相手へと視線を向けた。

俺を襲った騎士は、ロイノードルやサフィンクス家の騎士達が押さえつけている。


「ん?…あれ…こいつどっか、で……」


騎士の顔を見て、すぐに誰だか分かった。


「おまっ…ソレイユ騎士の!?…」


俺を襲ったソレイユ騎士が誰だかすぐに分かった。

シャラフィーヤなんか知り合いだ。

この騎士、シャラフィーヤと一緒にラチカ王女様の護衛をしているところをよく見た事がある。

シャラフィーヤより一つ上のまだ若い騎士だ。

ラチカ王女様を誰よりも慕っていて、ラチカ王女様がシャラフィーヤに絡んでいる時に王女様が嬉しそうだと幸せそうに微笑み、俺が絡んで王女様が悔し気にしていると射殺さんばかりに睨み付けてくる。

その視線の温度差が印象的だったからよく覚えている。


「……結婚前夜に何故、王女様の護衛任務をしつこく入れるのか理解不能だったが…スタンピードを故意に起こしどさくさに紛れてアシューを殺す為だったのか?」


俺を抱きしめたまま、シャラフィーヤが低く凍てついた声を出す。

シャラフィーヤのこんな声は初めて聞くから、俺までちょっとビビってしまった。


「あぁそうだよ!王女様が頑張って同性婚廃止までしたのに、てめぇが王女様の気持ちに応えずそいつと式を挙げるっつーから!!

いい加減目を覚ませよ!!あんなに王女様から思われてんのにいつまでそいつに騙されてんだ!!」


「んなっ!?騙すってなんだよ!!」


「お前がシャラフィーヤを束縛してんだろうが!!つか、お前も貴族で、我らがお仕えする王族の想い人がそいつだって知ってるなら潔く身を引…「引く必要はないからね、シュー」


「んっ……」


俺の顎を撫でながら、耳元に唇を寄せてシャラフィーヤが囁いてきた。

こんな時だというのに、耳元で囁かれるとゾクゾクしてしまう。

ソレイユ騎士の怒鳴り声を一瞬でかき消してしまうくらいいい声だ…


「私は何度も王女様の気持ちには応えられないと、本人にもアナタにも、周りの人達にだってきっぱり伝えてきたはずだ。」


「それは、お前がそいつに脅されてるからだろ!!

正直に話せよ!!王女様ならきっと助けてくれるぞ!」


ハァ…とシャラフィーヤのため息が首にかかる。

分かるぞ、こういう話が通じない相手と話すのってすっげー疲れるよな。


「…助けてもらわなくて結構。

…もういい。連れて行け」


「了解です!」


おい、今いきいきと返事した奴ロイノードルの騎士だったよな。

そりゃ明日結婚したらシャラフィーヤもロイノードルになるわけだが、従うの早いな?!


そんな事を思いながら、騎士に連れられていく暴れるソレイユ騎士をぼーっと見る。

たまにソレイユ騎士の憎しみの籠った睨みと視線があっていたら、シャラフィーヤが俺の目を掌で覆い隠した。


「見ちゃいけません」


「ふはっ、母親がちっちゃい子に言うセリフみてぇ」


「確かに。でも、シューには綺麗なものを沢山見てほしいんだ。」


「……っ…」


あぁ、また…

じわっと心に染み込んでくる愛情こもった言葉をさらっというんだフィーは…

俺はフィーの手を目元から退かし、フィーの綺麗な青い瞳を見ればその首に腕を回して抱きつき


「綺麗なものっていったら、フィーとか?」


「…そう、だね?私だけを見てくれたら嬉しいな」


シャラフィーヤは目を開いて少し驚いた後、ふわりと優しく微笑んだ。

それから抱き上げて医療班の居る場所へと運んでくれる。

フィーに抱えられながら、俺は周りを見渡した。


(ん…なんだ、あれ?)


ダンジョン入口の前を通った時奥の方で赤い光が見えた…ような……


「っ?!」


それが何か分かった瞬間、俺は大声で叫んだ。


「危ないっ!!」


とっさに魔法で防御壁を展開し、ダンジョン奥から放たれた炎を防いだ。

間一髪…俺が一番ダンジョン入口に近くて、目の前には誰も居ない、皆後ろにいたおかげで防御壁に守られ、黒焦げになる人が居なかったのは幸いだった。

シャラフィーヤは炎がおさまったと同時にダンジョン入口からすぐに離れる。

誰も、燃えなかった…それは、良かったのだが…ダンジョンから出てきた魔物を見て言葉を失った……


「……っ」


「ドラゴンか…」


シャラフィーヤが呟く。

人間の何倍もする巨大な体、赤い鱗、鋭い爪と牙、大きな羽…


「ははっ……マジかよ……ほんとに、居たのか……」


たぶん、コイツがダンジョンのラスボス。

最下層に辿り着いた者しかお目にかかれない、これまたレアな存在。


ダンジョンが封鎖された理由はこれ(ドラゴンの存在)もあったのかもしれない。

ラスボスの前までは剣と人数で押し切れるが、ラスボスは魔法無しで倒せるとは思えない。

剣も限界がある。


「…なぁ、フィー?」


「……」


俺が猫撫で声で名前を呼べば、シャラフィーヤは唇をへの字にして眉間に皺を寄せる。

俺はわざとシャラフィーヤの首に腕を絡めてスリスリ甘え


「魔法、使っていいだろ?な?これは使わねーと勝てねーしさっ!」


魔法が廃れつつある現代。

昔は戦闘で炎を出したり風の刃を出したりするほど強力だったが徐々に弱くなり、今では指先にマッチ程度の火をつけたり、風で髪を乾かしたり、そんな些細な生活を便利にするくらいの優しい魔法にまで弱まってしまった。

魔法が盛んだった時に作られた魔法具も徐々に数が少なくなり、貴重な品となっている。

サフィンクス家のウエディングドレスもその一つだ。


そんな中、俺は魔法使いの名家であった母方の先祖返りで膨大な魔力量を貯められる身体を持って産まれた。

小さい頃から魔力の解放と、昔の資料を片っ端から読み漁り技術を習得しまくったおかげでかなり強い魔法使いになれただろう。

剣だけなら俺より強い奴は何人もいるが、魔法と剣を組み合わせれば俺は誰にも負けない!

ミシューにも、シャラフィーヤにも、他のソレイユ騎士にも、負ける気はない。

俺より魔法を使える人間は今のところ居ないしな!

だが…人前で使用する事は禁じられている。

剣術を磨く為もあるが、知られれば利用されたり命を狙われる可能性が高まるからだ。

“魔法禁止”と言われて育ったから、背中を斬られた時は躊躇ってしまった。

が、炎を防ぐ時は躊躇わずバリアを張れて良かった。


もう人前で使っちゃったし、ドラゴンを倒すのには強力な魔法が必要だし…ね?

俺も久しぶりに魔法と剣で戦える機会にワクワクしる。

しぶるシャラフィーヤをキラキラした瞳で上目遣いで見つめ続ければ、とうとうシャラフィーヤが折れた。


「…はぁ…、…仕方ないな…無理したらダメだよ?」


「!!…サンキューフィー!愛してる!!」


地面に降ろされながら、俺は何度もお礼のキスを額や頬に落とした。


シャラフィーヤは俺の望みを否定しない。

渋ったり困り顔をさせてしまうが、最後はいつも折れてくれる。

シャラフィーヤに甘え過ぎはよくないと分かっているが、愛されて甘やかされてるのが嬉しくて…それに幸せを感じてしまう…。

これではいけないと変わろうとし、困った表情をさせてしまった時に謝り、我慢しようとしたら…


「なんで?シューが甘えるのは私だけで、その私が良いって言ってるんだから変わったり我慢する必要はないんだよ?」


と、言われた。

むしろ、我慢した時の方が無表情になってちょっと怖いような…。


迫り来るドラゴンに、まだ戦える者は剣を構え、負傷者や軽い怪我人は重傷者を連れて避難する。

地面へと降ろされた俺は剣を構えドラゴンへ向き合う。


「さぁーってと、ドラゴン退治といきますか!」


俺はドラゴンに立ち向かう騎士達全員と自分の剣に強化魔法をかければ、地面を蹴った。


ーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー




やはりラスボスとだけあって手強い。

ドラゴンが炎を吹いたり爪や牙で攻撃してくれば、俺は最大に硬化したバリアで防ぐので手一杯だ。

攻撃に回る余裕は無く、その間にシャラフィーヤや他の騎士が攻撃するが、分厚い皮を貫くのは勢いと力がいる。

皆、息が上がってきている。


「シュー、大丈夫か?」


ドラゴンに一撃を与えたシャラフィーヤが俺の近くに降りてくる。


「ん…まだ大丈夫だ…けど…」


「やはり…気づかれたか?」


「たぶんな。俺が魔法で攻撃を防いでるって認識してるっぽい…」


少し前からドラゴンが俺目掛けて攻撃する事が多くなった。

ドラゴンって知能もあるんだな。

俺の応えにシャラフィーヤの顔から表情が消える。

青い瞳もどこか暗くなっているのはきのせいか…?


「……フィー?」


「ん?」


名前を呼べばいつもの様に優しく微笑んでくれる。

あ、やっぱり気のせいだったみたいだ。


「知能があるなら、学ばれる前に早く倒した方がいいよね。頑張るよ」


俺の頭をひとなですれば、また攻撃へと戻っていった。

俺も防御に徹しながら、隙を見てドラゴンへと攻撃を仕掛ける。

一撃一撃はドラゴンにとってかすり傷程度だろうが、連続でやられると煩わしいのだろう。

ドラゴンは炎を吐くのを止め、爪を振り回して近づく騎士を追い払おうとする。

それも蚊を追い払うみたいな軽い動きなので、バリアせずとも皆、避けられる。

俺はその間にドラゴンの真上にデカイ氷柱を作る。

炎や雷の攻撃では他の騎士にも当たってしまう。

ならばと、氷柱で貫く作戦に出たのだ。

もう少し…もう少し…


「今だ!皆避けろ!!」


俺が合図として伝えていた指笛を鳴らせば、それに従う騎士達…と、俺にぎょろっとした目を向けたドラゴン。

その口角が少し上がっている気がした。


「グウォォォォォォォォォォッッッッッッッッッ!!」


「……っ!!」


俺はドラゴンと同じくらいデカイ氷柱を操作するので精一杯だ。

今バリアを展開したら氷柱は消えてしまうか、動きが鈍ってしまう。

ドラゴンが俺に向かって飛んでくるのが見える。

大きく口を開けて、その牙で食い殺そうというのか……


「ハハッ…一騎打ちってやつか?」


俺はバリアよりも、氷柱を選んだ。

絶対、ドラゴンが俺を食らうよりも先に氷柱を落としてやる!!

俺は氷柱に全集中して、氷柱の落ちる速度を加速させた。

ドラゴンの牙が目の前まで迫ってきても…こうなったら相打ちかくご…


ザンッ!!


ドサッ……!


「へっ?」


10cm前……俺の目と鼻の先で、ドラゴンの頭が地面に落ちた。

なにが起こったのか分からない。

なにやら肉の焼けるような美味しそうな、この場に相応しくない匂いまでしてきてさらに困惑した。


俺はゆっくりと立ち上がり、ドラゴンの周りをゆっくり歩きながら状況を確認する。

ドラゴンは、首と胴体が真っ二つに別れていた。

その切れ目の近くには、光る剣を握ってドラゴンを見つめるシャラフィーヤの姿が。


「フィー!!」


俺が駆け寄ると、振り返り腕を広げてくれる。

その手にあった光る剣はもう消えていた。

俺は吸い込まれるようにその腕の中へすぽっと収まる。


「これ、フィーがやったのか?凄いな!?さっきの剣はなんなんだ?」


上を向き目をキラキラさせ質問攻めにする。

俺が出来ないことをやってのけるシャラフィーヤはほんとに凄い。

十年以上一緒に居るのに、好きな気持ちは衰える所か拍車がかかっている気がする。


「無事で良かった、シュー。

たかがドラゴンが私のシューを食べようとするなんて身の程知らずだよね…。

カッとなったら光を凝縮した剣が出来たんだ、お陰ですぱっと斬れたよ。」


落雷で木が真っ二つに折れるみたいな威力だろうか?

難しい事は分からないが、ぶっつけ本番でやってしまうなんて…


「フィーはかっこいいな!!すげー!!」


つい、子供みたいにはしゃいでしまった。

興奮し過ぎてピョンピョン跳ねてずっと「すげーすげー!」と連呼する。


「惚れた?」


「おうっ!!ますます惚れた!!……っ…いっ!?」


ズキッと下腹部に強い痛みが走る。


「シュー…?」


「〜〜〜ッ…痛ってぇ……っ!!」


今まで味わった事が無い程の痛みに俺はシャラフィーヤから手を離し、顔を真っ青にしながズルズル地面に崩れ落ちた。

顔面蒼白で汗が滲み、腹部を抱え込むように腕を回して強く押さえるも、痛みは強くなるばかり…


「シュー!シュー!!」


シャラフィーヤの俺を呼ぶ声に何か返したかったが声を出す余裕なんて無く、声は徐々に遠ざかり俺はそのまま意識を手放した。

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