4 「結婚式は挙げます」【side:アシュー】
「うちの双子は婚姻届けを出せなくてもそちらの子達と共に居たいと言っているので、私としてはシャラフィーヤ君とリンサーラちゃんがうちの双子とこれからも縁を繋いでくれるとありがたいのだが……」
俺の父親がそう話すと、シャラフィーヤのお義父さんがとってもホッとしたように息を吐いた。
「はぁぁぁぁぁ………良かった!!ほんとに良かった!!シャラフィーヤもリンサーラも、君たち双子との縁が切れたら、妻も何をしでかすか!って恐ろしかったん…ぐほっ!!」
シャラフィーヤのお義母様がふふっと穏やかに微笑みながら隣の旦那に肘で攻撃をしていた。
あれは横腹にクリティカルヒットして痛そうだ…。
「何をいってるのアナタ。私に恐ろしい事なんて出来ませんよ?」
「そ、そうだな…」
「ははっ、君たちは相変わらずだな」
俺の父親とシャラフィーヤの両親は友人同士でとても仲が良らしい。
俺の父親が懐かしそうにほわほわしながら言えば、シャラフィーヤの父親は苦笑いしていた。
お母さん達は扇で口元を隠しながら目は微笑んでいる。
「だが、2日後の結婚式はどうする…」
「ひとまず中止にした方が……」
その親達の言葉に俺はソファーの上で繋いでいたシャラフィーヤの手を握りしめ、下を向いて気持ちを落ち着けるように深く、誰にも心配かけないように小さな動きと音で深呼吸をした。
分かっていたが、10年間、楽しみに待ちわびていたのだ。
それが“確実に”無くなるのはなかなかしんどい。
そんな俺をシャラフィーヤが無表情でじっと見ていたことに俺は気づかなかった。
「結婚式は挙げます」
「え?」
結婚式は中止の流れになっている中、隣でシャラフィーヤがハッキリと断言した。
俺と両親達は驚き、皆一斉にシャラフィーヤを見る。
「国に届けは出さず、教会で誓いを立てるだけの結婚式もあると聞いた事があります。
私が結ばれたいのはシューだけです。シューだって、私以外と生涯を歩むつもりはないよね?」
にこりと微笑まれたので全力で頷く。
俺も、シャラフィーヤと結婚できないからって他の人と結婚する気は無い。
「…ふふっ、いいんじゃないかしら。書類で国に認めてもらうことは出来なくても、結婚式で神様に誓えばよからぬ事を考えて近づいてくる者も減るんじゃなくて?」
「それに、私もアシューちゃんのウエディングドレス姿、楽しみにしているのよ?
うちに保管しているアシューちゃんのウエディングドレス…サフィンクス家の魔法のドレスだってまだ形は変わってないわ」
「ほんとですか?!良かった…っ!」
俺が結婚式で着る予定のドレスは、サフィンクス家に代々伝わる魔法のウエディングドレスだ。
サフィンクス本家に関わる人物で、本家の人間とドレスが認めた花嫁が手にすると、その花嫁を一番美しく魅せるドレスに形を変える。
俺が初めてドレスを渡された日、サフィンクス夫人のウエディングドレスだった純白の生地は俺が着用した途端、形を変えた。
身体にフィットしてボディーラインを綺麗に見せる形で大きく開いた背中、スカート部分にはスリットが深く入っていて、試着した時は少し動くだけで太腿から足先までがチラッと見えるようになっていた。
勿論ギリギリ大事な部分は見えない。
さすが魔法のドレスだ。
中指のリングから二の腕を伝ってドレスまで繋がっている宝石の飾りは素肌に直接飾られるみたいで、手袋は無かった。
生地には金糸で刺繍が施され砂粒ほどのちーっちゃなダイヤ、ブルーダイヤ、サファイアがちりばめられているから、光が当たるとキラキラしている。
俺はこの小さなキラキラが、このドレスで一番気に入った。
シャラフィーヤが使う光の魔法みたいだからだ。
胸元にはサフィンクス家の家紋が魔法で中に刻まれたブルーダイヤのブローチが付いている。
俺が着た姿は当日までのお楽しみだが、ドレスだけはシャラフィーヤにも見てもらった事がある。
ドレスを見たシャラフィーヤは微笑んでいたが、なんか…ちょっと嬉しそうに見えない気が…
そう思っていたら、シャラフィーヤは暫くじっとドレスを見たあと、ゆっくり口を開いた。
「……これを着たシューは綺麗だろうけれど…露出が多過ぎないかな?」
「んー…でもこの露出してる箇所って…、背中やうなじ、腕や足…ぜーんぶフィーが「綺麗だ」って褒めてくれた場所なんだぜ!きっと、魔法のウエディングドレスもそう思ってくれたんだろうな。そうだったら俺はすげー嬉しい」
この露出高い服を着ても俺は美しいと、魔法が認めてくれたって事だろ?
誰だってなれるものじゃない。
美しさは、生まれつきの体格や環境にもよるが、それに加えて日頃の努力がものをいう。
大好きなシャラフィーヤと結婚する時に人生で一番美しい姿で結婚するんだ!と、俺ももちろん情報を集め、色々試し、念入りにケアをして頑張ってきた。
その努力を認められて、嬉しくないわけがない。
「綺麗だから、誰にも見せたくないんだけど…シューが嬉しいなら結婚式の日だけは我慢するよ」
何を我慢するかは分からないが、「サンキュー!」と笑顔を返せば、しかたないなと言うように一つため息をつきながら、愛おしそうに俺の髪を撫でてくれた。
そんな事を思い出して、ちょっと頬が緩む。
やっぱり、あのドレスを着た姿をシャラフィーヤに見てもらいたい…
「形が変わっていないなら、シャラフィーヤの結婚相手はアシュー君だな。もし同性婚が廃止になってシャラフィーヤや私達が別の相手を考えたらドレスは形を変えてしまっただろうから」
サフィンクス当主のその言葉を聞いてぞっとした。
その可能性もあったのかと…
顔を引き攣らせていたら、シャラフィーヤが顔を覗いてきた。
「そんな事は絶対ありえないから安心していいよシュー」
「フィー…んっ」
安心させる為か、シャラフィーヤが頬に口付けをしてきた。
嬉しい、が、親の前は恥ずかしいって!!
シャラフィーヤを怒る事も出来ず、俺は羞恥に顔を真っ赤にさせた。
「アシューは好きな人にこんなに愛されて幸せ者ね…」
「そうだな。」
父さん、母さん、そんな微笑ましい目で見ないでくれ!!
ぐぬぬ…と悶えながらも、話し合いはスムーズに進み無事に終わった。
結婚式の招待客に連絡したり、帰ってからは忙しくなりそうだ。
帰り際、俺はシャラフィーヤと、ミシューもリンサーラと別れがたくてずっと抱きついていた。
そんな俺をシャラフィーヤは大人の余裕か、幸せそうにクスクス笑いながら何度も額や頬にキスをして宥めてくれる。
「私もシューと離れ難いよ。でもそれももう少しの辛抱だ。」
「ん…分かってる…分かってるけど…〜〜〜っ!!」
大人になっても相変わらず、俺はシャラフィーヤとの別れが名残惜しくて駄々をこねてしまうのであった。




