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大好きな婚約者と結婚したいだけなのに、世の中そんなに甘くない!  作者: 青李


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3 同性婚廃止 【side:アシュー】

【結婚式まであと3日】


悔しそうに細められた瞳とギリっと音がなりそうな程食いしばられた口元。

風呂上がりでもう寝るだけだった俺とミシューは二人一緒に書斎へと向かう。

部屋には執事と母親が既に居た。

俺達は両親と向き合う様にソファーへと腰を下ろす。


「……」


が、なかなか話が始まらない。

いつもならさっさと話すのに…

何があったんだ…?

分かるのは、良い報せでは無いという事。


「あなた……」


母が父の肩に手を添え声をかければ、父は大きく深呼吸をして背筋を伸ばす。

俺達に向けられた金の瞳には、涙の膜がはっていた。


「単刀直入に言う。……同性婚が廃止になった。」


「「……え?」」


「……明日には報せが国中に届き、明後日には同性での婚姻届は受理されなくなる……」


「「はあ?!」」


ドクンドクン…と心臓が嫌な音を立てている。


「いきなりすぎんだろ?!」


「なんで……いきなり…………そんな話が出てる事すら……今まで……聞かなかったわ……聞いてたら…………」


「………」


聞いていても、婚姻可能な年齢に達していない俺達はすぐに届けを出す事も出来無い。

あぁ…あと数日、早く生まれてきていたら……“俺”は結婚できた。

が、ミシューの相手であるリンサーラはまだ16歳だからまだ2年もある。

……俺が出来てもミシューはどうしようも出来ない。


「同性婚の廃止の理由は、出生率の低下だ。」


「そんな……」


同性同士でも、魔法薬を使えば妊娠出産が可能になった。

が、その確率は異性同士よりも低く子宝に恵まれるまで時間がかかるケースが多い。

すぐに妊娠できた話は約50年の間で片手で足りるくらいしか聞いた事が無かった。


「それを理由に、ラチカ王女様がかなり強引に廃止へと持って行ったらしい。

陛下も理由が納得いくものだったし、可愛い娘が初めて会議の場でしっかり発言したものだったから、政治に関わってくれたのが嬉しかったのだろう…すぐに受理されなくなるのはどうかと俺達臣下は難色を示したり反対したんだが…結果はこうなってしまった……。」


「はっ……あの王女様が、な…。珍しく頭を使ったじゃねーか。…この国の王族が、婚約者のいる男に擦り寄り媚びを売りまくるだけの女じゃなくなったのは喜ばしい限りだ。」



俺は足を組み、ソファーの肘掛に肘を付いてやけくそに吐き捨てる。

俺に関係ない話なら、な。

だが、関係大ありの当事者で長年の夢も奪われたのだ、喜ぶ以上に怒りが上回る。

きっと、王女様の事だ。

出産率の低下なんて後付けの理由で、俺とシャラフィーヤの結婚を阻止する為の行動だろう。


「アシュー……」


母は俺の言葉を咎める事はせず、涙ながらに俺の名を呼んだ。

俺が10年前からどれほどシャラフィーヤとの結婚式を夢見ていたか知っているから…

念入りに沢山の時間をかけて準備してきたことを見てきて、なにより、どれだけシャラフィーヤを愛しているか…耳にタコができるほど聞いてきた母は、結婚式を目前に廃止になった俺の心境を慮って涙していた。

自分も悔しいし悲しいし怒りも込み上げて感情も脳内もぐちゃぐちゃだが、ノブレス・オブリージュの精神(高貴な身分は義務を伴う)と、大切な人達の幸せを優先してしまう性格が、自分の事より大切な母の涙を止める事を優先する。

それはミシューも同じだった。


「…大丈夫だよ、母さん。…もしダメなら婿養子とか…家族になる方法はまだあるんだから……」


「そうよ。婚姻できなくても、私達の愛は変わらないわ…」


俺達は涙する母を安心させるように優しく微笑む。

俺達が絶望していない事に安心した両親は少しだけほっ…と落ち着きを取り戻してくれた。


「そうだな…例えば、表向きはアシューとリンサーラ、ミシューとシャラフィーヤが結婚するとか…………」


ぽろっと零れた父親の言葉に、俺達は笑みを消して勢い良く立ち上がり


「「あんな腹黒となんて(か)書類上だけって言われても絶対嫌よ(だ)!!」」


その言葉にバッと隣にいるミシューを向き、ミシューも同じタイミングで俺の方を向いた。


「「俺(私)の婚約者を腹黒って言うな(わないでよ)!!!」」


「あなたっ!!」


父の軽率な一言でまた兄妹喧嘩が始まりそうな雰囲気に母が悲鳴に近い声で夫を窘める。


「す、すまない…お前たちも落ち着きなさい!!」


ギリギリ…なんとか兄妹喧嘩は起こらず、その夜は解散となり俺達は隣同士になる自分達の部屋に向かって並んで歩いていた。

窓から差し込む月明かりが明るく、空を見あげれば今日は満月だった。

自室に入ろうとしたら、ミシューが俺の腕を引っ張った。


「へ?」


そのままミシューの部屋へと連れていかれる。


「なんだ、ミシュー?」


「…………あたしだって…………」


「ん?」


下を向いているミシューがポツリと言葉を零す。


「あたし…だって……サラと、結婚式…………」


そこまで言って、ミシューは上を向いて大粒の涙を流して泣きじゃくった。


小さな子供みたいに、わんわん大声で泣きながら、俺の胸元を掴んで弱々しく揺さぶるミシュー。

自分達を慮って悔しそうに表情を歪める父と涙する母を前に、言えなかったミシューの本心。


俺が婚約して…ミシューがリンサーラにアプローチしている時からずっと、俺とミシューの二人は夢を見ていた。

お茶会や華やかな場所、買物に行く度に結婚式の話で盛り上がり


「あっ!あのテーブルクロスいいな!俺の結婚式でもこういう組み合わせ使おう!」


「あたしはあのピンクのショートケーキ出すの!」


「じゃあ俺は青色のショートケーキ!」


「えぇー、そんなの作れるの?」


「うちのシェフは優秀だから絶対作ってくれるさ!!」


大きくなってからは、ドレスやタキシードも一緒に考えた。

俺がドレスを着るように、ミシューも男装の麗人でなかなかかっこいいのだ。

だから、結婚式ではどれを着ようか悩んでいた。

もちろん婚約者とも話し合うが、家であれこれ二人で考えるのも楽しくて幸せだった。


「やっぱり、青と金は外せないわよね」


「俺達四人の色だもんな」


「いっそ四人で結婚式挙げましょうよ」


「やだよ。1秒でも早く結婚したいんだ、俺は」


「せっかちな男は嫌われるっていうわよー?」


「フィーは俺を愛してくれてるから大丈夫だー」


そう言って笑いあったあの頃。



もうそろそろ、ミシューとリンサーラも結婚式の準備を本格的に始める頃だった。


「てゆーか、あんたも少しは悲しんだり怒ったりしなさいよ!!!なんでそんな平気そうなのよ!!あと3日だったのよ!!?10年間待って、あと数日で叶う目前だったのに!最高のウエディングドレスがあって、結婚式の為に小さい頃から毎日やっている剣の訓練どころか基礎トレーニングも止めて、肌と髪と体型維持に努めてたのに…悔しくないの?!」


「ん?んー……」


俺の胸ぐらを掴んで力いっぱい揺らすミシューに苦笑いする。



「…そりゃ、悲しいし悔しいさ。けど、父さんが憤ってくれて、母さんとミシューが泣いてくれるから……まだ我慢できるよ。それに…なにより、泣いたら目が腫れるだろ?」


俺は目元をトンッと指した。


「目が腫れたくないのって、結婚式の為……?」


「そうそう。まだ、諦めきれないんだよ……。3日後に出来ないとしても、もしかしたら、その前とか…後とか…いきなり出来るかもしれないじゃんか。」


どうして平気そうにしてるかって、俺の代わりに父と母と双子の片割れが、俺の分まで感情爆発させてくれたから、だ。

それに、今まで少しずつ積み上げてきた物を今、ちょっとでも崩してしまえば、シャラフィーヤとの婚姻が本当に無くなってしまう気がして…


「…俺、頑固でワガママだから…今更他の奴と幸せになんて考えられねーの」


「アシュー……」


ミシューの手が背中に回り強く抱き締めてくれた。


「アシュー…絶対…絶対アシューとシャラ兄様の結婚式、挙げようね……」


「ああ…」


「アシュー……?」


何故だろう…大丈夫、大丈夫だと思っていたが、心許しているミシューに抱き締められた瞬間、張り詰めていた気が抜けてしまったのか…いきなり身体が重くダルくなってしまった。


「わるい……ちょっと、横になりたいかも…」


「アシュー…アシュー?!」


ミシューの俺を心配する声がする…

ミシューは慌てて俺を支えながら近くにある自分のベッドへと運んでくれた。


その晩、俺達は久しぶりに二人一緒のベッドで手を握りあって眠った。

あの後、吐き気も込み上げ本当に体調が悪くなったのだ。

自覚した以上に結構ショックでかなりストレスだったらしい…。

そして俺が体調悪くなるほどショックなら、双子のミシューが平気なはずがなく…

二人同時に軽い体調不良になり、翌朝にはだいぶ良くなっていた。

体調悪くなるタイミングも良くなるタイミングもピッタリな事に二人で呆れて笑う。

体調不良はすぐ無くなった為、誰にも話す事はなかった。


今日は今後の話し合いをする為にサフィンクス家に行く予定だし…体調悪くなったと言ったら心配した両親が行くのを延期してしまうかもしれない。

シャラフィーヤがどうしているか心配だから、1秒でも早く会いたい。

会う機会が伸びるのは困るから、やはり内緒にしなければ。




【結婚式まであと2日】




「サァァァァァラァァァァァッッッ!!!」


サフィンクス家に到着し案内された応接室にはサフィンクス夫妻とシャラフィーヤしか見当たらず、ミシューが不安げにリンサーラの事を聞けば、昨晩から部屋に引き篭もり泣き続けているらしい。


それを聞いたミシューはサフィンクス夫妻への挨拶を必要最低限済ませギリギリアウトな速度の早足でリンサーラの部屋へと向かってしまった。


ミシューなりに最低限のマナーは守ろうという気持ちはあったようだが、大きな声で叫ぶのはアウトだと思うぞ。


「シュー」


「フィー!」


ミシューの去る姿を眺めていたら、シャラフィーヤが俺の方へとやってくる。


俺はソファーから立ち上がりいつものように軽いハグをしようとしたら、いつもと違い強く抱きしめられた。


「フィー?」


「……思ったよりシューが大丈夫そうで安心した…けど、私の方がダメージ受けてるのは驚きだ。」


どこか悔しそうな声色に俺はハハッと笑い、安心させるようにスリっとその胸元に頬擦りした。


「…だって俺、まだフィーの事愛してて…まだ諦めてねーから」


「シュー…」


甘く名前を呼ばれると、キスしたくなるな…

目の前にあるシャラフィーヤの唇を見ていたら、声を掛けられハッと我に返る。


「…ふふっ、仲良しなのはいいけれど立ち話もなんだから、座りましょう?」


にこにこ微笑むサフィンクス夫人の言葉に、照れながらシャラフィーヤと身体を離す。


両親にや他の人に、婚約者とイチャイチャする姿を見られるのはちょっとばかり恥ずかしい。


そう思って人前では控えているつもりだったのだが、結構バカップルな姿を晒していたらしい。


その事実をアシューが知るのはもう少し先の話になる。





サフィンクス夫妻とロイノードル夫妻がローテーブルを挟んで向かい合うように座り、俺とシャラフィーヤは入口に近い二人がけのソファーへと座る。


ミシューはまだリンサーラの部屋に行ったまま戻ってきていない。


俺にぴっとりと寄り添って座っているシャラフィーヤの目は泣いた形跡は無いが、目の下にうっすらクマが出来ている気がする…




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