2 結婚式まであと5日【side:アシュー】
そんなこんなで、8歳で婚約してから9年の月日が流れ、俺は17、シャラフィーヤは今年の誕生日で20歳になった。
シャラフィーヤは去年、貴族が通う学園を卒業し今は王宮の騎士として働いている。
俺も家を継ぐまでは王宮の騎士として働きたいと考えているから、もしシャラフィーヤと働けたら…とちょっと楽しみだったり…
シャラフィーヤは騎士団の中でもエリートしかなれないソレイユ騎士団に入っている。
ソレイユ騎士団は王族の警護や内密な任務を主とする為、剣以外にもマナーや教養も求められる。
主に貴族から選ばれる事が多く、学生中にスカウトされて卒業と同時になれるのはひと握り。
騎士の中でも少数しか選ばれない為、騎士を目指す者にとって憧れの騎士団だ。
俺もなりたいなーと思いつつ、でも王族の中に苦手な人がいる為ちょっと悩んでいる。
そんな俺はあと6日で18になる。
18歳といえば結婚出来る年齢だ!
18の誕生日に結婚したいと8歳の頃からずっと宣言してきた!
シャラフィーヤも、
「私も早くアシューと結婚したいから賛成だよ」
って言ってくれたから何も問題は無い!
両親は学園を卒業してからでもいいんじゃないかと言われたが、俺は一分一秒でも早くシャラフィーヤと結婚したかったからそれは断固拒否した。
【結婚式まであと5日】
今日、俺達はとある貴族のパーティーに来ていた。
シャラフィーヤはパーティーに出席する王太子と王女の護衛の為、残念ながら別々で参加だ。
俺はシャラフィーヤの瞳の色である深い青の生地に金糸で刺繍された服を着て、双子のミシューとその婚約者であるリンサーラと一緒にパーティーへとやってきた。
リンサーラはシャラフィーヤの4歳下の妹で、俺達とは2歳違いだ。
シャラフィーヤと同じ金髪はふわふわで、青い瞳は少しタレ目で可愛い。
煌びやかな会場に入れば、ミシューは美味しそうなスイーツに夢中になっている。
俺とリンサーラもクスクス笑いながらそれについて行った。
「公爵家のスイーツは美味しいって評判なのよね!目指せ!全制覇!!」
ケーキなどの甘い物に興味なく、あれば食べるが食べなくても困らなかったミシュー。
だが最近スイーツの美味しさに目覚めてしまったらしくずっと食べている。
「ふふっ、私もご一緒したいけれど…全部は入りそうにありませんわ……残念……」
「大丈夫よ!あたしが一口ずつあーんって食べさせてあげるわ」
「まぁっ!」
ミシューのその言葉にリンサーラの落ち込んでいた表情がパァァッと明るくなり、頬も赤く染まる。
「お姉様のあーん、嬉しいですわ…」
「キャーーーッ!!もうほんっと可愛いっ!!あたしのエンジェルっ!!」
あまりの可愛さに我慢できないと抱きしめるミシューと照れながら微笑むリンサーラ。
二人の甘々な雰囲気を俺は苦笑しながら見つめる。
…二人を見ていたらますますシャラフィーヤが恋しくなった。
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
ー
初めてミシューがリンサーラに会ったのは俺の婚約お披露目パーティーでだった。
6歳だった天使のように可愛いリンサーラに出会い、あまりの可愛さにメロメロになったミシューは猛烈アタック。
気弱でおっとりしているリンサーラは、その可憐さと家柄で6歳にして求婚者が多く、ミシューも負けじと頑張っていたな。
手紙やプレゼント、花束を贈り、時間があれば毎日数分でも会いに行ってとっっっても可愛がったり、パーティーやお茶会には必ず迎えに行ってエスコートし、毎日挨拶の様にプロポーズして……1年かかってようやくプロポーズを受けてもらえた。
と、ミシューは話しているが……
ミシューが前にシャラフィーヤを「腹黒」と言ったように、俺からしたらリンサーラこそ「腹黒」だと思う。
初めて出会った婚約パーティーで、ミシューお気に入りの……当時はまだ無名だったブティックのドレスと、こちらも当時無名だったがミシューお気に入りのデザイナーが作成したアクセサリーをリンサーラが付けていたのは偶然なのか…。
そこから話が盛り上がり仲良くなり、会話が楽しくてミシューはますますリンサーラの虜になったのだとか…。
それだけなら策士くらいにしか思わなかった。
だがその後、リンサーラはミシューの居ないパーティーでは上手く下心ある大人達を躱しているのに、ミシューが居るとミシューが助けに行くまで相手をしている。
それにミシューが「私が助けてあげなくちゃ!」と庇護欲を掻き立てられているのだが…。
ある日、ミシューではなく俺が助けに行ったら扇子で口元を隠しながら小さな声で
「邪魔しないでくださいまし、お義兄様」
と言われた。
頬を膨らませてプリプリ怒る表情も可愛かったが、
(あ、やっぱりミシューに助けてもらう為にわざとだったのか…)
と確信した。
ミシューが他の令嬢とお茶会がある日には必ず怪我をしたり体調が悪くなるし、ミシューに下心持って近づく相手はいつの間にかミシューの側から消えている。
ーーーー
ーーー
ーー
ー
あれは15歳くらいだったか…?
ある夜、ミシューに
「なぁ、リンサーラこそ腹黒じゃねーか?」
と言ったら、髪を梳いていたブラシをぶん投げられた。
ひょいっとかわしたから無傷だったが、乱暴だな。
「何言ってんの!?節穴も大概にしてよね!!あの子はシャラお義兄様と違って天使よ!エンジェルよ!あの子以上に純粋で愛らしくて可愛い女の子は世界中探しても居ないわ!!それを腹黒だなんて……!!」
「はあ!?おまえこそ、フィーをまだ腹黒って思ってんのか!?フィーのどこが腹黒だよ!!あんなに綺麗で裏表ない天使なのに!!お前こそ目玉腐ってんじゃないか!?」
と、婚約者を腹黒と言われお互いブチギレて久しぶりの大喧嘩をした。
小さい頃真剣でやりあった日以来の大喧嘩だ。
最初は取っ組み合いの肉弾戦から始まり、部屋にある武器になりそうなもので室内をめちゃくちゃにし、窓から庭へとフィールドを変えれば真剣での殺し合いだ。
女性相手に…と思うかもしれないが、ロイノードル家は優秀な騎士の家系で武に秀でている。
ミシューも卒業後は女騎士となる予定であり、現時点では現役合わせても女騎士の中ではトップの実力を誇っている。
その為…女だからと手加減したら負ける!!いや、死ぬ!!
特にお互い訓練相手としてずっと切磋琢磨してきたから弱点も分かりきっているのだ。
ちょうど、父親が遠征に出ていた日で誰も止める者は居なかった。
おかげで朝まで全力でぶつかり合い、屋敷の者が朝一で助けを求めたのかサフィンクス兄妹が慌ててやってきて兄弟喧嘩は終了した。
怪我を治療してもらいながら喧嘩の発端を話している最中もまた喧嘩しそうになったが、お互いサフィンクス兄妹に抱きしめられたり、抱き着かれていた為ソファーから立ち上がれずまた再熱することはなかった。
着替えの為にミシューと別れ自室に戻ろうとした時、ミシューとシャラフィーヤが居ない隙を狙ってリンサーラが俺に近づいてきた。
「お義兄様……」
「ん?どうしたリンサーラ」
服をギュッと掴み、上目遣いで見上げてきたリンサーラは俺を屈ませれば耳に唇を近づけ
「…余計な事は言わないでくださいまし、お義兄様」
と一言。
「っ!!?」
それはそれは、ゾクッと恐怖を湧きあがらせるほど冷たい声だった。
凛として、人ならざるもの…雪女みたいな声…。
リンサーラが武術に優れていると聞いた事は無い。
だが、ミシュー以上に俺は得体の知れないリンサーラの方が怖かった。
敵に回してはいけない…と本能が警告を鳴らす。
ゴクリと喉がなった。
「それと、お姉様を傷付けるのもこれを最後にしてくださいまし…」
頬に手を添えて悲しそうに伏し目がちに話すリンサーラ。
その姿は可憐な少女なのだが…
次に俺に向けられた視線には
“ツギ ハ ユルサナイ”
といったメッセージが込められていた。
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
ー
そんな事があったが、俺達4人は仲良くやっている。
今日の夜会もミシューがお願いしたからか、リンサーラは渋々一緒に行くことを許してくれた。
「よしっ!!俺も料理全制覇するかな〜…リンサーラにも一口あーんって食べさせてやるから、一緒に全制覇しようなっ!」
と、意地悪で言ったら口元に指先を当てて眉尻下げて困った表情をするリンサーラ。
「え…えと……そんなに食べきれる…かしら…」
こんなしおらしい顔をしながら内心では「余計な事しないでくださいましっ!!」とか思ってるんだろうなー…と考えると面白くて仕方ない。
「ダメよアシュー!!サラにあーんしていいのは私だけなんだから!!」
リンサーラを背後から抱き締めて独占欲を露わにするミシュー。
「サラ」は、リンサーラの愛称だ。
リンサーラは普段ミシューを「お姉様」と呼んでいるが、たまに「ミー」と呼ぶ事がある。
俺がシャラフィーヤを「フィー」、シャラフィーヤが俺を「シュー」と呼ぶみたいに、婚約者同士の特別な愛称だ。
三人で料理を食べていたら、ようやく広間に王太子と王女、それから護衛でシャラフィーヤも来た。
真っ赤な髪はウェーブがかかっていて、王太子のショートヘアーも王女のロングヘアもどちらも美しい炎のようだ。
その髪色に合う深紅に金糸があしらわれた衣装は国の力と豊かさを象徴するかのように煌びやか。
……その王族の一人、美しき王女様であられるラチカ様は相変わらず、シャラフィーヤにべったりだった。
シャラフィーヤの姿が見えたのは嬉しい。
だが、婚約者に他の奴がべったり引っ付いている姿にピキッと表情が強ばる。
俺が苦手な王族というのは、このラチカ王女様の事だ。
シャラフィーヤがソレイユ騎士になってからずっと事ある毎に自分の護衛を命じてベタベタベタベタ…
「シャラフィーヤ、このワイン貴方も一緒に呑みましょう?とても美味しいわよ」
「申し訳ありません、ラチカ王女様。仕事中ですので」
王女様の誘いをにこりと微笑みながらかわす俺の婚約者。
そう、俺の!
なのに、人の婚約者にベタベタしてんじゃねーよ!
離れろ!
と、心の中で罵詈雑言を浴びせていたらシャラフィーヤと視線が合ってしまった。
気まずくて視線を逸らす。
「ちょっと失礼します」
「ちょ……シャラフィーヤ…!」
俺に気づいたシャラフィーヤは、俺の気まずさなど気にせずこちらへとやってくる。
さっき王女に見せた微笑みとは違う、嬉しそうな笑顔で。
そんな顔されたら、王女にイライラしていた気持ちなんて嬉しくて吹っ飛んでしまうじゃんか…。
俺の傍に来たシャラフィーヤは申し訳なさそうに眉尻を下げ
「シュー、今日はエスコート出来なくてごめんね」
「ん…いいよ。どうせ王女様がワガママ言ったんだろ?」
そう聞くと肯定する様にシャラフィーヤは困った様に微笑んだ。
「…その服、着てくれたんだ。とても似合ってるよシュー」
そう、今日の俺が着ている服はシャラフィーヤが贈ってくれた服。
俺は全身見せるようにその場でクルッとまわってみせた。
「ふふーん、だろ?俺の婚約者はすげーセンスがいいんだ」
腰に手を当て胸を張り、得意気な顔をしてみせる。
「あぁ、ほんとに似合ってる。…私の婚約者もセンスが凄くいいんだ。このカフスボタン、お揃いなんだよ」
シャラフィーヤが腕を軽く上げれば見える菱形のマリガーネットがあしらわれたカフスボタン。
俺の瞳に近い色の石がシャラフィーヤの腕に。シャラフィーヤの髪色に近い石が俺の腕のカフスボタンに付いている。
シャラフィーヤも俺の贈り物を気に入ってくれたようで嬉しい。
視線が合えば、二人同時に幸せでたまらないと小さく笑う。
そんな二人の甘い一時を邪魔する高い声が…
「シャラフィーヤ…!」
たった数分しか経ってないのに、シャラフィーヤが戻ってこない事にごうを煮やした王女様がシャラフィーヤの名を呼ぶ。
俺と視線が合えば憎々しげに目を細めて睨みつけてくるが、王女様相手に睨み返すわけにもいかないので視線を逸らそうとしたら、シャラフィーヤが少し横にズレてさりげなく視界を遮ってくれた。
「……………もう行かないと。」
「あぁ。仕事、頑張ってな」
小さなため息を付いて落ち込むシャラフィーヤ。
元気づけるように軽いハグをし激励のキスを頬にすれば、耳元でシャラフィーヤが囁いた。
「ありがとう。…シューのドレス姿、早く見たいな…楽しみにしているよ」
俺はその言葉に頬を赤く染める。
そんな俺の髪を撫でてシャラフィーヤは護衛へと戻って行った。
俺は最近ドレスを着るのを止めている。
一昔前はこういうパーティーで男でドレスを着る事はなかったらしいが、今はそんな事ない。
着る人は少ないが俺含めいる。
着たからといって今の時代とやかく言う人はあまり居ないし、居たとしてもパーティーに出席できないくらいヨボヨボの老害か、イチャモンつけたいクズくらいだ。
だから俺は堂々と着る!似合うからな!
でも17の誕生日を最後に今まで着ていないのは、ウエディングドレスの為だ。
次に着るドレスはウエディングドレスだと決めている。
久しぶりのドレス姿、きっと新鮮で更に綺麗に見えると思うんだ。
だから、さっきシャラフィーヤが「楽しみにしているよ」と言ったのは結婚式のことも含まれると思うと………
あぁぁぁーーーっ!!!
顔がニヤケそうだ!!!
赤くなった顔を冷たい両手を頬に当てて冷やしながら必死にニヤケそうになるのを堪える。
そんな事をしていたら、俺の隣を通る時に王女様が扇で口元を隠しながら俺にだけ聞こえる声で呟いた。
「そうやっていられるのも今のうちよ…」
「え?」
どういう意味だ……?
この時はその言葉の意味が分からなかった。
その意味が分かったのは夜会から数日後。
夜に帰宅た父親が珍しく俺達を書斎へと呼んだ。
「アシュー、ミシュー…二人とも、すぐ書斎に来なさい。」
「「…?…はい」」
その表情から嫌な予感がした。




