15 あれから2年…【side:アシュー】
妊娠が分かった日から2年の月日が流れた。
日が高く上り、日差しが窓から差し込み俺の部屋を明るくしてくれる。
その部屋の中で、俺は2年前に着る予定だったサフィンクス家の魔法のドレスを身に纏っていた。
今日は俺の20歳の誕生日。
そして…念願の結婚式!!
「やっと…やっとだー!!」
とてつもなく濃い2年だった!!
妊娠が分かった数日後、他国へ視察に行っていた王太子が急ぎ帰国し、ロイノードル家とサフィンクス家へ謝罪をし、スタンピードを起こした王女様は国を危険に晒したとして処刑にするつもりだったのだが、王太子が他国へと嫁がせた。
この国から少し遠くにある海に面している貿易が盛んな国で、これから友好を築く為王女様に嫁入りしてもらったのだ。
上手くいけばこの国の貿易がもっと盛んになる事だろう。
王女様が王妃という権力を持つ事に俺達はもちろん不安を感じたが、その国では王妃は滅多な事がない限り国を出る事が無いという。
他国への訪問は王妃以外の王族が向かい、少なくとも王妃が他国へと訪問した記録はここ200年は無い。
つまり、俺達がその国へ行かない限り王女様に会う事は一生無いだろうという話なので、両家は納得した。
だが、シャラフィーヤだけは納得せずこれから先の俺と子供の安心安全の為にと死刑を望んだ。
「シャラ…妊婦やお腹の子によくないわよ…」
というお義母さんの小さく呟いた一言で考えを改めたとか…。
王女様の死刑が俺(妊婦)や子供にどんな悪影響を与えるのか分からないが、出産経験者である母親の言う事は聞いておこう。
あちら側も王女様が甘やかされて育った我儘姫だと知って受け入れてくれるらしい。
国王がそういう趣味なんだとか…
それならば、もうなにも心配する事はない。
嫁ぐ国の歴史どころか言語も知らない王女様にはかなりキツイだろうが、王族の責務を果たし国民への罪滅ぼしで頑張って貰おう。
願わくば、まだ若いのだから新たな国で改心し立派になってくれる事を願う。
それから同性婚廃止は、貴族と平民どちらからも抗議が殺到し、俺やシャラフィーヤの親達も子供達が結婚出来ないならこの国を出ていくと言ったらしく、それに危機を察した王太子が父である国王に至急王座を譲ってもらい新たに即位し今まで通り可能にした。
流石に建国当初から国を支えてきた知のサフィンクス家と武のロイノードル家、国王に次ぐ二大貴族が国から出ていくと色々とまずいのだろう。
同性婚を廃止にする事でこうなると予測出来なかった前の国王陛下は即位する前から“自分は王の器では無い”と分かっていたし、甘やかしてしまった娘がしでかした事を深く反省している。
息子は自分とは違い王に相応しいと分かっていた為、潔く王座から身を引いてくれたそうだ。
ということで、俺達は同性婚が可能になった日にすぐ婚姻届を提出した。
両家の父親と執事が見守る中、シャラフィーヤのベッドの上でサインをしたんだよな…
窓の外は気持ちいいほど澄み渡った青空、心地良い風が吹いていたのを覚えている。
俺の隣でベッドに腰掛けていたシャラフィーヤが二人のサインが入った用紙を父親に渡し、それを確認した父親は用紙を丸め封をしながら問いかけてきた。
「婚姻届はいつ出そうか?」
「今!今すぐ出してくれ!」
父親の問いに即答した俺。
俺がそういうのは分かっていたのか、父親はシャラフィーヤへと支線を移し
「シャラ君はそれでいいのか?もっといい日にちや思い入れのある日にしてもいいんだぞ。3日後とか…君達が初めて顔合わせをした日だろう?その日もいいんじゃないか?」
俺から父親へ支線を移したシャラフィーヤがそれに答えようと口を開いたが、その言葉が出る前に俺が答えていた。
「合わせなくていいからっ!!」
俺は婚姻届にサインをしたこの時、とても幸せだった。
確かに、幸福で満たされていたんだ。
だが、父親が「いつ出そうか?」「3日後」と聞いた瞬間、一瞬で不安になってしまい…。
「アシュー君?」
どこかソワソワして落ち着かず、焦りが滲み出ていたのだろう。
シャラフィーヤの父が小首を傾げた。
「あの…だって…」
「シュー」
焦って言葉を探す俺の名前を呼び、シャラフィーヤは頭を優しく撫でてきた。
俺がシャラフィーヤの方へ視線を向ければ、彼は“大丈夫”だと言うように微笑み
「私もアシューと同じで今日がいいです、お義父さん。」
「ん…そうか、2人がいいならいいんだ」
父親は頷き、封をした書類を執事に渡した。
執事はそれを持って部屋を出ていく。
それを見た俺はほっとして、安心してフィーにもたれかかった。
そんな俺をシャラフィーヤが髪を撫で続けながらじっと見ていたとは知らず…
「…そういえば、同性婚廃止になったのって挙式予定日の3日前だったよね」
「そうだけど…いきなりどうした、シャラ?」
「もしかして、アシューはそれがトラウマになっているのかな…と思って。」
「あぁ…」
「なるほど…」
「え?何がなるほど…???」
シャラフィーヤの言葉に父親達は分かったようだが、俺だけ分からず置いてけぼりになる。
「楽しみにしていた結婚式が3日前に出来なくなったのが、自覚している以上に相当ショックだったんだろう。」
「だから先延ばしになった場合、またダメになるんじゃないかと恐怖したんだじゃないかな?」
言われて確かに…と納得した。
だから、いきなりあんなに不安になったのか。
「“3日”というのがまた引き金になったんだろうね」
「…ふはっ、あの時は大丈夫だと思ってたんだけどなー…」
どうやら、そう思い込もうとして本当の本当は大丈夫じゃなかったらしい。
自分の本心って結構分からないものなんだな、とあの時初めて知った。




