16 最終話 念願の結婚式 【side:アシュー】
妊娠中はというと…
天国だった!!
人生初シャラフィーヤとこんなに長く過ごした!
朝起きて夜眠るまで…いや、寝ても大好きなシャラフィーヤが傍にいるなんて…きっとこんなに長時間いられるのは人生で最初で最後かもしれない!!
婚約していた頃は学校や仕事があったからどうしても離れなくちゃいけなかったから辛かったな…。
「幸せだぁ…だけど…」
ベッドから降りる事が許されず、食っちゃ寝生活で体重の数値は新記録達成。
妊娠中だから当たり前なのだが、太くなる指に丸くなる顔の輪郭…どうにかしたくても運動は出来ないし、食欲は頑張って抑えて…でも2人前は最低食べてしまう。
いいか、“最低”だ。
つまり、食べてしまう時はもっと食べてしまった…
お医者さんには「この増え方はギリギ…ごぼんっ!!ゲホン!!大丈夫!まったく問題ないよ。今の状態をキープしようね!いいかい!キープだよ!!」って。
なんか、俺の後ろにいたシャラフィーヤを見て震えながらそう言って念を押してた…。
周りは「赤ちゃんの分までしっかり食べなくちゃ!」と甘い誘惑してくるし!!
その誘惑に耐えるのがめちゃくちゃキツかった!!
産まれてから分かったのだが、お腹にいた子はとても大食いだったみたいで、だから食欲が増加したのでは…?という憶測も出たがあくまで憶測だ。
日に日にお腹が大きくなるのは、赤ちゃんがすくすく育っているんだと嬉しかったが、他が丸く太くなり、筋肉と体力が衰えるのが耐えきれず…。
大好きな旦那様と毎日居られるのは嬉しいが、こんな自分を毎日見られているのは精神的にきた…。
だって、大好きな人とは綺麗な姿で一緒に居たいじゃんか!!
落ち込み、泣いて、どーーーしても我慢できず、シャラフィーヤが眠っている夜中にこっそりベッドの上で筋トレしようとしたら…
暗闇でシャラフィーヤの目が開いていた。
あれはホラーだった…「ぎゃぁぁぁ!!」と悲鳴を上げてしまうくらいにはホラーだった。
…その後、何も言わず真顔で部屋から出ていった時は離婚の危機を感じて別の意味で怖かった…っ…!!
数分で戻ってきたシャラフィーヤに必死で謝って、もう絶対にしないと誓って許して貰えたから良かったけど…。
戻ってきたシャラフィーヤの手にあった縄は何に使うつもりだったのだろうか…
その後は出産まで筋トレもせず安静に過ごし、無事出産した。
半年経ったくらいに、赤ちゃんのお披露目を兼ねて結婚式を挙げないか?とシャラフィーヤと両親から提案があったが俺は首を横に振った。
そりゃ…式は挙げたかったが…産後少しずつ体重は減ったが、まだ体が締まっていない。
人生で一生に一度の晴れ舞台。
かっこよくて素敵な旦那様であるシャラフィーヤの隣に人生で一番綺麗な姿で立ちたくて…せめてあと半年時間をくれ!とおねだりし、頑張って妊娠前の体型に戻した!
授乳の為にデカくなった乳はどうしようも出来ないが、他は戻った!!
コンコン
「はーい」
部屋がノックされ、返事をする。
扉を開けて中へ入ってきたのは、俺の愛しい旦那様。
シャラフィーヤは初めて見る俺のウエディングドレス姿に、青い瞳を見開き驚いた後、眩しい太陽を直視した時のように目を細めて笑った。
「とても綺麗だよ、シュー…」
「ん…すげー嬉しい…」
俺もシャラフィーヤと同じ様に目を細めて微笑んだ。
ようやくシャラフィーヤにウエディングドレス姿を見せる事が出来た。
ずっとずっと、シャラフィーヤにウエディングドレス姿を褒めてもらいたかった。
その小さな願いがやっと叶ったんだ…
ドレスが乱れないようゆっくり歩いてシャラフィーヤに近づく間、彼の熱い視線が全身に注がれた。
穴が空きそうな程見られると…ちょっと恥ずかしいな…
頬を桃色に染めながら近づいてくる美しい姿のアシューを笑顔で見つめるシャラフィーヤの内心は、複雑だった。
アシューは前と同じ体型に戻ったと思っているが、変わったのは胸だけじゃなくお尻も丸みを帯びて大きくなっている。
ウエディングドレスを着るためと目標があったせいか、くびれも前より出来ていて…一言で言えば艶かしい。
性別を超えた美しさは性別を持たない神を彷彿とさせて、アシューを神界に取られてしまうのではないかという考えが浮かんでしまうほど。
結婚式を挙げて、“この子は私のだ”と周りに見せつけて牽制する、という思惑もあったが…妖艶な美しさを兼ね備えてしまったアシューは牽制にはならない。
むしろ、邪な考えを持っている人ならば既婚者だろうが子供が居ようが手に入れようと躍起になりそうだ。
2年前ですら、このウエディングドレスを着たアシューを他の人に見せたくなかったのに、まさか2年後更に見せたくないほどアシューがレベルアップするとは思わなかった。
シャラフィーヤがそんな事を考えているとは知らない俺は小首を傾げながら名前を呼び
「フィー?」
「…ん?」
「どうした?ぼーっとして…」
「…アシューに見惚れてたんだよ。他の人に見せたくないくらい綺麗だったから」
嬉しい言葉にまた頬が桃色に染まった。
シャラフィーヤは俺の腰に手を添え染まった頬を撫でる。
頬を撫でる掌に俺からも頬を擦り寄せ
「それを言うならフィーこそ…いつもかっこいいけど、初めて見る衣装だから新鮮でドキドキする。」
俺のドレスに合わせて白を基調とした色に金の刺繍。
俺のドレスにはサフィンクス家の紋章が入っているから、逆にシャラフィーヤはロイノードル家の紋章を胸に付けていて両家の結び付きを表した。
「シューにはいつまでもかっこいいと思われたいから嬉しいよ。
そろそろ時間だし、行こうか」
そう言ってシャラフィーヤは俺の手を取りエスコートしてくれた。
式場の入口に辿り着けば、二人小さな声で雑談をしながら時間になるのを待つ。
目の前には大きな扉があり、これが開けば二人一緒に入場する流れだ。
そのはずだったのだが…
「ふみゃぁぁぁっっっ!!」
「よしよし、いい子だから…」
「うぁぁ…グスッ…う?…うきゃぁぁぁぁぁっっっ!!!」
「…あれー?」
「どこいくのー?」
「「ぼくもいくー」」
「あ、ぱぱだぁ!!」
「わぁ、ぱぱたちきれぇー!」
「なにしてるのー?」
「あぁ、こらこら、そっちはダメだって…!」
聞き慣れた声にそちらを向ければ、こちらへとやってくる小さな子供達。
それを追いかける俺の両親と使用人。
お昼寝をしていた俺達の子が起きて、式場へ向かう途中で俺達を見つけてしまったらしい。
キラキラした6つの瞳に思わず表情が綻ぶ。
トップバッターは、一歳にしてはまだ身体が小さく話せない二卵性で産まれた2番目の子。
寝起きでグズっていたのだが俺のドレスを見た途端瞳を輝かせ高速ハイハイでやってきた。
この子は俺と性格がそっくりでキラキラが大好きだ。
つまり…俺が気に入っているキラキラなウエディングドレスをこの子が気に入らないわけがない。
足元まで来たその子はドレスを掴もうとしたが、その前にシャラフィーヤが抱き上げてしまった。
「ふぇ…」
目の前にあった宝石が遠ざかり、目にいっぱいの涙を溜めて今にも泣き出しそうになりながらシャラフィーヤに抱かれる2番目。
「キラキラ綺麗だもんね。でも触ると危ないから見るだけだよ」
「あうー…」
「ほら、代わりにこれなんてどうだい?」
「あきゃーーーっ!!!」
「すげー喜んでる…サンキュ、フィー」
抱き上げられた2番目は不満そうだったがシャラフィーヤのジャケットに付いているキラキラなボタンを彼が指さして教えたらそちらに意識が向いたようでボタンをむんずと掴んでご機嫌になった。
「…ぱぁぱっ!ぼくたちの、かえしてっ」
「だっこ、だめッ!!」
2番目の後をヨチヨチ歩きで追って来たのは一卵性双生児の1番目と3番目。
金色の瞳と髪をした見た目が瓜二つな歳相応の大きさでおしゃべり上手な男の子達。
彼らは立って歩いてきた為追いつくのに時間がかかった。
そんなこの子達が大好きなものは2番目の子。
好き過ぎて、今シャラフィーヤが2番目だけ抱っこしているのにプリプリ怒っている。
足下で必死に両手を伸ばしている姿は可愛い。
俺達の可愛い三つ子。
出産…いや、妊娠時から色々あったが、一人も欠けず元気に育ち一歳を迎えてくれた。
流石、妊娠初期スタンピードの戦いをお腹の中で共に乗り越えただけあって強い子達だ。
その三つ子は今、シャラフィーヤが器用に3人まとめて抱っこしていた。
2番目と一緒に抱っこされたから1番目と3番目は怒りを鎮め満足そうにしている。
「すまないシャラくん。ほら三人ともこっちにおいで」
俺の父さんと母さん(子供達から見たらおじいちゃん、おばあちゃん)、メイドが手を伸ばすが三人同時にプイッと顔を背けてシャラフィーヤにしがみついた。
断固拒否。
「えぇぇ…」
拒否されショックを受ける父さん。
シャラフィーヤが渡そうとしたらもっと強くしがみつく三つ子。
それにシャラフィーヤは苦笑し
「もう入場の時間なんだけどな…そうだ、家族みんなで入場する?」
「「「え?」」」
驚く両親と俺。
その発想は無かった…
でも、今引き離したらまた大泣きしちゃうだろうし…
入籍した時だって、2人じゃなかった。
子供達もお腹に居た状況で家族になったんだから、結婚式の入場(始まり)も全員でやっていいんじゃないか…?
「…俺は賛成。三人とも寝起きで機嫌良いみたいだし。ただ…三人抱っこして俺をエスコートするフィーが大変じゃないか?重いだろ…?」
大丈夫か?と心配したが、シャラフィーヤは幸せそうに微笑んだ。
「いつもシューを抱っこしているから平気だよ。3人の方がまだ軽いしね。」
「そりゃそうだけど!なんか、悔しいな…」
一歳児3人の方が軽いのは当たり前だが、なーんか悔しいのは何故だろう…
両親は空気を読んだのか、いつの間にか使用人やメイドだけ残して居なくなっていた。
そろそろ時間だから、式場内に別の入口から入ったのだろう。
「それに…可愛い我が子と美しいパートナーを連れて入場するなんて、父親として最高じゃないか。新郎冥利に尽きるよ。」
シャラフィーヤが抱いている3つ子を愛しい目で見つめていたら、それに気づいた3つ子が不思議そうににこにこと笑いながら見つめ返していた。
そんな可愛い3つ子の髪や頬にシャラフィーヤが口付けを落とせば3人はキャッキャッとはしゃぐ。
そんな親子のやり取りが愛しくて、俺はシャラフィーヤの腕に手を回せばギューッと密着し
「そうだなっ!…俺も最高に幸せだよ。俺と結婚してくれて、ありがとなフィー!」
さっき初めて俺のウエディングドレス姿を見た時みたいに、シャラフィーヤの目が見開いた後、眩しいものを見るように細まった。
でもさっきと違い、その瞳は涙で潤んでいる。
「新郎のお二人が入場します。皆さま盛大な拍手を______」
「あっ、時間だな!」
入場を知らせる声が中からした為、俺は姿勢を正して前を向く。
「…ありがとう、アシュー…私もとても幸せだよ…」
扉が開く直前に耳元で囁かれた言葉。
俺が頬を赤くしながらシャラフィーヤを見上げれば、言葉通り、彼はこの世で一番綺麗で幸せそうな微笑みを浮かべていた。
(あぁ…シャラフィーヤは出会った時と変わらず…今もキラキラして綺麗だな…)
俺も世界一幸せだと分かるくらい最高の笑顔をして応えれば、祝福の拍手が満ちる中、大好きな家族と共に赤い絨毯の上へ一歩踏み出した。
最後までお読みいただき、ありがとうございました




