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「あなたの手は取らない」と突き放したあの夜這いから十年、女王となった私に執着騎士と無能王子が膝を折るまで  作者: 中田かすり
十年がかりの献身──君の隣で笑って生きていく

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不協和音と無能王子──空虚はかくも麗しく




ルカ・ガレリア第二王子。



歴史の浅いガレリア国の中でも、その存在はヴェールに包まれており、今回のノルズランド訪問は、各国の注目を集めていた。



現国王の祖父である初代王が、一代で武力により築き上げたガレリア国は、建国以来、軍事力こそが唯一の法であると信じて疑わない「暴力と略奪の国」である。


自ら耕すことを忘れ、他国の富を食らうことで肥大化したその国は、百年もの間戦火を免れてきたノルズランド王国にとって、理解し難い野蛮そのものであった。


そんな飢えた獣のような軍事国家が突如として、婚姻による同盟を打診してきたのだ。

平和の微睡に浸っていたノルズランド議会は、突如として目の前に現れた「武装した強盗」を前に、ただ困惑し、右往左往するしかなかった。


一行を出迎えた貴族たちが、隠しきれない警戒と嫌悪に表情を強張らせていたのも無理はない。


ガレリアの使節団として現れた男たちは、皆一様に、日に焼けた肌に、戦場で刻まれたであろう生々しい傷跡を持っていた。


その体躯は熊のように逞しく、纏う空気はどこまでも荒々しい。


彼らが一歩踏み出すたびに、石床を叩く拍車の音が、静謐な広間に耳障りな不協和音を刻む。


ノルズランドの近衛兵たちは、無意識に剣の柄へと手をかけ、一触即発の緊張が辺り一帯を包んでいた。



───だが。



隊列が二つに割れ、その青年が姿を現した瞬間。

張り詰めていた空気が一転して静寂へと塗り替えられた。



あれほど殺気立っていた貴族たちが、まるで氷漬けにされたかのように、呆然と立ち尽くしている。




「……ふあぁ。退屈だなあ。ねえ、いつまでここに立ってればいいの?」




静寂を切り裂いたのは、あまりにも場違いで、気の抜けた声だった。


ルカはだらしなく大きなあくびをすると、眠そうに目をこすっている。



周囲の貴族たちの顔に、安堵と侮蔑が混じり合うのを、コンラートは冷めた目で見ていた。


「顔だけの無能」───皆がそう断じ、警戒を解いていく。



だが、コンラートだけは違った。



(何だこの違和感は……?)



ガレリア国の王子は、正妃が産んだ皇太子である第一王子だけとされていた。複数の側妃がいたはずだが、いずれも王女だけだった。


それが今回、これまで療養中のため公表していなかったという第二王子を、ノルズランドに送り込んできたのだ。


ガレリアの使節団の誰もが、この無作法な王子を咎めるどころか、視線すら向けない。


そこに何も存在しないかのように。




(まるで献上品が運ばれているようだな)




コンラートは気怠そうに歩くルカを見つめた。



その姿勢、傾けた顔の角度、手の置き場所、歩幅。



拍車が響かせる不規則なリズムの中、ルカの立つその一点だけが、空虚を作り出す。




(そうだ。作り出しているのだ)




眠そうな目がふいに彷徨い、一瞬、コンラートと視線が重なった。



コンラートはその薄氷色の瞳からどうしても目が離せなかった。





※※※





ガレリア国及び第二王子への対応で、ノルズランド議会は紛糾した。

特に肝心の国王が、王子の美貌に魅せられてしまったことで、多くの貴族の不満を募らせていた。


怒号が飛び交う議会室をなんとか治めたコンラートは、案内人の声と共に、貴賓室の扉を開けた。


そこには、だらしなく肘を突き、こちらを馬鹿にしたような笑みを浮かべるルカがいた。



「大変お待たせして申し訳ございません」



「別にぃ。ところでうちの連中どこに行っちゃったの?」



ルカの言葉に、コンラートは柔和な、しかし一切の隙のない微笑みを返す。



(ガレリアの使節団は、この王子を捨て駒にするつもりか。それとも……)



コンラートは、あえて核心へ踏み込んだ。



「ときに、第二王子殿下。殿下は大変見目麗しくあらせられる」



「あはは。よく言われるんだー」



「北方のどこかにゆかりが?」



ルカの眉が、ほんの一分いちぶだけ動いたのをコンラートは見逃さなかった。



「……え。……なに?」



「殿下のその薄氷色の瞳、よく似た色のものを、知っておりましたので……」



コンラートの声は、静かだが重い。



過去、自分が摘み取った光。自分が匿った美貌。それが今、目の前の青年の中で、より鋭利な知性を伴って脈打っていることを、かつての本能が指し示す。



「あなたの振る舞いは、ご自身の判断で?」



コンラートがさらに一歩、刃物を突き立てるようにルカに迫った。


ルカのその瞳の奥に、演技ではない、本物の「戦慄」が走るのを、コンラートはしっかりと見届けた。



「なんのこと?……あーあ、もう何だか疲れちゃったよ!もうおーわり!」



逃げるように席を立つルカの背中を、コンラートはただ、見つめていた。














最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。



もし少しでも続きが気になる、と思っていただけましたら、下部の【評価★】やブックマークをいただけますと幸いです。


皆様の応援が、物語を最後まで描き切るための何よりの原動力です。



次回もよろしくお願いいたします。

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