表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「あなたの手は取らない」と突き放したあの夜這いから十年、女王となった私に執着騎士と無能王子が膝を折るまで  作者: 中田かすり
十年越しに開いた扉──恋だの愛だのと生きていく

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/29

女王と騎士──恋だの愛だのと生きていく





背後で、重厚な扉が静かに閉じた。

続いて響いたのは、「カチリ」という、小さな鍵の音。


その瞬間、リーゼロッテの体は、強烈な熱に包まれた。



「……リーゼ」



髪に顔を埋めたクラウスの腕が、折れんばかりの力で彼女の腰を閉じ込める。

軍服越しでも伝わる、剥き出しの鼓動。

十年前突き放したはずのクラウスの温もり。


ずっと考えないようにしていた。


この国の頂に、たった一人で立ち続けた自負があった。


私は大丈夫だ。誰かの手を必要としなくても。

そう思って忘れたふりをしていた。


だが、今。



「クラウ……」



彼の名を呼ぶ声が、自分でも驚くほど震えていた。


すると、彼はさらに深く彼女の首筋に鼻を寄せ、飢えた獣のようにその香りを吸い込んだ。



「もっと、呼んでくれ。……その名を、君の声で」



「クラウ」



「リーゼ」



「……クラウ」



ただ名前を呼び合う。


それだけのことなのに、重なり合う吐息が熱を帯び、十年の空白が、音を立てて溶け崩れていく。


クラウスは彼女の頬を大きな手で包み込み、視線を逃がさないよう強く見つめた。



「リーゼ、……好きだ」



「クラウ……」



「好きだ」



それは、女王としての彼女への忠誠ではない。


戦場を彷徨い続けた一人の男が、ようやく辿り着いた、十年越しの告白だった。



「君しか、見えないんだ」



「クラウ。私も……」



リーゼロッテの指先がクラウスの頰の傷に触れた。



「……私も大好き」



どちらからともなく重なった唇は、息を継ぐ間も惜しいくらいで、離れていた時間を埋めるように互いの熱を確か合っていた。



(ああ、……こんなにも、温かいのね)



リーゼロッテはようやく、自身の冷え切っていた肌を自覚した。



女王の責務も、軍務卿の忠義も、今はすべてが遠い。



二人は互いの存在だけを唯一の道標として、深く、深く、夜の淵へと沈んでいった。




※※※




まだ薄暗い夜明け前の静寂の中で、リーゼロッテはゆっくりと意識を浮上させた。


窓の外では、ノルズランドの厳しい風が低く唸り声を上げているはずだ。


だが、厚いカーテンに守られたこの部屋は、まるで世界から切り離されたかのように静かで、暖炉の残り火が放つ柔らかな熱が、肌を優しく撫でていた。



(……夢じゃなかった)



リーゼロッテは、胸元まで引き上げられた毛布の中で、そっと吐息を漏らした。


隣に、彼がいる。


軍服に包まれていないクラウスの肌は驚くほど熱く、脈打つ鼓動が、指先を通じてリーゼロッテへと直接流れ込んでくるようだった。


昨夜、獣のような光を宿していた金緑色の瞳が、今は瞼に隠されている。


リーゼロッテの顔が急に熱を集めだす。


彼の手が触れた場所、彼が耳元で繰り返した熱い独白が、皮膚の裏側でいまだに燻っているような気がした。


それを逃すようにベッドを抜け出した。


裸足のまま窓辺へと歩み寄り、冷えたガラスに指を触れる。


窓の外は見慣れた雪景色。

篝火の足元の雪だけが、青白く光って見えた。



「……焦った」


その低い声が頭上から降ってきたかと思うと、背後から覆いかぶさるような、力強い腕。



「目が覚めて隣にいないから、また、俺の願望が見せた夢だったのかと……」



「ここにいるわ、クラウ。……私は、あなたと……」



リーゼロッテがその腕に手を重ねると、クラウスは愛おしげに彼女を抱き寄せる。


そして、「朝にはまだ早い」と言うや否や、リーゼロッテを抱きかかえるとすたすたとベッドへ向かったのだった。




※※※




翌朝、二人が一緒に目覚めた時、窓から差し込む陽の光が、部屋を黄金色に満たしていた。


鏡の前で、リーゼロッテがクラウスの軍装の歪みを直し、クラウスが彼女の肩に重厚な女王のマントをかける。


二人の瞳には、統治者としての鋭さと、それを支える確かな愛が宿っていた。


二人の手が重なり、内側から鍵が解かれる。


重厚な扉が左右に開くと、そこには整列した侍女たちと、槍を立てて敬礼する近衛兵たちの姿があった。


リーゼロッテが凛とした足取りで一歩踏み出し、クラウスがその半歩後ろ、守護者の位置につく。


臣下たちが「女王と、その王配となる男」の威厳に固唾を呑む中。


クラウスが、極限まで声を潜めて彼女の耳元に囁いた。



「……結婚式は、なるべく早く頼むよ。女王様」



わずかに耳を赤くしたリーゼロッテが、けれど表情一つ変えずに、前を見据えたまま静かに、けれど力強く答える。



「善処するわ。……私の騎士様」



繋いだ手を隠す必要はもうない。



二人は光が差し込む廊下を、真っ直ぐに。

どこまでも、その歩みを止めることなく。


















最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。



もし少しでも続きが気になる、と思っていただけましたら、下部の【評価★】やブックマークをいただけますと幸いです。


皆様の応援が、物語を最後まで描き切るための何よりの原動力です。



次回もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ