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「あなたの手は取らない」と突き放したあの夜這いから十年、女王となった私に執着騎士と無能王子が膝を折るまで  作者: 中田かすり
十年がかりの献身──君の隣で笑って生きていく

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永久の雪に(やみ)に閉ざされようとも、光は死なず









王宮の断末魔のような崩壊音が響き渡る中、アーサー・ベルマンは脇目も振らずに駆けていた。


背後には、彼が選び抜いた精鋭たちが続く。彼らには、この作戦の真の目的が共有されていた。ガレリアを内側から食い破るための導線を引き、十年間。いや、それ以上を孤独に耐え抜いた真の主を救い出すこと。



「急げ! 離れを確保しろ! 殿下に指一本触れさせるな!」



アーサーの鋭い号令が飛ぶ。

崩れゆく回廊を抜け、王宮の最果てにある離れに辿り着いた瞬間、兵たちは一斉に周囲を固めた。彼らの瞳にあるのは敵意ではなく、自分たちの知を支え続けた存在への、切実なまでの忠義だ。

扉が勢いよく開かれ、アーサーが真っ先に踏み込む。

だが、そこにいたルカ・ガレリアは、緊迫した兵たちの空気とは対照的に、冷たい石床に無造作に寝そべっていた。



「あはは。外、賑やかだね。お祭り?」



虚空を見つめ、指先で埃を弄ぶ無能王子。

兵たちの間に困惑が走る。自分たちが信じ、命を懸けて守り抜くべき叡智の主が、この空虚な王子なのか。


アーサーが短く「下がれ」と命じた。


扉が閉まり、静寂が戻る。

ルカの薄氷色の瞳が、ゆっくりとアーサーを射抜いた。



「……アーサーかい?」



その一言だけで、空気の密度が変わった。



「はい。お初にお目に掛かります。アーサー・ベルマンです」



アーサーがルカのそばに跪く。



「そうか。……そう簡単に死ぬ男ではないと思ってはいたんだ……家族も?」



「……全員、無事です。焼き場から、身元不明の遺体を数体、運び込みました」



アーサーの報告に、ルカはわずかに目を細めた。



「殿下、我らと共にここを出ましょう」



ルカはアーサーが差し出した手を見つめると、上体を起こしながら静かに、首を横に振った。



「君の後ろには、一体どれだけの人間がいる?」



「それは……」



「君たちの目的はガレリアを滅ぼすことだ。……オレは、ガレリアの一部だよ」



「殿下!貴方は最も、救われるべきお方です」



アーサーの言葉にルカがひととき目を閉じた。


そして再び開いたその瞳の奥には、静謐で澄み切った光が浮かんでいた。

サリナールの深い海の青とはまた別の、ひどく透明で、白に溶け入る淡い青。



「第二王子を担ぎ上げることになるよ?」



アーサーの喉がひゅっと音を立てた。



「綻びは見せるな。絶対に、やり遂げるんだ。……完膚なきまでだ」



ルカの視線が、裏庭へと流れた。 静かに佇むマリカの墓標が、白銀の光を浴びていた。


アーサーは言葉を失った。


遠くで、王宮の深部まで揺るがす凄まじい震動が響く。

それが、地を這うような重い音から、地鳴りのような猛々しい咆哮へと変わっていく。



「……それでも。殿下をお守りすることは、私どもの総意です」



アーサーは深く頭を下げ、退室した。

離れの外へ出た瞬間、彼は凍りつくような声で兵たちに告げた。



「ここを包囲しろ。一歩たりとも近づかせるな。影すら踏ませるな」



サリナールの精鋭たちが、言葉もなく離れを幾重にも取り囲む。 それは監視ではなく、主の孤独な聖域を、鉄壁の沈黙で守るための包囲だった。



その檻の奥で、ルカは再び床に身を投げ、吹き込む風を感じていた。 彼は眩しそうに目を細め、憑き物が落ちたような声で、一度だけ独りごちた。



「……アーサーも、カイルと同じで頑固なやつだったんだな」



刹那、地を揺るがすような雄叫びが爆ぜた。寄せ波のような歓喜と、引き潮のような慟哭。その両極の嵐が、王宮のすべてを飲み込んでいった。




戦争が、終わったのだ。




※※※




全土の帰順及び条約締結までのおよそ三週間。


地下牢、王族二名。

王宮離れ、王族一名。

拘束した高位貴族、およそ三十余名。

ノルズランド国内で捕えた兵を含め、捕虜およそ四千五百余名。


ノルズランド軍を中心とした連合軍による治安維持は、一切の略奪も反抗も封じ込める、緻密で隙のない牢固たる支配であった。
















最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。



もし少しでも続きが気になる、と思っていただけましたら、下部の【評価★】やブックマークをいただけますと幸いです。


皆様の応援が、物語を最後まで描き切るための何よりの原動力です。



最終話までもう少し!

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