表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「あなたの手は取らない」と突き放したあの夜這いから十年、女王となった私に執着騎士と無能王子が膝を折るまで  作者: 中田かすり
十年がかりの献身──君の隣で笑って生きていく

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/29

狂王の無様な終焉─氷華の旗よ、陽光を浴びて






「陛下っ!だ、弾薬庫が……反乱軍に寝返った兵らによって、占拠され……」



謁見の間へ飛び込んできた兵の言葉に、ガレリア国王、ヴァルハルトは、玉座から勢いよく立ち上がった。



「……武器は奪われ、残りの火薬は水に浸けられた模様で使用不可。じゅ、銃兵が、攻撃不可能です」



ヴァルハルトは腰が抜けたように、再び玉座に深く沈み込んだ。


その直後、扉の外から激しい金属音が重なり、どさり、どさりと何かが倒れ込む音が複数。

重たい扉が乱暴に開かれ、ノルズランド兵たちが雪崩れ込んできた。



「お前たち! 俺の周りに立て! 囲め! 王を守れと言っているんだ!」



ヴァルハルトの周りを、悲壮感の漂うガレリア兵たちが取り囲む。



「くそ……! くそ……っ! こんなはずでは……!」



ヴァルハルトが喉を鳴らし、未だ事態を飲み込めぬままその顔に苦悶の表情を浮かべた。


彼の前には、返り血を浴びてもなお、凍てつくような美しさを失わない白銀の戦鬼──クラウス・ランカスターが、音もなく剣を提げて立っていた。



「……兵を盾に使うとは。貴様、それでも王か?」



「くっ……! 貴様ら、こんな餓鬼一人に何を手をこまねいている! さっさと斬れ! ガレリアを……俺を守れっ!」



王の怒声が虚しく響くが、彼を囲む兵たちは、誰一人として剣を振るおうとしない。



「──降伏しろ。もうお前が従えられる兵はどこにもいない」



クラウスが、一歩踏み出し、喉の奥から空気を震わせるように声を張り上げた。



「ガレリアの全兵に告ぐ! 武器を捨てろ! 従うならば、無益な血は流さない。……ただし、大人しく従えば、の話だがな」



クラウスは最後の一言で、ヴァルハルトを冷酷に射抜いた。

その咆哮は高い天井に反響し、兵たちの鼓膜を震わせる。


一瞬の静寂の後、カラン、という高い金属音が鳴る。それを合図にしたかのように、次々と剣が、槍が、石床に投げ出された。


目の前の白銀の戦鬼への恐怖、そして何より、自分たちを盾にしようとする狂王への失望。 ガレリアの誇りであった近衛兵たちが、自らの意思で、王を守ることを放棄したのだ。



「なっ……貴様ら、何を……! 裏切りだ! 反逆だぞっ!」



ヴァルハルトは顔を歪ませ、縋りつくように叫び声を上げる。



「そ、そうだ! ルカだ! ルカがいる! 戦鬼よ、聞け! 貴様らの女王は、我が弟のルカをご所望だろう? そもそも此度の戦だって、あの出来損ないが婚約を望んだせいだ……! 女王は未だ独身らしいな?」



「…………」



「だ、から! 女王はルカを欲しているんだ。寂しい身体を慰めさせる玩具が欲しいのだろう? あの見目だけで頭の空っぽな男なら、くれてやる! そうすれば我が国とノルズランドは、ど、同盟国として……」



その瞬間、武器を捨て、もはや壁ですらなくなった兵たちの間を縫うように、クラウスが踏み込んだ。


その速さを追えたものは誰一人いない。

気づいたときには、ヴァルハルトの喉元に、冷たい鋼の感触が押し当てられていた。



「殺すぞ」



地を這うような、低い声。

感情を殺しきったその一言に、ヴァルハルトの短い悲鳴が重なった。



「ランカスター、まだだ」



背後から、副官オーウェン・リードが声をかける。彼だけが、クラウスの握る拳の震えと、その奥にある私情に気づいていた。



「……離せ。こいつは、生かしておく価値がない」



「分かってる。だが、こいつをここで斬れば、お前も同じ穴の狢だ。それに……女王陛下への報告も必要だろう?」



オーウェンの冷静な指摘に、クラウスの頬がわずかに引き攣った。

足元を見れば、ヴァルハルトの股下からじわりと水溜りが広がっている。死への恐怖で失禁した王。そのあまりの無様さに、クラウスは吐き捨てるように剣を引いた。


「地下牢へ連れて行け」


オーウェンが背後に鋭く手を振った。言葉にもならない呻き声を上げるヴァルハルトは、ノルズランド兵たちの手によって引きずられていく。


「……幽閉されていたはずの前王が、一般兵の軍服を着て逃げ出そうとしていたのを捕らえているが、そっちはどうする?」


オーウェンの問いに、クラウスが即座に返答する。



「同じ牢にぶち込め」



「了解。……それで、肝心の第二王子殿下は?」



クラウスは、窓の向こう、離れのある方角へと視線を投げた。



「反乱軍のアーサーに任せている。……まだ、こちらからは敵国の王族の一人としか扱えない」



「……難儀だな。……すぐに帰国を?」



「ああ」



「ったく。勝利の日に、お前と飲みたい奴がどんだけいると思ってるんだよ」



「悪い。……三日だ。三日でガレリア市街の治安を安定させ、降伏の儀を整える。報告と……彼の処遇を急ぎたい。彼がいなければ我が国は……。リード、後は頼んだ」



「了解」



オーウェンは、クラウスの肩を一度だけ強く叩いた。



「早馬をすぐに用意しよう。女王陛下を安心させねばな!」



「ああ。それと、公爵家にも早馬を頼む」



クラウスは返り血のついた手袋を脱ぎ捨て、天光の降り注ぐ回廊を見据え、次なる命令を下すべく、喧騒の渦巻く広場へと歩き出した。


王宮の尖塔。


かつてのガレリア繁栄を強調するように、絢爛たる装飾が施されているその場所に、二旗が掲げられ始めると、ガレリア王宮を中心とした辺り一帯は地を揺るがすような雄叫びに包まれた。


燦爛たる陽光に照らされながら、ノルズランドの国旗に描かれた氷華が、共に戦った反乱軍の青い布と並んで揺れた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ