↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの……天使さん、もう帰っていいっすか? ‐天使に主役を指名されたけど、戦いたくないので帰ります‐  作者: 清水さささ
第8章・帝国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

344/357

第336話・誰の力が誰を成す。11

 僕は何をしているんだろうか。


 衝動に駆られて走り出した足が僕を乗せて、海賊の襲撃地へと向かっていく。


 僕は何をしているのか。


 もちろん、海賊に襲われている罪なき人達は助けたい。そして、それが間違っていたとしても、海賊娘のノリノの事も助けたい。


 今の僕にはドグマがある。

 全裸の非力な一般少年ではない。

 僕には戦う力がある。


 だから僕は危険な場所へと向かっている。


 それはいい。


 それはいいとして、僕は何をしているんだろうか。

 僕の居るべき場所は、ここでは無いのではないか。

 そんな漠然とした不安が、僕の胸の内側でくすぶり続けていた。


 そして僕は町民の軍勢の先頭に立ち、海賊達の前へと戻って来た。

 しかし状況は僕達が参戦するまでもなく一転していた。


 先程まで虐殺と略奪の一辺倒だった状況は、海賊同士が殺し合うという乱闘に変わっていた。


 その群れの中に、ジャスティンの姿があった。

 上着は脱ぎ捨てており、上半身の強靭な筋肉を晒しながら、その全身が髪まで濡れていた。


 僕の声が届いたのだろう。彼がノリノの危機と知って、あの遠い岩礁から泳いで渡ってきたのだと気づく。とはいえ、だとすれば泳ぐのが速すぎるのだが……。


 そして、そんな答えを確認しているような暇はどこにもなかった。


 殺し合う海賊たちは、ジャスティン派の古参兵と、黒ひげ派の比較的若い男たちとに分かれているようだ。


 人数とパワー的にはジャスティン側が劣勢に見えたが、古参の老兵達は攻めずに避けと防御に徹して、一人で前に出たものから刈り取る戦いをしていた。


 そしてジャスティンが僕らが到着したのに視線を合わせた瞬間、彼は濡れた髪をかきあげて不敵に笑った。


「年季の差が出たな。ヴォーベッド」


 ジャスティンはそう言ってピストルを構えただけだった。するとジャスティン派の老獪たちは、それぞれいくつかの小袋を掴みあげ、路地の隅から溶けるようにして撤退していった。


 黒ひげ派達は僕らに背を向けており、僕らの到着に気づいたようだが、ジャスティンが拳銃を構えている為、海側へと抜けることができない。


 そんな中、海賊達につかまっていた女性が、僕たちに向かって金切り声をあげた。

「殺して、コイツらを……!! 父も夫も殺された。仲間割れしてるの!! 一人も、逃がさないで……!!」


 その悲痛な声に応えるように、ソグマンが身を乗り出した。

「今助ける……!! いくぞみんな……悪を討つ剣となれ!!」


 振り返り舌打ちする黒ひげを前にして、ジャスティンはジリジリと後退を始めていた。最初から黒ひげを盾にして、撤退するつもりだったんだ。むしろ老獪達の手際の良さからして、町民を使って黒ひげを粛清しようとしていたのかも知れない。


 ジャスティンが奥の路地へと向かって身体を反転させようとした瞬間、僕の顔は正直なまでに歪んでいた。

「ジャスティン……っ!! ノリノちゃんは、どうしたんすか!!」


 ジャスティンは一気に路地の中へと身体を滑り込ませた。その最後の瞬間、僕の事を静かな目で見つめていた。


「やはり、只者ではなかったな。ノリノの事は好きにしろ」


「み……見捨てるんすかっ!!」


 僕の声は、ヤツには聞こえていたのだろう。

 しかしヤツが振り返ることもなければ、僕が彼の姿を見ることも二度となかった。


 雪崩のように押し寄せた街の人々が、既に襲撃時の半分以下となった海賊達を、次々と地に沈めていった。一人がシャベルを突き刺せば、数人が一斉にピッケルやら鍬やらで袋叩きにしていく。


 白布使いのソグマンも、布を大きく展開していた。海賊たちの退路を封じ、頭の上から布を被せると、瞬く間にミノムシのように縛り上げてしまう。


 そしてその首を青髪の支持者《アルハ》が、鎖付きチャクラムで無慈悲に切り落としていく。


 海賊達の中で残っていたのは、黒ひげとウミノだけになっていた。

「ちくしょう、あの野郎……これを計ってやがったか!!」


 黒ひげは苦い顔をしながらも、自分のこの先の運命に覚悟を決めているようだった。


 一方で、ウミノは違った。


 黒ひげの脇から血まみれの白衣姿で飛び出して、石畳へ額を擦り付けながら謝り始めた。

「私は……っ!! 私は海賊ではありません!! 海賊に捕まって、言いなりに……言う事を聞くしか無かったんです!!」


 それを取り囲もうとしていた大人達に、一瞬の動揺が走る。


 しかしそんな迷いも、拘束された女性の一言が吹き飛ばした。

「その男が、父を殺したんです!!」


 全員の視線が、女性へと集まっていた。

「命乞いをする私の父を、目の前で……斬りつけて!!」

 女性は縛られたままで路上に倒れ込み、嗚咽を吐きながら咽び泣いていた。

「殺して、ソイツを……!! そいつが一番、許せないっ!!」


 その告発に、町民たちの怒りに火がつき、最後に残った黒ひげとウミノの元へと押し寄せた。


 ウミノは声を裏返すばかりだったが、黒ひげは違った。


 腰から口火のついたビンを取り出すと、それを掲げて高らかと叫んだ。

「ここで終わるも海賊人生……っ!! そんな日だって、いつか来るわなぁ!!」


「爆弾かっ!!」

 町民たちは爆弾を警戒して、一瞬のひるみが生じた。


 黒ひげはその隙に背後へと振り向くと、火炎瓶を思い切り奥の住宅へと投げつけた。

「だがジャスティン、テメェだけは許さねえ!! 冥土の土産に、テメェの娘は貰ってやるぜぇ!!」


 火炎瓶が空中で爆裂すると、シャワーのように油が広がって、狙っていた住宅は即座に爆炎に包まれた。


 ノリノと僕が、捕まっていた家だ。


「こいつ、悪あがきを……!!」


 黒ひげはそれだけをやり切ると、四方八方からの農具の突き刺しの下へと沈んでいった。


 そしてそんな中で、町民たちの声に熱が籠っていく。

「ジャスティンって、まさかホーネット海賊団か!?」

「ジャスティンに娘……そんな奴が……」

「許せない……」「絶対に許すなっ!!」


 僕は周りの反応に、居心地の悪さを覚えていた。

 ノリノは名実ともに悪党であり、燃え盛るあの家から助け出しても、ここで人に捕まれば処刑されるだろう。


 僕は群集から離れて民家の影へと身を潜め、ソグマンのドグマを手につかんで、野球ボール程の白球として掴んでいた。


「僕のドグマは、ここにある……」


 ドグマを掴んだ瞬間に思い出した、記憶の断片。

 ドグマは僕の意識が何かを確信した時に、その信念を形をもって答えてくれる。


「僕がここに来たのは……目的があったからだ」


 僕はドグマを星空へと掲げた。


 街の光は燭台と松明の灯りだけの中世のような生活圏。真っ黒に夜を迎えたその空は、数え切れないほどの星屑が、宝石箱のように散りばめられている。


 そして僕のドグマは、それを超える数の命を吸って、ここにある。


「僕は、帰る為に、ここへ来た」


 光る星々が尾を引いて、僕の手の中の白いドグマへと集まってくるようにも見えた。


「この世界は、僕のものでは無い、きっと誰かが歩んだ物語……」


 僕がドグマを見つめて一人で呟いていると、青髪のアルハが歩いて僕へと近寄ってきた。


「結局、なんなの、あんたは?」

 白くて小さな掌が、僕の目の前で花のように開いた。

「返してくれる? それはソグマンのドグマなのよ」


 僕はその少し悲しげにも見える無表情を見て、あらためてドグマを見つめた。


「ここはきっと、終わった世界なんすよ……」


「……は?」


「思い出しましたよ。ドグマが来て、だから君が来た」


「……私? 私は関係ないわ、そもそも、会ったのはさっきが初めてじゃないの」


「……多分、僕の体は僕じゃないんすよ」


 僕は星空を見つめた。この星空が何億周とした時に、その中のひとつに、僕がいた世界があるのかもしれない。


「僕はスゴミ。ヒサヅカ・スゴミって言います。デフィーナさんと共に歩いている、この世界の外にいた走者《キュリオス》です」


 僕がそう宣言すると、青髪のアルハは、ふと空を見あげた。何かを思うようなこの角度……。支持者《アルハ》の目を使う時の視線だ。デフィーナの名を聞いた事で、アルハの目を使ってデフィーナの記録を覗き見たのだろう。


「うそ……ありえない!!」

 そして突如として声を裏返すアルハ。

「あなたが未来の走者《キュリオス》!? この世界は既に、滅ぼされてるってこと……!?」


 僕はドグマをぎゅっと握りしめた。


 僕のドグマの中には、5000兆を超える人々の核心と、それらが生きた世界の姿が、物語として記録されている。


 だとするのならば、僕にはきっと、それらを止めることはできないのだろう。


「僕は、誰かの代わりを歩いてる」


 ドグマを前へと突き出す。


「僕が僕を成す事は出来ないけれど、誰かがここに居たならば、誰かの力が僕を成せ……」


 ドグマが指輪へと変形を果たした。


 それはエメラルドの光が輝く、小さな銀色の指輪だ。


 アルハがそれを見て手を伸ばそうとする。

「ドグマに彩色をつけられるの!? こんなイメージの純度、あなたはどうして……!!」


「そう願い、祈って、叶わなかった人がいたからです。エィブラム ヤクッ!! 届かせて示せ、例え無くなる世界だとしても、僕は今、この世界であの子を救いたい……っ!!」


 僕の目の前の指輪が、プロメティダのワープリングのようにギュルりと空間に穴を開けた。


 開いたリングの向こう側は、燃え盛る家の中へと続いていた。僕の衣服のポケットに入れてあったエメラルドの指輪。それと僕の手の指輪を『同じモノ』として認識した瞬間に、指輪を通して空間が接合されていた。


 リング越しに目が合ったのはノリノだった。


 灼熱の籠る室内で、僕たち側の冷えた風をその肌に受けると、彼女はそっと視線をあげた。

「モクズ君……!? 君は逃げたんじゃ……!?」


「そうっすよ、逃げる為に、僕はここに来たんです」


 僕はリングを通して、椅子に縛り付けられた彼女へと手を伸ばした。

 彼女は先程以上にシャツを破かれ、顔には殴られた痕が増えていた。


「それって馬鹿じゃんっ! 本当にオヤジ呼びに行ってるし……。君一人で逃げられたのに……!!」


「逃げられないっすよ。僕はそれで後悔ばっかりしてきたんすから……」

 僕は抱きつきそうな距離で、泣きじゃくるノリノの体と腕を拘束していたロープを切って、彼女へと自由を与えた。

「さぁ、立てるっすか? もう自由ですから、逃げましょう……」


 ノリノは解かれた瞬間、僕の首の後ろへと腕を回して抱きついてきた。破かれたシャツから生の肌が、僕の胸へと押し付けられる。


「君ってさ、夕方に会ったばっかの他人じゃん……。オヤジ呼んだなら、やらせとけば良かったのに……」


「ジャスティンはもう撤退しましたよ。君の事は好きにしろって言われたんで、そうしてます」


彼女は僕の胸へと頭を埋めて、震えた声を絞り出した。

「そっか……。でも、そこで好きにしろって言うのは、殺せとか、奴隷にするって意味じゃないの……?」


 僕は彼女の身体を抱きしめて、ワープのリングから引きずりだした。

「さあ……でも、あの人……必死に泳いで来たみたいなんすよね……。割と助けるつもりはあったんじゃないかって思いますけどね……」


 するとノリノはピクッと飛び上がった。

「ああそっか……そういう事ね」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。