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あの……天使さん、もう帰っていいっすか? ‐天使に主役を指名されたけど、戦いたくないので帰ります‐  作者: 清水さささ
第7章・潜入編

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第278話・旧ドラキール階層構造。

 気丈なネオさんが動揺していた。

「ダメだ、嫌だ……生理的に、あれは……」


 デフィーナも混乱していた。

「ねぇ、ナラクへの伝言なのよ、ドグマに意思はあるの? 呼び出せるの? スゴミ……」


「いや、僕、ナラクさんって会ったことないから、イメージが湧かないって言うか……」

 リーダー格のネオさんが崩れた事で、僕もどうすれば良いのか分からなくなっていた。


 現れた敵将軍、ゲーブルトは性格最悪の変態野郎だった。しかも不死身で変身して分裂するし、倒し方も見当がつかない。


 そんな中でも、ストームはネオさんのガジェットに拘束されて転がったまま、いつも通りだった。

「クソがァ!! テメェらが止まってんなら、俺は一人でブリアンを暗殺しに行く……っ!! ミナミヅキィ! 敵の本拠地はどこだァ!!」


 その叫びを受けて、僕は息を飲んで口を開いた。

「ブリアンが居るのは、ここの五十メートルくらい真下っすよ…… 。時計塔に地下室とか無いんすかね?」


「しゃあ、殺してくるから、拘束をほどけ、ジョババァ!!」

 芋虫のように暴れていたストームは、拘束具が着いたままで無理矢理に起き上がった。


 すると、ミナミヅキさんがメガネを直しながら前に出た。

「時計塔に地下室はありません、下ならば第一層、都旧都市が出来るよりも昔に、防空壕として使われていたものが、軍事基地となっているハズです……」


 彼は時計塔のさらに遠く、地下都市の壁と一体化している城壁を指さした。


「軍事施設の入口があるとすれば、旧ドラキール城。他にも緊急出入口はあると思いますが、軍事機密でしょうから、私には分かりません……」


 僕はそれを聞いて、拳を固めた。

「だったら行くのはドラキール城っすね!! 僕はブリアンの居場所は、ドグマ探知で常に分かるんすよ! 方向だけなら、見失いませんから……!!」


 するとネオさんは、ヒザを抱えたままで僕の意見を否定した。

「ダメだろ。私達が時計塔に来た時、ブリアンに変身したゲーブルトは、ただ突っ立って待っていた」

 少し顔を上げ、僕を睨む。

「私がココに来るのを分かってたからだ。通信が傍受されたのか、センサーがあったのか、どの道私達の潜入は最初から看破されている」


 それに対して、ストームが怒鳴った。

「ああー? 馬鹿かテメェは、バレてんなら正面突破だ!! 敵を皆殺しにして進めば良いだろうがっ!!」


「馬鹿はテメェだ。ゲーブルトは他人に変身出来る上に、殺し方は不明。虫にもなれるんだから、犬でも鳥にでもなれるんだろうさ……」

 ネオさんの鋭い眼光が、ストームを睨み上げていた。

「ここから出る生物、全てがゲーブルトかも知れねぇ、その上でコチラの動きは筒抜け。詰んでんだよ……もう」


「だから出てくるやつ、鳥もヒヨコも全員ぶち殺せば済むっつってんだろうが!! 拘束をほどきな、もうテメェらは用済みだよ!!」


 ネオさんが舌打ちしながら渋々と立ち上がる。

「ち……っ、勝手に死にやがれ」


 すると、ミナミヅキさんが深呼吸をして、ネオさんへと一歩近寄った。

「あの……! 仮説が、あるのですが……っ!」


 ネオさんは冷たく視線だけを移した。

「なんだよ、仮説好きだな、お前……」


「はい、都市暮らしの頃は、大学に出入りしていたもので……。で、ゲーブルトなのですが、そこまでこちらの情報が抜けているというワケでも無いのでは……?」


 ネオさんは目を細めて短く返す。

「……根拠は」


「はい、彼はスゴミ君達が来た時に『エクリプスを倒したのか』と質問していました。それはスゴミ君達と零極との戦いを直接は見ていない。つまり、この場に監視カメラの類は無い。と言うことでは?」


「……っ。ああ……それは、そうかもな」

 ネオさんの瞳に、うっすらと冷静なプロの光が戻り始める。ストームの拘束を解くために歩くネオさんの横顔を、皆が追っていた。


 ミナミヅキさんはメガネを曇らせながら続ける。

「はい、更に彼は兵器開発部長。未知の現象や他者の能力には異常なほど興味があるはずです」


「たしかに、めっちゃ食い気味に聞いてきたっすね……」


「ええ。ですが、もしあの男の目的が『即座に私達を殺害すること』で、あの変幻自在の能力があるなら、わざわざ正体を明かして姿を見せる必要は無かったはずです……!」


 ネオさんがストームの拘束バンドを取り外し、ストームは手首を擦りながらミナミヅキさんを睨んだ。

「ああ? 不意打ちは卑怯だからだろ。宣戦布告に来たんじゃねぇのか」


「え……?」 反応してしまうミナミヅキさん。


「ほっとけ、続けろ」 ストームを無視するネオさん。


「ええ……ですから! あの男の撤退の速さを見るに、なにか別にやりたい事があって、そちらを優先しているのでは? それならば急げば救出作戦を済ますほどの時間は、残されているハズです……!」


「……細いな。細い可能性ではあるが」

 ネオさんは、旧ドラキール城の不気味な城壁を睨み据えた。

「私の顔でブリアンに会って、余計な事されても面倒だ。……どの道、進むしかねぇのは決まってんだしな」

 ネオさんはグローブをギュと締め直し、完全にいつもの頼れるリーダーの顔に戻っていた。


「あ、それともうひとつ……!!」

 ミナミヅキさんは少し口角を上げながら、人差し指をあげて僕を見た。

「全員スゴミ君から、ドグマのアイテムを貰うというのは、どうでしょうかっ!!」


「え、僕っすか……?」


 僕は突然話を振られて呆気に取られていたが、ネオさんは腕を組んで賛同を示した。


「……識別信号か」


「はい、敵は味方の姿に変身してきます。目を離す度に味方疑うのでは大変ですから、ドグマ感知が出来るスゴミ君に見てて貰えればと……」


「な、なるほどっす……」


 僕が納得した所で、僕の横へとデフィーナがローブを揺らして並び立った。

「私は既にドグマのアサシンハートを装備してるわ」


 ストームは大剣をガシャリと引いて、持ち上げた。

「俺にはコイツがあるから、他にはいらねぇ」


「え、それ、ドグマ関係ないっすよ……」


 ネオさんはストームを押しのけて前に出た。

「ほっとけ、コイツはどうでもいい」

 その一言と共に彼女の手が差し出された。

「どうせなら、かさばらない物にしてくれ」


 僕は右手を出して考えていた。

「ええと、ネオさんに、渡すもの……」


 ネオさんは催促するように、手のひらを突き出しながら揺らしていた。

「早くしろ、なんでもいいから」


「あ、はい……っ!!」


 僕は右手からドクマ製の白い塊を生成して、ネオさんの手の中へと埋め込むように手渡した。

 白い塊はネオさんの手のひらの中で、柔らかく花びらのように広がって、その形を表した。


 それは、白く繊細なレースが施された、ネオさんのパンツだった。ネオさんは一瞬で顔を赤くして、パンツを握りこんで怒鳴りこんだ。


「テメェ!! こんな時に、いい加減にしろよなぁ!!」


「ヒェッ、すみません……! ネオさんに渡すものって考えたら、勝手に……!!」


 身を引く僕の横から、デフィーナがネオさんを睨みあげた。

「あら、なんでも良いって言ったじゃないの。私の装備と大差ないでしょ」


 擁護してくれてるのだろうか。たしかにデフィーナのアサシンハート装備は、ローブマントとビキニアーマーだ。布面積的に言えば大差は無いが、下着とビキニではだいぶ意味が違う。


 だが僕はデフィーナに便乗して取り繕っていた。

「そ、そ……そうっすよっ! 衣装系は身に付けるものってイメージっすから、ドグマ感知の精度も高くなるって言うか……!!」


 ネオさんは肩を震わせながら自分の手の中の下着を見つめると、目を閉じてその下着をパツパツの黒インナーの下から服の中へと潜り込ませ、乳房の下で固定した。


「テメェ……後で覚えてろよ」


 そして入れ替わるように、ミナミヅキさんが僕の前に立った。

「えっと、よろしくお願いします……」


 握手のように差し出された手。緊張を隠しきれていない顔。

 僕は反射的に右手を差し出した。だが僕はこの人に何を渡すべきかが分からなかった。


 改めてミナミヅキさんと言う人物を正面に見る。

 基本はくたびれたワイシャツに、肩からかけた機関銃と、そしてメガネ。白髪混じりの中年男性だ。


「ええと、渡せる……白いもの……」


 長い貧困村の暮らしのせいか痩せており、シャツをよく見れば、かなり使い古されているのが分かる。しかし綺麗に手入れされて使われており、本人の物持ちの良さを感じさせるスタイルだった。


「どうか、しましたか……?」


 村の孤児たちを引き取って孤児院を管理し、ドラキールの訓示を村に定着させる、牧師の役割を持っていた彼は、お人好しそうで温厚だ。


「えっと、何を渡そうかと思って……」


「……なんでも良いのですが、花なんてどうですか、先程出してましたよね」


「いや、あれは、死者に渡すイメージなんで、生きてる人には……」


 この人が村の襲撃時に女性の捕虜を処刑して、キング狩猟団の大男ルークへと発砲したなど、まるで嘘のようだと思った。


「渡す、カタチ……」


 僕は右手を差し出し、手の中へと薄っぺらい形を生成した。それを彼の手の中へと、押し込むようにして引き渡す。


 彼はソレを手の中で広げた。

「お金……ですか?」


 僕が生成して手渡したのは、ドラキール紙幣だった。

 エリオット王子の肖像が印刷された、千円札のようなニセ札。


「は、はい……っ! ワイシャツ着てて、サラリーマンっぽいから、サラリーマンと言えばお金かなぁ……。なんちゃって」


「あ……ああ、私はサラリーマンでは無いのですが、ありがとうございます」


 ミナミヅキさんはサラリーマンのような綺麗なお辞儀をして、ニセ札を胸ポケットへとしまい込んだ。


 その様子を見ていたネオさんが、突如凄まじい剣幕で迫ってきた。

「おい!! 金なんて出せるなら、私のも金にしろっ!!」


 言いながら僕に被さるように接近し、胸の中をまさぐって先程しまい込んだ下着を取り出して突き付けてきた。下着は既に体温と湿気が籠り、僅かな湯気が上がっていた。


「あっ、そうっすよね……!! す、すぐ交換しますんで……っ!!」


 僕は言われるままに、二枚目のニセ札を生成、ネオさんの顔の前に差し出して揺らした。ネオさんが金を掴み、僕が下着をつかもうとした。


 その瞬間に、デフィーナが険しい顔で冷淡に呟いた。

「なんか下着買ってるみたいで、気色悪いわね……」


 僕とネオさんは苦い顔をして凍りつき、同時にデフィーナへと視線を向けた。デフィーナは下着を見ていたが、僕達に睨まれていることに気づくと、腕を組んで眉を寄せた。

「な、なに……? ナラクがマスターから、ネオの下着を買おうとしてた事があるのよ。普通に気持ち悪いでしょ?」


 僕達は『余計な事を言うな』のつもりでデフィーナを睨んでいたが、デフィーナがそんな意図を読み取れるハズがなかった。余計な一言が重なっていくと、僕の意思に邪《よこしま》な意思いが挟まり、手の中にあったニセ札がグズグズと黒く腐食して、青い炎となってパリッと燃え尽きた。


「ああっ!! 変な事言うから……!!」


 言ってる目の前で、ネオさんが目尻を痙攣させて怒りを顕にしている。しかしデフィーナは一切態度を変えない。


「別に変な事は言ってないでしょ? 私は事実しか言わないのよ」



 すると、ストームが剣のエンジンスターターをギュンと引き、エンジンの剣を起動させていた。

「うるせぇ奴らだな!! 敵地だぞ、いつまでも止まってんなら、俺は先に行くぜぇ!!」


 怒鳴り散らすなり、ストームは暴風でホコリを巻き上げながら、けたたましい爆音と共に爆発的な加速でドラキール城への飛行を始めていた。


「おいっ!! 勝手に行くなっ!!」

 ネオさんが叫びあげるも、飛び出したストームに届く気配も無く、彼は遠ざかっていく。


 ネオさんはタイヤ付きの棺桶へと飛び乗ると、後ろにミナミヅキさんが乗る為のスペースを開けた。

「ちくしょう、形にこだわってる場合じゃねぇな、追うぞ……!!」


 僕も移動形態に入る為、手をハンドルの形で構えた。

「ドグマ解放───ゴーストライダー!!」


 空気のバイクが出現し、僕の体を浮遊させる。

 デフィーナは即座に僕の後部座席へと飛び乗った。


 だが、ミナミヅキさんは動かなかった。


 腕と肩を震わせて、ネオさんへと向かって重く口を開いた。


「すみません……。私はここで、別行動にします……」


 ネオさんは目を細めて、棺桶の上からミナミヅキさんを見下ろした。


「はぁ? ここで別行動……? 死ぬぞ」


「はい、それは元々、覚悟してきましたので」


 姿勢を正したミナミヅキさんの顔は、震えながらも引き締まり、覚悟の強さを確かに示していた。


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