7.聴取(改稿後)
「では、本当に貴方は誘拐も脅迫もされていないんですね?」
「だから何回もそう言ってるだろ」
詰所での事情聴取は、同じようなやり取りの繰り返しだった。
何度も、何度も。
俺がレイナと一緒にいることが、よほど信じられないらしい。
むしろ“普通ではない”のは俺の方だと言わんばかりに、何度も問い直される。
そのたびに、俺はただ同じ答えを返すしかなかった。
「……分かりました。では今回は完全な誤認という事ですね」
「ああ。俺達は何も悪い事はしていない」
「はい……申し訳ございませんでした」
騎士の一人が深々と頭を下げる。
だが、俺の中にはまだ納得できない感覚が残っていた。
「謝る相手が違うだろ」
「え?」
「レイナに謝れ」
「し、シュナイダー? 私はいいから」
「よくない。今回、一番迷惑を被ったのはレイナだろ」
あんな理由で捕まえられそうになったんだ。
それ捕まらなくてよかったで済ませていいわけがない。
「彼女が許しても、俺は許さない。謝るまで終わらない」
「……レイナ・ラーヴァンテさん。この度は、誠に申し訳ございませんでした」
「よし、許す」
「ちょ、シュナイダーが決めないでくれるかしら」
「いいじゃないか、謝ったんだから」
即答だった。
騎士の謝罪が聞けた時点で、俺の中では十分だった。
「……ふふ」
レイナの小さな笑い声が聞こえる。
少しだけ、いつもの調子が戻った気がした。
それだけで、妙に安心してしまう。
「それで、あの受付嬢ですが」
「マリーがどうかしたのか?」
「彼女は今回の件の主犯の一人でした。以前の事件にも関わっていたようです」
「……え?」
マリーが?
俺の中で、何も感じないわけではなかった。
だが、それ以上に“だから何だ”という感覚が勝っていた。
ギルドで世話になった相手だ。
それでも――正直に言えば。
そこまで強い感情は湧いてこない。
自分でも驚くほどに。
「……そうか」
「……ちっ、それなら殺しておけばよかったわね」
「……レイナ?」
思わず声が漏れる。
普段の彼女からは想像できない言葉だった。
それほどまでに、彼女は本気で怒っている。
――俺のために。
その事実に、胸の奥が少しだけ熱くなる。
守られることに、こんな感情を抱くなんて思わなかった。
「シュナイダー。帰りましょう」
「ああ、帰ろう」
この場はそれで終わった。
♢
家に戻ると、風呂と食事を済ませ、静かな時間が流れていた。
「……今日は、本当にありがとう」
「ん? どうした急に」
レイナがぽつりと呟く。
その声は、少しだけ弱く聞こえた。
「私……あのまま捕まると思ってた」
「そんな事、させるわけないだろ」
「顔のせいで、今までずっと誰にも信じてもらえなかったから……」
言葉を選ぶように、ゆっくりと続ける。
「だから今日、貴方が信じてくれたのが……すごく嬉しかったの」
静かな言葉だった。
だが、その中にある想いは重い。
「……そりゃ、俺の方が助けられてばっかだしな」
「ふふ……そうね」
誤魔化すように返すと、レイナは少しだけ笑った。
その笑顔を見て、少しだけ肩の力が抜ける。
「……仮面、外してくれないか」
「それは嫌」
即答だった。
やっぱり、まだ無理か。
焦る必要はない。
ゆっくりでいい。
「それにしても、今後はやりづらくなるな」
「そう?」
「今回みたいな事があったし」
「でも、あれはよくあることよ」
「……そうなのか」
その一言で、この世界の異常さがまた一つ見えた気がした。
それが“普通”なのか。
ならば、やはり――
「貴方は、あまり外に出ない方がいいわ」
「……やっぱりそうなるか」
「皆、貴方を欲しがるもの」
「でも、レイナは違うだろ」
「……私は」
一瞬、言葉が詰まる。
「私は……無理だって分かってるから」
その声には、どこか諦めが混じっていた。
その響きが、少しだけ胸に引っかかる。
「……俺、レイナの事好きだけど」
「……っ、からかわないで」
「からかってない」
「……嘘よ」
すぐに否定される。
それでも構わない。
時間はある。焦る必要なんてない。
この穏やかで心地よい時間が、ずっと続くけばいい。
―そう思っていた。




