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美醜が逆転した世界で、俺は美女のヒモになる  作者: だれか
1章レイナ・ラーヴァンテ

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6.冤罪(改稿後)

 

 俺たちはギルドを出たあと、森林へと向かった。


「懐かしいなぁ」


「え?」


 あのとき、気がつけばこの場所に放り出されていた。

 思い出すと、いまだに少し現実味がない。

 それから歩き続け、やがて森林を抜けると、視界が開けた。

 渓谷だ。


「なぁレイナ。ここにドラゴンはいるのか?」


「そのはずよ」


 言葉とは裏腹に、周囲にはそれらしい気配は一切ない。

 静かすぎる。

 風の音だけが耳に届く。


 ――ビューンッ!


 ――ビューンッ!!


「うわっ、風強っ……!」


 突風が肌を叩きつけ、目を開けているのもやっとだ。 

 そのときだった。

 風が一点に集まり始める。

 渓谷の空気がうねるように歪み、やがて巨大な竜巻が形成された。


「来たわね!」


「えっ!? あれが!?」


 竜巻の中心を、何かが突き破る。


 ――ガアァァァァッ!!

 叫び声と共に現れたのは、風を纏った巨大なドラゴンだった。


「す、すげぇ……!」


 あまりの迫力に、目が離せない。

 だが――


 ――ギロッ


「ヒィッ」


 視線が合った瞬間、背筋に冷たいものが走る。

 恐怖で思わず声が漏れた。


「大丈夫よ」


 レイナの落ち着いた声が聞こえた、その瞬間――

 彼女の姿が、消えた。


「え……?」


 視線を走らせると、次の瞬間にはドラゴンの目前に立っている。

 あまりに速い。


「ウィンドミル」


 レイナの手に風の塊が生まれ、放たれる。

 風を纏っていたドラゴンの勢いが、一瞬で削がれた。

 その隙を逃さず、レイナは剣を抜く。

 再び、彼女の姿が視界から消えた。


 ――次に見えたときには。


 剣を振り抜いた姿と、

 首を失ったドラゴンが、そこにあった。

 そしてその巨体は、そのまま地面へと崩れ落ちる。


「おおおおお!」


 思わず叫んでいた。

 あまりにも一瞬すぎる。

 信じられない光景だった。


「ふぅ……こんなものね」


「すげぇ! かっけぇ! すげぇ!」


「……そ、そう? そんなに褒められると、悪い気はしないわね」


 照れたように目を逸らすレイナ。

 その姿すら、どこか可愛く見えてしまう。

 しばらくはしゃいだあと、落ち着いた頃にふと気づく。


「そういえば、このドラゴンどうするんだ?」


「解体して持ち帰るわ」


「……こんなの、解体できるのか?」


「私がやるから大丈夫よ。慣れてるもの」


 そう言って、彼女は手際よく作業を始めた。

 その様子を見ながら、俺は思う。


 ――本当に、何もできていないな。

 だが、不思議と悪い気はしなかった。 

 レイナが楽しそうにしているなら、それでいい。


「終わったわ。それじゃ、帰りましょうか」


「思ったより早いな」


 あっという間だった。

 こうして俺たちは街へ戻ることにした。



 ♢



「帰る前に、ギルドに報告に行きましょう」


「分かった」


 街に戻り、ギルドへ向かう。

 しかし――


 中に入った瞬間、空気が変わった。

 騒がしい。

 妙に緊張感がある。


「――あ、帰ってきました! あの女です、騎士団の皆様!」


 マリーが叫ぶ。

 その指先には、レイナがいた。


 そしてその周囲には、騎士団の兵士たち。


「おい、マリー。これはどうなってるんだ」


「シュナイダーさん、もう大丈夫です!」


「……は? ちょっと待て、離せっ」


 いきなり抱きつかれ、思わず声が出る。


「やっぱり、あの女に騙されてるのね!」


「……どういう事だ?」


「レイナ・ラーヴァンテだな」


 騎士の一人が言う。


「お前には男児誘拐及び脅迫の疑いが掛かっている。同行願おう」


「な……!?」


 誘拐?

 脅迫?


「私は、そんなことしていないわ」


 レイナは静かに否定する。

 だが、その言葉は軽く扱われる。


「それは調べれば分かる。大人しく来てもらおう」


 次の瞬間――

 彼女の腕が掴まれた。


「な、なんでレイナをっ!」


 怒りが込み上げる。

 頭では理解できない。

 だが、感情だけが先に動く。


「離せ!」


「シュナイダーさん!?」


 振り払おうとして、制止される。

 だが――それでも。

 ここで引き下がるわけにはいかなかった。


「おい、レイナを離せ! 彼女が何をしたっていうんだ!」


「我々は通報を受けて来たのです。男児を誘拐していると」


「そんな男、どこにいるんだ!」


「……貴方では?」


「俺は誘拐なんてされてない! 自分の意思でレイナと一緒にいる!」


 はっきりと叫ぶ。

 それが全てだった。


「……これは、どういう事だ?」


 場の空気が変わる。

 そのとき――


「そんなの決まってるじゃない!」


 マリーが声を張り上げた。


「その女が騙してるのよ! じゃないと、男がこんな醜女と一緒にいるわけないでしょ!」


 ――その言葉が、引き金になった。


「レイナは醜女なんかじゃない!」


 即座に言い返す。

 あまりにも自然に。

 怒りが言葉になっていた。


「俺は好きで一緒にいるんだ! 邪魔するな!」


「っ……そんな……」


 マリーが言葉を失う。

 だが、俺は止まらなかった。

 レイナが悲しむ姿なんて、見たくなかった。


「……シュナイダー」


 小さく、レイナの声が聞こえる。

 その声が、胸に刺さる。


「普通なら、疾風のような醜いくせに力だけはある女に男は近寄らないはずです。むしろ危険を感じて当然なんです」


 マリーが吐き捨てるように言った。


 場の空気がまるでそれが当たり前だと。

 この世界の常識なのだとでも言うように。

 その言葉を否定するものは誰一人いなかった。


「……シュナイダーさん、貴方はきっと正気じゃないんです」


 マリーが信じられないものを見るような目で俺を見た。


「彼女は……醜女なんですよ」


 その一言は、あまりにも軽く、そして当然のように発せられた。


「それが……何だっていうんだ」


 一瞬、言葉が詰まる。


 “醜いから近寄らない”――その考え方自体が、どうしても腑に落ちなかった。


 前の世界では、見た目がどうであれ、それだけで距離を取る理由にはならなかった。

 少なくとも、俺の知っている感覚では。


 だからこそ――

 目の前の当たり前が、理解できない。


 けれど、それを言葉にする前に。



「その受付嬢からは事情を聞くとして……本当に誘拐ではないのですね?」


「ああ、俺は誘拐なんてされてない」


 この世界の異物は俺だ。

 マリーや騎士達の反応が正常。

 だから、幾ら否定した所で彼女達とは分かり合えない。


「……分かりました」


 騎士は一度頷く。


「では、念のため事情聴取を行います」


「ああ、構わない」


 そして――


「とにかく、レイナを離せ」


「わ、分かりました!」


 ようやく、彼女の拘束が解かれる。

 すぐに駆け寄る。


「大丈夫か、レイナ」


「……ええ」


「何も悪くないんだから、堂々としてろ」


「……ありがとう」


 そして俺たちは、騎士団の詰所へ向かうことになった。

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