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美醜が逆転した世界で、俺は美女のヒモになる  作者: だれか
1章レイナ・ラーヴァンテ

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5.同棲(改稿後)

 

 レイナの家に転がり込むように住まわせてもらってから、数日が経った。

 その間、俺はこれといって何もしていない。


 本当に、何もしていなかった。


「おはようシュナイダー。朝食なら出来てるわよ」


「何してるの? 掃除? 私がやるからそんなこといいわよ」


「仕事がしたい? どうして? お金ならあるから大丈夫よ」


「貴方は何もしなくていいの。居てくれるだけで助かってるんだから」


 そんな言葉を毎日のように掛けられ、気づけば俺は、完全に世話を焼かれる側になっていた。

 ……いや、焼かれすぎている気もする。

 

 居るだけで助かるってなんだ。

 俺はまねきねこか何かか?


 まるで女に養われるヒモのような、というか実際にヒモそのものだ。

 普通なら、情けなく思ってもおかしくない。


 だが――


 この生活を、俺はどこか心地よいと感じていた。

 もともと、俺は物ぐさな性格だ。

 外に用がなければ出たくないし、家のことも後回しにしてしまう。

 部屋が限界まで荒れてから、ようやく重い腰を上げるタイプだ。


 だからこそ。

 何も考えず、何もせずにいられるこの環境は、ある意味で理想に近かった。

 ――前の世界の“モテる男”というのは、こんな生活を送っていたのだろうか。

 いや、さすがにここまで何もしない人間はいないか。

 少なくとも、飯と風呂とトイレ以外でベッドから出ない、なんてことはないだろう。


 けれど。

 数日もすれば、そんな生活にも慣れ――そして、飽きが来る。

 俺は、無性に何かをしたくなっていた。


 ――冒険がしたい。


 折角、冒険者になったのに。

 何もせずに過ごすのは、どこか違う気がした。

 俺一人では採取や雑用しかできないらしいが、それでも構わない。

 何もしないよりはずっといい。

 そうと決まれば、レイナに伝えよう。




「ダメよ」


 俺の冒険は、たった一言で終わった。

 ……いや、終わってたまるか。


「……なんで?」


「外は危ないもの。また誰かに襲われるかもしれないでしょ」


「いや、今度はちゃんと気をつけるから」


「無理よ」


「無理なの!?」


 即答だった。

 余地すらない。


「だって貴方、無防備だもの」


「いや、そんなことはないが」


「いいえ、あるわ」


 レイナは間髪入れずに否定する。

 その口調には、はっきりとした実感がこもっていた。


「女に平気で近づいたり、薄着で私の隣に座ってきたり……そんなことしてたら、普通の女は興奮して襲ってくるの」


「……でも、レイナは襲ってきてないけど」


「わ、私は普通の女じゃないの!」


 ……それはそれでどうなんだ。

 だが、ソフィアの件を思い出せば、まったく的外れというわけでもない。

 この世界では、男が襲われる可能性もあるのだ。


 ただ。どうしても、前の世界の感覚が抜けきらない。

 気をつけていれば大丈夫だ、という考えが頭を離れなかった。


「いい? 女はケダモノなの」


「なら、依頼のときは誰かに同行してもらえばいいだろ」


「誰に頼むのよ」


「それは、ギルドで適当に……」


「そうやって前に襲われたんでしょっ。もう!」


「うっ……」


 言葉に詰まる。

 確かに、その通りだった。

 反論の余地はない。

 俺は、自分の認識の甘さを突きつけられていた。

 

 ――じゃあ、どうすればいい?

 考えた末に、一つの答えに行き着く。

 裏切らない相手と行動すればいい。


「なあ、レイナ」


「なにかしら?」


「レイナって、もしかして結構強い?」


 あのとき、彼女はあの連中を助けてくれた。

 なら、それなり以上の実力があるはずだ。


「……どうしてそう思うの?」


「だって、あのとき助けてくれたんだろ。なら強くないと無理だ」


 ――普通に考えれば、そうだ。

 だが、彼女の反応は少し違っていた。


「……やっぱり、強い女は嫌?」


「え、何で?」


「男の人って、強いと怖がるじゃない。それに私、醜女だし……」


「いや、弱いより強い方がいいだろ。それに、俺は気にしないって」


「……そうなの?」


「そうそう」


 だから。


「能力値はどれくらいなんだ?」


「……S+」


「は?」


 え。


 S+?


 ――最高ランクじゃないか。


「よし、レイナ。俺と結婚しよう」


「え、あ、はい……っ!? け、けけけけけ結婚!?!?」


「あ、ごめん間違えた。俺に同行してくれ」


 やばい。

 思わず口が滑った。

 あまりにも頼もしすぎて、変な方向に願望が漏れたらしい。


「えっと……今のは忘れてくれ」


「……善処するわ」


 レイナは頬をわずかに赤くしながら、視線をそらした。

 なんだその返事は。

 忘れる気はあまりなさそうだが、深くは追及しないでおく。


「ま、まあ……それはそれとして、だ」


 咳払いを一つして、話を戻す。


「とにかく、同行してくれるならありがたい」


「ええ。……その、よろしくね」


 少しだけ間を置いてからの言葉。

 その声音は、どこか控えめで、けれど確かに温かかった。


「おう、よろしく」


 こうして、俺たちは冒険に出ることになった。



 ♢



「久しぶり、マリー」


「し、シュナイダーさん!? 無事だったんですか!?」


 冒険者ギルドに入ると、受付嬢のマリーが目を見開いた。

 こちらに気づいた瞬間、明らかに動揺している。


「いやいやいや! シュナイダーさん、あれから一度も顔を出してなかったじゃないですか! あの日、ソフィアさん達に襲われかけたと聞いて、私……」


「ああ、なるほど」


 そういえば、俺はギルドに何の報告もしていなかった。

 そりゃ心配もするわ。


「シュナイダーさん、本当に申し訳ございませんでした。私が依頼を受けたばかりに、あんなことに……」


「いやいや、マリーのせいじゃないから」


 慌てて頭を下げるマリーに、首を振る。

 あれは完全に俺の無警戒が招いた結果だ。


 彼女に責任はない。


「でも……」


「本当に気にしないでくれ。俺が警戒してなかったのが悪いんだから」


「……はい。分かりました」


 まだどこか納得しきれていない様子だったが、それでもマリーは小さく頷いた。


「シュナイダーさんはお優しいですね」


 ――優しい、か。

 別にそんな立派なものじゃない。

 ただ、事実をそのまま受け止めているだけだ。


「それで……その後ろの方は?」


「ああ。依頼を受けるときに同行してもらうことになった。レイナだ」


「ああ……“疾風”ですか」


「……疾風?」


 思わず聞き返す。


「彼女の二つ名ですよ」


「二つ名、だと?」


 なんだその、いかにも強者っぽい響きは。


「レイナ!」


「……何?」


「お前、そんなかっこいい二つ名持ってるのかよ! なんで教えてくれなかったんだ、ずるいぞ!」


「え? あ、ごめんなさい……?」


 対するレイナは、少し戸惑ったように目を瞬かせていた。

 疾風。

 なんて厨二心をくすぐる響きだろう。

 正直、めちゃくちゃ羨ましい。


「俺も欲しい!」


「……えぇ。そんなにいいものかしら?」


 レイナは少し引き気味だ。

 温度差がすごい。


 ……いけない、少しはしゃぎすぎた。


「シュナイダーさん、その……彼女は大丈夫なんですか?」


「ああ、大丈夫だよ。ソフィア達から助けてくれたのも彼女だし」


「……っ。そう、ですか」


 マリーの視線が一瞬、レイナに向けられる。

 警戒とも、探るようなともつかない目。

 やはり、彼女はこの立場に慣れていないのだろう。

 それでも、俺にとっては十分すぎるほど頼れる存在だ。


「それで、依頼ですよね?」


「ああ。何かいいやつある? できれば討伐系で」


「疾風が同行されるのでしたら……こちらはいかがでしょうか」


 差し出された依頼書を受け取る。

 目を落とした瞬間――


「ドラゴン、だと」


「あっ……す、すみません! 間違えていつも疾風にお願いしているレベルの依頼書を……!」


 書かれていたのは、ウィンドドラゴンの討伐。

 ランクはS+。

 ……正直、文字を見ただけで胃が重くなる。


「レイナ」


「……もしかして、これ受けたいの?」


「……やっぱり、ダメか?」


 怖い。

 正直、めちゃくちゃ怖い。

 だが――それ以上に。

 ドラゴンを、この目で見てみたいという気持ちが勝っていた。


「……いいわよ」


「いいのか!?」


 思わず声が上がる。

 てっきり止められると思っていた。


「疾風!」


「……何かしら」


 マリーが一歩前に出る。

 レイナを真っ直ぐに睨みつけながら。


「そんな高ランクの依頼を受けて……もしシュナイダーさんを守れなかったら――」


「守れないと思う? 私が」


「っ……」


 その一言だけで、空気が変わった。

 圧倒的な“強さ”を感じさせる声。

 マリーは、それ以上言葉を続けられない。

 やばい。

 レイナ、めちゃくちゃかっこいい。


 そんなやり取りを横目に、俺の心は完全に別の方向へ傾いていた。


 ドラゴン。

 それが見られるなら――

 多少の危険なんて、どうでもいい。


「よし、なら行こう、レイナ!」


「ふふっ。貴方が喜んでくれるなら、ウィンドドラゴンくらい訳ないわ」


 ――こうして。


 俺の我儘で、ウィンドドラゴン討伐が決まったのだった。

次回、31日7時更新予定。

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