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美醜が逆転した世界で、俺は美女のヒモになる  作者: だれか
1章レイナ・ラーヴァンテ

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4.醜女 (改稿後)

 


 意識が覚醒する。


 目に入った景色は、見覚えのない場所だった。


 ここがどこなのか分からない。昨日の記憶も、うまく思い出せない。


 混乱する頭を抱えていると、ふと気づく。


 自分が寝ていたであろうベッドは、体が沈み込むほど柔らかく、サイズも大きい。


 どう考えても高級品だった。


 昨日泊まった宿屋のベッドも悪くはなかったが、今のものとは比べものにならない。


 なぜ見覚えのない場所で寝ているのか――そんなことを考えながらも、どうでもいい疑問が浮かぶ。


 そのとき、不意にいい匂いが漂ってきた。


 気になった俺は、その匂いを辿っていくことにした。



 ♢



「あ、起きたのね」


「……あ、あんたは」


 キッチンには、エプロン姿の見知らぬ女性が立っていた。


 しかも、仮面をつけている。


「……っ」


「え、覚えてない? ……困ったわね」


 仮面を見た瞬間、記憶が蘇る。


 昨日、あの連中に薬を盛られ、仮面の人物に助けを求めた。


 つまり――この人が、俺を助けてくれたのか。


「……あの。私は貴方を無理やり連れてきたわけじゃないの」


「ああ、分かってる。俺を助けてくれたんだよな」


 俺がそう答えると、彼女はほっとしたように肩を落とした。


 その仕草は、どこか年相応の女性らしく見えて、さっきまで抱いていた仮面の人物としての印象が少し和らぐ。


 ――思えば、この人は俺を救ってくれた恩人だ。


 昨日のあの状況で、誰かに助けられるとは思っていなかった。

 素通りしても誰にも文句を言われない場面。

 それなのに迷わず手を差し伸べてくれた存在。

 だからこそ、目の前にいる彼女の存在が、やけに重く感じられた。


 正直、感謝してもしきれない。


「よかった。忘れて騎士団にでも駆け込まれたらどうしようかと思ったわ」


「そんなことはしない。恩人だからな」


「お、恩人……。ま、まあ、とりあえず朝食を作ったから食べて?」


「ああ、ありがとう」


 食事は驚くほど美味しかった。


 思わず夢中で食べていると、彼女は仮面をしているので表現は分からないが、何処となく嬉しそうな雰囲気でこちらを見ている。


 やがて俺は話を切り出した。


「あの後、どうなったんだ?」


「あの人たち? 騎士団に突き出したわ。ただ証言だけだと不十分だから、貴方にも証言してほしいの」


「それはもちろんやるけど……証拠不十分?」


「……この仮面で分かるでしょ。私は醜女だから」


「……ああ」


 その言葉を聞いて、胸の奥に小さな引っかかりが残る。


 この世界では、容姿が立場に影響するらしい。


 ソフィアも、確かそんなことを言っていた。


 ――だからこそ、彼女はこの仮面で自分を守っているのだろう。


 自分の価値を守るために。


 あるいは、これ以上傷つかないために。


「別に俺は気にしない。仮面、取ってもいいぞ」


「い、嫌よ。嫌われたくないもの」


 その声は、かすかに震えていた。


 仮面の向こうで、彼女が必死にそれを守っているのが分かる。


 まるでそれを外してしまえば、自分という存在そのものが拒絶されてしまうとでも思っているかのように。


 その一言には、ただの拒否以上の強い意志が滲んでいた。


 何があっても外せないというそんな強い想いが、言葉の端々にまで宿っているように感じられた。


 改めて彼女を見る。


 銀色の長い髪は艶やかで美しく、体つきも整っている。


 顔を見なくても分かる――彼女は美しい。


 見たい。


 強くそう思う。


 だが無理強いはできない。


 俺はその気持ちを押し込めた。


 やがて朝食を終えた俺たちは、騎士団の詰所へ向かった。


 事情を説明すると、相手はすぐに理解を示した。


「今回の件は間違いありませんね?」


「はい」


 結果、相手は犯罪奴隷として扱われる可能性が高いと告げられる。


 その後、彼女――レイナの立場について問われる場面もあった。


「本当に彼女に脅されてはいないのですか?」


「されてませんよ! 本当です!」


 どうやら、この世界では彼女のような存在は疑われやすいらしい。


 それだけ、容姿による偏見が強いということだ。


「……だから嫌なのよ」


 その一言が、重く胸に残った。


 聴取が終わったのは昼過ぎだった。


「……悪いな」


「え?」


「居心地、悪かっただろ」


「そ、そんなことないから!」


 それでも、俺は申し訳なく思った。


 過去の自分と重なって見えたからだ。


「……あのさ。名前、教えてくれないか」


「まだ言ってなかったわね。レイナ・ラーヴァンテよ」


「レイナか。俺はシュナイダーだ。よろしく」


「っ……」


 差し出した手を、彼女はじっと見つめる。


 触れられることを拒まれる世界。


 その意味を理解する。


 ――無理もない。


 そう思いながらも、俺は引かなかった。


「だから俺は気にしない。ほら」


 少しだけ手を引き寄せるようにして、距離を詰める。


 レイナは一瞬だけ迷うように視線を揺らし――


 おそるおそる、その手に触れた。


 ぎこちなく、けれど確かに指先が重なる。


「……ありがとう」


 その声は、さっきよりもほんの少しだけ柔らかかった。


 初めて触れた手は、驚くほど柔らかかった。


「シュナイダーは、これからどうするの?」


「……宿に戻るかな」


「それなら――」


 レイナが口を開く。


 けれど、その声はすぐには続かなかった。


 ほんのわずかに視線が揺れ、迷うように唇が閉じられる。


 ――何かを言おうとして、言い淀む。


 やがて、意を決したようにもう一度こちらを見た。


「……あの。よかったら、なんだけど」


 言葉を選ぶように、ゆっくりと続ける。


「私の家に、住まない?」


「……いいのか?」


「っ……ええ。貴方が嫌じゃなければ、だけど」


 どこか不安げに、確かめるような声音だった。


 そして彼女は少しだけ慌てたように続ける。


「料理もできるし、掃除も洗濯もちゃんとできるわ。それに、お金も――」


 言いながら、どこか自分を売り込むような必死さがにじむ。


 正直、条件だけ見れば申し分なかった。


 けれど、それ以上に。


 ――勇気を振り絞って言ってくれたのだと分かった。


 その事実が、妙に胸に残った。


 そして何より。


 ――一緒にいたいと思った。


「……なら、住ませてもらっていいかな」


「っ……ええ!」


 こうして俺は、レイナと共に暮らすことになった。

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