2.日常(極甘編)
「なあレイナ、今日は天気もいいしさ、ちょっとくらい外出てもいいよな?」
「風が強いわ」
「いや普通だけど?」
「危ないもの」
「何が!?」
「シュナイダーなんて、ふわっと飛ばされてそのまま攫われるわよ?」
「俺そんな軽くない!」
真顔でとんでもないことを言われる。
またある日は——
朝食を終え、俺は何となく外を見た。
空はどんより曇っている。
「今日は外出れるんじゃないか?」
「無理ね」
食い気味に否定された。
「……理由は?」
「天気が悪いもの」
「いや曇りだろ!?」
「視界が悪いわ。危ない」
「そこまでじゃないだろ……」
即却下。
しばらくして、今度は窓の外が少し賑やかになる。
市場の時間だ。
「今なら人もいるし安全じゃないか?」
「無理ね」
「早いな!?」
「人が多いもの」
「人が多いから安全なんじゃないのか?」
「群衆は危険よ。シュナイダーが目立つわ」
「俺どんだけ危険物扱いされてんの」
確かにこの世界基準だと俺は“珍しい存在”らしいけども。
「なら夜ならいいか?人もいないし危険も少ないだろ?」
「駄目よ」
「即答!?」
「夜はもっと危ないわ」
「いや逆だろ!?人いないって言ってるじゃん!」
「人がいないから危ないのよ」
「この前と逆のこと言ってない?」
「何かあっても助けを呼べないでしょう?」
「それは、そうだけど……」
一瞬言い返せなくなる。
だが納得したわけではない。
「じゃあ昼もダメ、夜もダメって、いつならいいんだよ」
「家の中」
「なんでだよ」
さらに時間が経つ。
今度は完全に晴れてきた。
「よし、これなら――」
「無理ね」
「今度は何!?」
「なんとなく嫌な予感がするわ」
「雑すぎじゃない!?」
理由がついにふわっとし始めた。
そして決定打。
レイナがこちらをじっと見つめてくる。
「……やっぱりダメ」
「今度は何だよ」
「その服、似合いすぎてるわ」
「え?」
「そんな格好で外に出たら、絶対に目をつけられる」
「理由が理不尽すぎる!」
「つまり外出は禁止よ」
「最初からそのつもりだったろ!?」
満面の笑みだった。
あ、これ完全に確信犯だ。
「……なあレイナ」
「なに?」
「今日はもう外出るの無理か?」
「無理ね」
「だよなぁ……」
諦めてソファに倒れ込む。
すると、すぐ隣に気配。
気づけば、レイナがぴったりくっついていた。
「外は危ないもの」
「はいはい」
「でも家の中なら安全よ?」
「それはそうだけど」
「だから――」
ぎゅっと腕を絡めてくる。
「こうしていましょう?」
「……まあ、それも悪くないか」
抵抗する気は、もうなかった。
――そして当然のように。
その後、スイッチの入ったレイナに捕まった。
解放された頃には、外はすっかり夕暮れだった。
「……今日も冒険できなかったな」
「ふふ、残念だったわね?」
「絶対思ってないだろ」
「ええ、全然」
満足そうに笑うレイナを見て、俺はため息をついた。
……まあいいか。
何だかんだ楽しいし。
♢
リビングにて。
「———♪」
レイナが機嫌良さそうに家事をしていた。
静かに手を動かしていたレイナは、ふと手を止めた。
視線の先にあったのは――
シュナイダーの服。
さっきまで身に着けていたもの。
「……」
少しだけ、迷うような間。
それから――
そっと手に取る。
柔らかく、抱き寄せるように。
そして――
ほんの一瞬だけ、顔を近づけた。
「……っ」
すぐに離れる。
だが、その頬はわずかに赤い。
「……何してるの、私」
小さく呟いて、軽く首を振る。
けれど。
その手は、しばらくの間――
服を離さなかった。
「レイナー?」
「っ、は、はい!」
呼ばれて、慌てて服を戻す。
何事もなかったかのように整えてから、部屋を出た。
「どうした?」
「な、何でもないわ」
「顔赤くない?」
「気のせいよ」
「ほんとか?」
「本当」
その日から何故か定期的に服が新品に変わる現象が起きるようになった。
♢
最近のレイナはめちゃくちゃくっついてくる。
いや、正確に言うなら。
何をしていても、必ず隣にいる。
朝。
椅子に座ってぼーっとしていると、当然のように隣に座る。
しかも距離が近い。
肩が触れるどころか、ほぼ密着している。
「……近くない?」
「普通よ?」
「普通の距離じゃないだろこれ」
「恋人ならこれくらいでしょ?」
「基準がおかしいって!」
だが本人は至って真面目だ。
悪びれる様子も一切ない。
本を手に取る。
読もうと開いた瞬間――
ぴと。
腕に何かが触れる。
視線を落とせば、レイナが腕に寄りかかって本を覗き込んでいた。
「……読めないんだけど」
「一緒に読めばいいじゃない」
「ページめくれないだろ」
「私がめくるわ」
「そういう問題じゃない!」
結局、ほとんど内容は頭に入らなかった。
水を飲もうと立ち上がる。
当然のようについてくる。
「……なんで来るの?」
「一緒にいたいから」
「いやトイレとかどうすんの」
「そこは行かないわよ」
「線引きそこ!?」
安心していいのか微妙なラインだった。
ソファに寝転ぶ。
数秒後には、隣に気配。
さらに数秒後――
腕を枕にされていた。
「……これ、俺動けないんだけど」
「動かなくていいわ」
「いや動きたいんだよ」
「ダメ」
「即却下!?」
顔を上げると、レイナは満足そうに目を細めている。
完全にくつろいでいた。
「……まあ」
軽く息を吐く。
腕に感じる温もりは、嫌じゃない。
むしろ――
「悪くはないからいいか」
「でしょう?」
勝ち誇ったように微笑むレイナ。
そのまま、ぎゅっと抱きついてくる。
――結論。
結局俺はその日も
何をするでもなく、レイナにくっつかれて一日が終わるのだった。




