エピローグ(改稿後)
翌朝。
普段感じることのない温もりで目が覚めた。
隣では、レイナが静かな寝息を立てている。
一糸纏わぬ、そのままの姿で。
「……」
昨夜のことが、ゆっくりと頭の中に蘇ってくる。
正直、まだ実感が追いついていない。
これほどの美女と、そういう関係になるなんて――
俺には一生縁がないと思っていた。
「……俺、レイナとしたんだよな」
「っ」
呟いた瞬間、レイナの肩がピクリと跳ねた。
「……レイナ、起きてるだろ」
体を動かそうとすると、顔を手で押さえられる。
「だ、駄目……今顔見られたら、恥ずかしくて死んじゃう……」
何だこの生き物は。
枕に顔を埋めているのに、耳まで真っ赤に染まっている。
昨日までの堂々とした態度が嘘みたいだ。
「ねぇ……本当に……私が美人に見えてるの?」
「まだ疑ってるのか?」
「だ、だって……」
言葉を濁すその声は、拒絶というより戸惑いに近い。
その初心な態度に――少しだけ、意地が悪くなってしまう。
「なら、もう一回確かめるか?」
「……うん」
「え」
「……お願い、します」
冗談のつもりだった。
だが返ってきたのは、まさかの真剣な返事。
(……いやいや)
こんな朝からそんなことをしたら、絶対に歯止めが効かない。
そう思っているのに――
目の前のレイナは、ぎゅっと目を閉じて体を強張らせている。
それでも、逃げるつもりはないらしい。
むしろ――
ほんの少しだけ、期待しているようにも見えた。
(……参ったな)
理性が、簡単に押し負ける気がした。
◇
気がつけば、外は夕方になっていた。
「……疲れた」
思わずそう零してしまう。
体力的にも、精神的にも、色々と削られた気がする。
それに比べて――
「ふふーん」
レイナは、やけに機嫌が良さそうだった。
肌は艶やかで、頬もほんのりと色づいている。
昨日までとは本当、別人だな。
「はい、出来たわよ。食べましょう?」
「……なぁ」
「ん?」
「何で隣に座るんだ?」
いつもは向かい合って食べていたはずだ。
なのに今日は、やけに距離が近い。
肩が触れそうなほどに。
「え? 恋人なら隣でしょ?」
「……ああ」
(なるほど)
どうやらレイナの中では、
“そういう関係”になった時点で恋人扱いらしい。
俺としても、異論はない。
むしろ望むところだ。
ただ――
いざ本人からそう言われると、照れるというか、なんというか。
「ねぇ」
不意に、レイナが身を乗り出す。
「今日は、お風呂に入らない?」
「……ん?」
一瞬、耳を疑った。
この世界では、浴槽がある家は珍しい。
だがレイナの家にはある。
そして、今日はその日らしい。
いや、よく考えたら風呂に入ろうと提案されただけだった。
一緒に入りたいとかそういう事ではないよな。
少し、いやかなり残念だが、昨日まで一定の距離を保ってたレイナが一晩共に過ごしたとはいえ、そこまで積極的にはならないだろう。
「……一緒に入りたいんだけど」
「……」
そういう意味だった。
思わず固まる。
が――
(よく考えたら、むしろ大歓迎だな)
「よし、入ろう」
「ま、まだお湯沸かしてないわよ」
「今からやればいい」
「ふふ、落ち着いて」
「いや、待てるか」
我ながら落ち着きがない。
だが、仕方ない。
目の前のレイナが、やけに楽しそうに笑っているのだから。
「ねぇ、どうしたの?」
「どうしたって……やけに積極的だなって」
「……引いた?」
「引くわけないだろ」
これだけの美人に好意を向けられて、引く理由なんてない。
むしろ――
「大歓迎だ」
「……本当?」
「本当だ」
すると、レイナは少しだけ視線を逸らして――
小さく息を吐いた。
「……試してたの」
「試す?」
「貴方が、本当に私の容姿をどう思ってるのか」
「なるほどな」
今日の行動を思い返せば、納得はいく。
「それで、結果は?」
「……驚くほど、好意しか感じないわ」
少しだけ間を置いて、レイナは続ける。
「それに……さっきから、目がいやらしいわよ」
「……マジか」
「ふふ……でも、嫌じゃないの」
その一言に、少しだけ胸が軽くなる。
「だからね……楽しくなってきちゃって」
「その流れで風呂に誘った、と」
「……ごめんなさい」
一瞬、表情が曇る。
「でも……嬉しかったの。本当に」
「……ならいいよ」
「え?」
「レイナが楽しいなら、それでいいんだ」
俺はそう思っている。
無理に我慢する必要なんてない。
「だから――我慢しなくていいぞ」
「……!」
その言葉に、レイナは少しだけ目を見開いて――
次の瞬間、笑った。
「……もう、大好き!」
勢いよく抱きついてくる。
その体温に、思わず苦笑する。
頼むから……俺の理性もってくれ。




