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阿修羅姫 まかり通る  作者: 鈴片ひかり
第6章 阿修羅の章
33/45

32 瘴気テロ

挿絵(By みてみん)

 ~ 都内某所 梛良敬一郎宅 ~


 静子さんが夏恋や文と食事の準備に取り掛かっていた。


「夏恋ちゃん、ほうれん草のおひたしは任せたわね、私は切り干し大根煮詰めちゃうわ」


「わかりました!」


 文はうれしそうにせっせとおにぎりを握っている。


 楽し気な団欒を邪魔するのは気が引けたが、影海は3人を呼んでニュース映像を見てもらうことにした。


「ちょっと何よこれ」


 文と静子さんも言葉を失っていた。


 渋谷駅前のハチ公前広場に無数の死体が転がり、逃げ出す人々の映像がビル屋上からのスマホで撮影されていた。


 微かに黒く見える煙に触れたとたん通行人がバタバタと倒れている。


「あれは瘴気だな」


「はい、間違いありません」


 仙葉が画像データから霊体解析をAIに指示ているようだが、皆血の気が引いてしまっていた。


「仙葉、犠牲者はどれくらいになるんだ?」


「推測ですが最大で400人規模と」


 ハチ公前広場からスクランブル交差点に流れた瘴気ガスが、将棋の駒をなぎ倒すように人々を巻き込んでいく。


「霊体解析は十分とは言えませんが、霊能力皆無な私の肉眼と霊体処理機能なしのレンズでこの濃度です、恐らく触れた途端に即死レベルでしょう」


 その場にいた全員、 深いため息と日本国内で起きた悲劇に言葉を失っていた。


 影海が眉間にしわを寄せながら呻くように呟いた。


「おいこの一件と昼間の襲撃に関連はあると思うか?」


 その件で口を開いたのは意外にも梛良だった。


「なんとなくだがね、ここに来た事は天の導きだと僕の直感がそう言っている。こういう時はまず外れたことがないからね、裏を取ってみるといいよ仙葉君」


「は、はい! そうしてみます!」




 さて時は若干戻り、昼間の襲撃であるが、金も予算も尽きてじり貧になったMDSメンバーは、大量に買い込んだモヤシで昼を乗り切ろうとしていた時だった。


「マヨネーズ使い切ったの誰よ! あればモヤシも少しはおいしく食べられたのにさ!」


 夏恋がぷんぷんしながらゆで上がったモヤシをボールにあけてテーブルに運んでいる。


「まさか米まで底をついていたとはな、当番は……亜麻色ぇ!」


「す、すいません!」


 影海に怒鳴られシュンとなってはいるが、腹は減る。


 皆で醤油や塩をかけたモヤシをもしゃもしゃと食い続ける光景はかなりシュールではあったが、文はハムスターの如くおいしそうに食している。


 その時である、テーブル中央に置かれたタブレットが小さい警告を発した。


 素早く仙葉がチェックすると、屋上と周辺に特殊部隊のような装備をした人員が少なく見ても15名以上。


「迎撃できなくはないが、こいつらの装備は対人用だな。よし、脱出ルートB、静かに脱出だ」


 全員が静かに箸と皿を置き取る物も取らずに事務所のロッカーを開け、中に入っていたポールを伝って消防署のように地下へ降下していく。


 その30秒後である。


 突入してきた特殊部隊はもぬけの殻状態に怒り、もやしだらけのテーブルを蹴り倒す。


「奴らはどこ行った!?」


 その問いに答えるよりも早く外で複数の衝突音が鳴り車が走り去っいった。


「も、申し訳ありません。取り逃がしました」


「まあいい装備もない状態では何もできんだろう。牽制と時間稼ぎには十分だ」


 ……


 その様子が録画されサーバーにアップされているとも知らず。





 録画からの音声データを大きくすると全員がやはりと、納得しながらも霊異庁がここまで腐っていたのかと愕然としている


「嫌な連中だと思ったけど、ここまでとはね。牽制と時間稼ぎってさ、どう考えても瘴気テロに介入させないって聞こえるんだけど」


 夏恋の疑問は状況だけを見れば納得ではあるが、偶然ということもありうる。だが発生時刻とのタイミングを考えれば可能性は否定できない。


 仙葉は引き続き分析して裏取りしてもらうとして、今後の方針を考えていた時だった。


 梛良夫妻の宅の電話が鳴り、はいはいと梛良が受話器を取った。


「やあ久しぶりだね、うんうんちゃんと来てるよ。今替わるね。影海君、猪鹿倉さんだ」


 その表情はいつもの穏やかな面差しではなく、辛そうな陰が滲んでいる。


< 影海か、そこにはどんだけそろってる? >


「宗像親子除いた全員です」


< あいつらいねえのか、こんなときにまったく。とりあえずだ、俺が調べたデータを送るから仙葉から事情を聞け。作戦時刻は2200。こっちも紐がついていてな、後で合流しよう >


「あ、もう切りやがった」


「ちょうど猪鹿倉さんからのデータきましたってこれ……」


 仙葉は複数のデータを順々に提示していった。


 静子さんは恐ろしさに震え梛良に支えられている。


 中でも驚きであったのは、この通信を最後に連絡が取れなくなったという猪鹿倉の元部下で本庁勤務の職員だった。


 ”

 この音声データが届くことを祈って、えっとあいつらは コトリバコ を瘴気封入用の呪物として大量に用意しています。


 作戦は段階的に進行し、まずは東京結界の破壊、恐らくは上野寛永寺か山手線沿線駅のどこかの結界に綻びを作るはず。


 推測ですが、五色不動結界の破壊に失敗したからかもしれません。


 最終的な大規模テロの実行日時は明日11月13日朝0800 通勤通学の各駅を狙うようです。


 隊長、止めてください。もしかしたら僕はもう戻れないかもしれない、あっお願いしますね。


 ”


「この後 彼との連絡は途絶えたままです」


 渋谷駅で起きたテロを予見し、次の標的を調べ上げた隊員の勇気にパトリックが祈りを捧げている。


「いわゆるハチ公結界を瘴気テロで破壊して綻びを作り、都心への足掛かりを作りやがったか」


 亜麻色と文が コトリバコ という存在について素直に質問してきたため返答に困ったのが夏恋だった。


「ある箱に胎児を殺して塗りつぶしていく。それを延々と繰り返し……そういった呪物がどれほどの力を持つかは想像できるでしょ。人が触れてはいけない深淵なる邪悪のなせる業よ。今回は瘴気の器として作成されたようね……自分で言ってて吐き気すらしてくるわ」


 二人があまりにも邪悪な所業にショックを受けている。震える文の手を亜麻色がしっかりと繋いでいるのを夏恋は見逃してはいない。



 既に仙葉はAIに情報を分析させていたが、数分で裏をとっていた。


「私のAIは対ホツレ用のバイアスをかけることで、ホツレに対抗しうる唯一の人工知能ですが、さっそく見つけてくれましたよ」


 仙葉が再び提示したのは晴海埠頭の入港船舶データであった。


「ここに半年前から停泊中の豪華客船 エジュルイード号 周辺の現 瘴気モニタリングポストデータをなんとか中継し確認できました」


 タブレット画面を皆に見せるがそのデータを読み解けるのはパトリックぐらいなものだ。


「OH ノー! なんじゃこりゃ!」


「瘴気濃度 3500ppm 生身の人間では30分も持たないレベルの高濃度汚染地帯になっています。ここから渋谷駅ハチ公前まで移動した車両を検索すると……はぁやっぱりか」


 影海がタブレットを覗き込み怒りで震え出している。


「霊異庁長官直属 特殊退魔処理部隊 ヤタガラスの車両じゃねえか! ってことはやっぱり黒幕は、霊異庁長官 真喜志まきし 忠信!!」


「隊長がずっと追いかけた奴ね、やっと尻尾を掴めたわ」影海が怒りを決意へと変換している最中であると察し、夏恋は影海の背中を見守った。


 すっと立ち上がった梛良は意を決したように二階へ上がっていく。


 静子さんはそのまま台所へ戻っていった。


「ホツレの隠蔽力でばれないとでも思ってたんでしょうね、んでどうすんの、隊長代理」


 夏恋が背中をとんっと押してくれたことに影海は感謝している。


「行くしかないだろう。兄貴には米軍経由でデータを送っておいてくれ」


「既に送信済みですが、米軍の情報ですと隊長たちの乗ったオスプレイが墜落したとのデータが」


「「「「ないないない」」」」


「ふっまあそうなりますよね、殺しても死なない最強親子ですからね」


「隊長のことだから既に状況を把握してこっちに向かってくれてるかもしれません」


 仙葉から示された被害想定人数に全員が決意を新たにしている。


 被害想定人数 300万人。

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