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阿修羅姫 まかり通る  作者: 鈴片ひかり
第6章 阿修羅の章
34/45

33 蠢く糸

さて、分断状況にあるMDSメンバーはどのような行動をとるのでしょう。

挿絵(By みてみん)

 MDSメンバーは梛良に案内され、車庫の脇にある地下入り口を降りていく。


 この家は宗像が梛良夫妻のために新築し提供した住宅だった。万が一のためのセーフハウスとしての機能もあったが、一番の理由は感謝の思いだったことは間違いない。


 かなり広めの地下室には備蓄食料や飲料水があり、奥には梛良の趣味である釣り道具が綺麗に整理整頓され釣り竿が壁にかけられている。


「これはね私の自慢のへら竿 なんだよ。いやあ高かったからねぇってこれは尺を釣った時にって、今は関係ないよね。えっといくよ」


 パンパンと柏手を二回。


 するとガチャリと壁がスライドし、中にはMDSの退魔装備一式や見たこともない道具、武器の類がしまい込んであったのだ。


「すげえ! スーさんみたいだ!」


 影海と仙葉、パトリックは子供心を刺激されたようで興奮している。


「ようし、黒助に装備を積み込んで退魔装備に着替えを急げ!」


 影海の指示で戦闘準備が整えられていくが、対人戦闘であるのか退魔戦闘になるのか予測がつかない。


 それでもブッシュマスターやハンドガン、M870 MCSショットガンやMP7と対応する弾薬を積み込んでいく。


 運び込みを手伝っていた亜麻色と文を呼び止めた梛良は、作業机の上に置いてある長細い桐箱を開け始めた。


「私がかつてある神社からお礼にと頂いた品なのだがね、霊力資質の相性は亜麻色君に向いていると思うんだ」


 頷き中身を確認するように促した梛良は文に微笑みかける。


「これは!? すごい、昔の刀みたいですね」


鍔鳴つばなりの太刀。邪を祓い瘴気を切り裂く破邪の太刀だよ」


 握っただけで全身から勇気が沸き起こってくるかのようなエネルギーに満ちている。


「持って行きなさい。恐らく君に必要になると思うよ、その手を見る限り毎日相当な鍛錬を続けているね」


 たしかに入所した当初より体つきもしっかりし、体力や剣の腕も見違えるほどに上達してはいる。


 毎晩のように宗像から手ほどきを受けてきたことが今こうして実を結び始めている気がして、亜麻色は胸が少し熱くなった。


「まだまだですが、お預かりします」


「亜麻色君 良かったね」


「ありがとう文ちゃん」


 ニコニコしながら取り出した大きな包みから古びた和弓が姿を現した。


「え? この神気は……う、うそ……」


 若干怯えた表情になった文を気遣う亜麻色だったが、梛良は優しく頷くと文の手を取って和弓に添えるのだった。


「……あっ……山神様、そんな、私を守るためだったなんて!」


 文の霊視ビジョンには、長い髪をした直衣烏帽子の美男子が微笑んでいる姿が映っていた。


 ”

 文、邪悪な影が君を狙っていると気付いてね、どうやったら守れるのだろうと、事を急ぎすぎてしまったよ。


 不安にさせてすまなかったね。


 嫁にするとは守るための方便でもあったが、文が幸せになることだけを祈っているよ。


 産土の神から譲り受け浄化の念が込められた産土うぶすな梓弓あずさゆみだ。


 君の力にならんことを祈るよ。気が向いたらまた里へ遊びに来ておくれ、また”もんぶらん”を一緒に食べようじゃないか


 ”


 文は崩れ落ち嗚咽していた。


「山神様、私が早とちりしてごめんなさい。優しくていつも笑顔でいてくれた大好きな山神様、ありがとうございます」



 その後、パトリックが試作していた個人用装備が配られていく。


「えいかいさーんには、ブレードにオーラコーティングした仕込み刀の錫杖でーす!」


「おお! 頼んでた奴だな、こいつは心強い」


「これは夏恋さん専用装備ですね」


 手渡されたのはリボルバー式グレネードランチャーを彷彿とさせるデザインのごつい銃だった。


「なにこれ?」


「夏恋さんが水との親和性が非常に高いということに着目し、霊水精製と圧縮を行いリボルバーチャンバー内に圧縮霊水をチャージするシステムが備わっています」


「つまり……えっとどういうこと?」


「インパルス霊水銃ってとこですね」


「いいじゃない! 水ってどうするの?」


「マントラに反応するように霊子プログラムしてあるので、どうしても困った時は水天神の真言で対応可能ですが、水道やペットボトルから補充してくれてもいいですよ。基本全てオートになっていますのでご安心ください」


「弾薬にあたる水が現地で補充可能というのは画期的なシステムね!」


「はい、残りは隊長たちの分ですが、あの親子のことです必ず合流できるでしょう」



 ◇◇



 ~根国島~


 数時間前に米軍のヘリUH60 ブラックホークが予定合流ポイントに着陸した。


 パイロットらと護衛のダリス伍長が自らやってきてくれた。


 すぐに糺華の処置をメディックの女性兵士が担当してくれたため、落ち着きを取り戻しつつあった。


 だが上空に瘴気が滞留し、このままでは飛行できても電子機器がやられ墜落してしまうらしい。


 臨時の救護用テントを設営し宗像も手当を受けることになったが、メディックの女性兵士が縫合用の糸が足りなくなるなど聞いたことがないと呆れ果てていた。


 全身が包帯だらけになった宗像を雪乃がミイラみたいとからかった。


「ミイラ役なら保護者演劇会にも出られるかな」


「そんなかっこいいミイラいないよ」


 久しぶりの親子だけの会話に、二人ともやや照れ臭さを感じている。


「雪乃もすこし休んでおけ。大分消耗したろう」


「大丈夫、少し回復したし、広域型の防御ができるのは私だけ。うん、気を抜いちゃだめなの」


「お前は昔から頑固で真面目だからな、少し気楽に生きてみろ。まあ近くにいた大人が俺みたいなんんじゃ、しっかりするしかなかったとは思うが」


「そんなことない。お父さんがいてくれたから、私はお父さんみたいに大勢を守れる人になりたい」


 そんな雪乃の頭をよしよしと撫でていると、ほんわかとした表情になってくる。


「わたしもー!」


 いつの間にか糺華がやってきて宗像に抱き着いてきた。


「パパ、私もいい子いい子して」


「まったく仕方がないな」


 しばらくはうれしそうにしていたが、すぐに怖いことを思い出した子供のようにしくしくと泣き出した。


「ごめんねお姉ちゃん、ごめんねパパ、私がやられちゃったからこんなことに」


「何言ってるの? あんたはいっつもおバカやって困らせてるでしょ? もう慣れっこよ何をいまさら」


「う~」


「そうだ調子に乗って切り干し大根を丼10杯食って腹壊すとかな、お前のアホさにはもう慣れっこだ」


「うう~」


 そんなことをしているうちに、三人に笑顔が戻って来た。あの日の優しい時間がふっと戻ったような、穏やかな我が家の匂いが通りすぎた気がした。


「帰ったらね、すき焼き食べたい」


「この流れでまた食べ物の話とかあんたどんだけ食い意地はってるの」


「分かった。すき焼きだな、セーフハウスですき焼きパーティーでもするか」


「肉!肉! お肉!っつ!」


「ほら調子に乗るからよ、早く休んでいなさい」


 雪乃に支えられてヘリの座席に座る糺華。


 元気そうにしてはいるが、体内に漏れた瘴気量は相当のものであり阿修羅姫という素体でなかったから即死であったことには間違いないのだ。


 呪詛を和らげるべく浄化のまじないをかけてはいるが、焼け石に水かもしれない。


 その一方でダリス伍長からとんでもない話がもたらされた。


 駆け寄ってくる彼の顔が強張りひきつっている。あの温和な丸顔がまるで見る影もない。


「む、宗像さん、とうきょうで」


「おいどうした!?」


「えっと、東京で毒ガステロだそうです。推計では死者数はおよそ370人に及ぶと」


「「!?」」


 米軍は事態を重く見て、既に横須賀に寄港していたジョージ・ワシントンを出航させているという。


「おい、この毒ガスってもしかして、瘴気ガスじゃないのか?」


「な、何故分かったのですか?」


「奴らが高濃度瘴気を武器として扱う技術を開発したのは間違いない。実戦レベルで広域汚染できるほどの高濃度瘴気を弾丸に封入してるんだからな」


「瘴気を浴びると人は精神を錯乱させ、もっと濃ければ生命活動に著しい悪影響を与え……さらに濃ければ耐性のない人間は即死レベルよ。あっても1分も持たないでしょうね」


「なんてことだ ジーザス!」


 メディックとパイロットもあまりの事態に顔面が蒼白になってしまっている。致死性の生化学兵器を超えた瘴気という存在は、この島の周辺にも漂っているのだ。


「東京に早く戻れないか!? ぐずぐずしているとここに残りの邪妖共が殺到するかもしれん」


「はい、米軍から宗像さんたちを保護し早急にお連れするように命令がくだされました。低空で低瘴気エリアを飛行して活路を開きます」


「俺と雪乃でヘリとみんなに対瘴気用の穢れ除けの祈祷をしてみる、効果はかなりあるはずだ」


 その言葉にパイロットとメディック、それにダリス伍長の表情に希望の色がにじみ出てくる。


「南無本尊界摩利支天 来臨影向 其甲守護したまえ!」パンと柏手を合わせ、八百万やおよろず の神を称える穢れ除けの祝詞のりとを唱え始めた。


 雪乃と糺華も手を合わせ、6人とヘリが穢れ祓いによって災難を避けられるようにという祈祷が続く。


「なんか体が軽くなった気がします宗像さん!」


 明らかにパイロットたちの表情も明るくなった。


「それぞれが信じる神に感謝してくれ、それでいいんだ」




 ブラックホークは宗像の巧みな誘導を受けながら、瘴気の薄いポイントを的確に避け洋上へと脱出することに成功した。


 高い機体であることに加え、見えない瘴気が晴れるのを待ちたいパイロットたちの考えは十分理解できたし墜落の危険も上昇する。


 そのような状態であってもパイロットは果敢な飛行に挑んでくれた。


 ブラックホークの航続距離はおよそ500km 東京ー大阪間に近い。


 ダリス伍長の話では房総沖にいるジョージ・ワシントンへ直接着艦予定だ。燃料の余裕はあるものの不測の事態やトラブルは避けたい。


 ヘリの中で糺華はすやすやと眠っていた。今は眠りがこの子を回復させてくれるだろう。輸血は済んだが毒素として入り込んだ瘴気を除染する効果的な方法がないことが悔やまれてならない。


 こんな任務受けなければよかったと、宗像の後悔はでかい。


 ダリス伍長から聞いた話では、中継会場の豪華客船はそれ自体がフェイクで相当な被害を出したという。


「北村たちは無事だったんだな?」


「数名が負傷したようですが、最後まで残って撤退を支援してくれたそうです」


「さすが北村だ、現場指揮に関しては今度雪乃と夏恋たちの指導を頼もうかな」


「北村さんのところならぜひ行きたいかな、夏恋もなんだかんだで気許してるしね」


「見えてきました、あれが我が軍の誇る空母 ジョージ・ワシントンです」


 その威容はまさに洋上に浮かぶ要塞に思える。


 誘導員との連携で見事な着陸を見せるパイロットに敬意を払うと、彼から握手を求めてくれる。こんな危険な場所に救助に来てくれたことに感謝を伝えると素直に喜んでくれた。


 メディックは無事に帰れたことに喜び神に祈っているようだ。


 すぐに米軍関係者に案内されると糺華は医務室へ、そちらには雪乃が付き添い宗像は会議室のような場所へ通された。


 無論軍艦のため狭いものの、それでも他の艦に比べればかなり広い部類に入るのだろう。


「ミスター宗像、我々の手違いで罠に飛び込ませてしまい申し訳なかった。しかしそれでも生還するとは君たちの実力は凄まじいな」


「急襲部隊も相当な被害を受けたと聞きました。犠牲になった勇敢な兵士たちのご冥福をお祈りいたします」


 戦友の死を悼む態度がバーンズ大佐の態度を一気に軟化させたようだ。


「東京でのテロのことは知ってるね?」


「はい、できれば早急に東京へ送ってもらえないでしょうか。少なくともそれぐらいの仕事はしたつもりだが」


「もちろん送り届けることには何も問題がない、在日アメリカ大使館の職員救出任務も同時に実施予定なのだ。その過程で君たちを降ろすことはできる」


 含みのある言い方だった。


 宗像と米軍の関係は必ずしも良いものでもない、悪くもないと自覚はしているがフラットな損得関係と考えるべきだろう。


「何が言いたい? はっきり言え、時間がないのは同じだろう」


「ミスター宗像、君はまるで乱世の名将のようだ。どんな戦場でも生き抜いて的確な指示を出して生還し結果を残す……実は改めて依頼したい件がある」


「断る。今は同胞たちを救うこと以上の価値があるものなどない」


「そう言うと思ったよ、いやそのように発言してくれてむしろ私は君が好きになった。実は我が軍の極東支部にMDS名義で情報提供と君への伝言を頼まれているんだ」


「あいつらも無事だったか」


 書面を見せてもらうと、ヤタガラスに襲撃された!? 怪我人なしだと、たいしたもんだ。


 梛良さん宅に避難し猪鹿倉からの情報提供で、次のテロ……


 やっぱりあいつか。


 霊異庁長官 真喜志忠信! 恐らくブラックアイと関わりが深いはずだ。


 書面を追っていくと重大な記載に辿り着く。


 半妖殲滅作戦 42号作戦の作戦立案者並びに現場作戦指揮官……真喜志忠信!?


 そうか、こうやって全部が繋がっていくのか。


 絡まった運命の糸と、千切れたように見えていた因果の糸が、今はっきりと宗像の目の前で蠢ている。


「それで依頼の詳細は?」


「私たちが求めるのは在日米国人の安全確保と、実戦データ、といえば想像がつくかね?」


「ダリス伍長なら受け入れてもいい。彼は行動力もあり勇敢で仙葉たちとも気が合うようだからな」


「それでいこう、装備や車両も我々で用意する。出発は1時間後だがよろしいか?」


「現地到着時間は……なるほどギリギリ間に合うな、了解した」


 バーンズ大佐と宗像が契約の証として握手をかわす。


 ぼろぼろの上着を脱いだ宗像は案内してくれた米軍兵士に案内され医務室へと向かった。


 置いてきぼりにしたら怒るだろうな。やっぱり側にいたほうが安心なのは昔から変わりないか。

「 鍔鳴りの太刀 」に関しては原典があります。

S・ジャクソン、L、リビングストン 巨匠が監修の ファイティングファンタジー「サムライの剣」に登場する刀のことです。

萩原一至先生の「バスタード」に登場する侍、ヨシュア・ベラヒラが愛用している刀も、鍔鳴りの太刀という設定だったはずです。

痺れるような名称に中二心を刺激され、亜麻色君に頑張って欲しいという思いを込めて彼に使ってもらうことにしました。

もちろん、当作品での設定はまったく異なるもので、当然のことながら蝶舞阿修羅斬は使えません。

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