第33話 2人の軌跡②
隼人が退院した。一般病棟に移って1週間で急激な回復を見せた隼人。奇跡に近いとおじさんは言う。
「毎日大悟くんが来てくれたおかげだな」
おじさんが笑う。俺がいない時は笑顔が少なかったが、俺が来たらその日一日笑顔が絶えなかった。らしい。
「隼人、退院おめでとう。よく頑張ったな。」
そう言って頭を撫でる。嬉しそうににへ、と笑う。可愛い。
「大悟、父さんはこれから診察の時間だから送ってやれないが、すまないな。」
「大丈夫だよ。大悟と帰るから。」
「これ、処方せんな。いつもの薬局に出して、貰うようにな。」
「うん、わかった。ありがとう。」
「隼人、手首見せて」
「え…うん。」
俺は手首のまだ癒えていない傷跡にキスをした。
「何してるの?」
「おまじないの一種かな。こうすると傷が早く良くなるらしい。」
「ふーん。大悟っておまじないとか信じるんだね。」
「基本占いとかおまじないとかは信用してないけど、これだけは信用してる。」
「そっか、あ、バス来たよ。じゃあ後でね、お父さん」
「おう、後でな。」
バスの中、入院していた時の話を切り出す。
「入院してた時の記憶はある?」
「うーん、ずっと寝てた記憶しかないなぁ。」
「そっか。確かにずっと寝てたな。」
「あ!でも大悟が毎日来てくれたのは覚えてる!退院出来たのも大悟のおかげだね!」
「…そうか、ありがとな。」
バスは俺たちが住むマンションのバス停に着いた。隼人が行きつけの薬局に処方箋を出す。そして薬が出来るのを待つ。
「そう言えばお父さん、病院の准教授になるんだって。」
「え、クリニックもあるだろ?」
クリニックは午前だけにして、あとは大学病院で診察するんだって。」
「忙しいな…隼人はどうなるんだ?」
「僕は大学で診てくれるみたい。おばさん、いたでしょ?カウンセラーとして大学病院に常駐してるんだよ。だから大学の方がいいだろうって」
「まぁ、確かに…」
「西野さーん!西野隼人さーん!」
「あ、はーい」
薬剤師と隼人が話しているのをぼんやりと見ていた。隼人が笑顔で薬を貰い、礼を言う。俺はこれから、隼人のことを見ていく義務がある。それでもどこまで出来るだろう。隼人に重いなんて言われたら終わりだ。
俺が悶々と考えているとら隼人が背中を叩いた。
「顔、怖いよ。行こ?うち来なよ。」
…なんとなく今のままでいいような気がして来た。俺はずっと守っていく!
隼人の家に着く。ドアを開けると、おばさんが隼人を抱きしめた。
「無事退院出来たね…良かった…」
「迷惑かけてごめんね。」
「迷惑な訳ないじゃない!あぁこんなに痩せ細って…。大悟くんも本当にありがとう。大悟くんのおかげで、隼人は早く退院出来たの。本当にありがとう。」
「いえいえ…」
隼人の家に上がる。紅茶とケーキが用意されていた。
「大悟くんはコーヒーで良かった?」
「あ、はい」
「おっとなー!」
「まぁな。」
「隼人は紅茶ね」
「うん。啓斗は?」
「Troopsの陽くんと遊びに行ったよ。」
いつの間にか陽さんとそんな関係になっていたのか。僕は少し感動していた。引っ込み思案で友達も少ないあの陽が。
「陽と仲良くなったようで良かったよ。あいつ、舞台ではすごいんだけど、ステージから降りたらすっげぇの。何も喋んないだよ。」
Troopsの話しをする時の大悟が好きだ。腕を杖にして大悟を見る。
「なんだ隼人」
「いや、別に。」
「隼人は大悟くんに会えて嬉しいのよね。」
「な、何を」
「あーそういうことか。」
今度は大悟がにやにやし始めた。視線を逸らしクッキーをつまむ。
「あ、これ美味しいね。」
「記事に紅茶の茶葉を入れてみたの。成功したみたいね」
「すごく美味しい!」
「大悟くんもよかったら食べて!」
「あ、頂きます。うん、美味しい!」
「良かったわ、二人からご好評頂いて。」
クッキーをたくさん摘んだ後、僕の部屋に入って話をする。
「明日Troopsのライブなんだよ。はい、バックステージパス。」
「うん…ありがと」
「この後プリプロ?リハーサルなんだよ。」
「え、じゃあ早く行かないと!」
「うん、もう行く。馬鹿なこと考えるなよ」
「分かってるよ。じゃあな。」
「また明日。」
「また明日」この言葉が言えて良かった。あれ?バックステージパス…1枚?




