第32話 2人の軌跡①
俺が側にいるということで、全身麻酔が外された。そろそろ目覚める頃だろう。近くにはおじさん、そして男性看護師が待機していた。
ぴくっ、と指が動く。俺は咄嗟に声をかけた。
「隼人。」
「ん…ん…?」
「隼人、無理に喋らなくていい。俺が分かったら手を繋いでくれ。」
ぎゅっ、と手を握られた。その手の温かさに安堵した俺は涙を流した。
「泣…か…ないで…大悟…」
「あ、あぁ…!」
「大悟くん、麻酔から目覚めた後の処置があるから、ちょっといいかな?」
「は、はい…」
保護室の外から隼人を眺める。なんだか小さく見えてしまう。
40分後、おじさんが保護室から出てくる。
「明日か明後日くらいかな。このまま落ち着けば、一般病棟に移れるよ。大悟くんにかかってるからな。」
「は、はい…」
再び保護室に戻る。隼人が起きていた。さっきより意識ははっきりしているようだ。頭を撫でてやると、にへ、と笑い、
「僕、もう子どもじゃないよ?」
「今までよく頑張ったなの撫で撫でだな。」
「もう!」
「うわ、すごいすねあの子。隼人くんの笑顔を自然に引き出しましたね。」
「そりゃ3歳から一緒だからな。なんかしらシンパシーがあるんだろう。これ、アセスメントに書けるぞ。」
「あ、はい。」
「隼人、俺のためにごめんな。こんな辛い思いさせて。」
「大悟のせいじゃないでしょ?気にしなくていいよ。」
「でも…」
「じゃあ僕が退院したら、僕が1番好きなことをして?」
「隼人が好きなこと?セッ」
「したことないよ」
冷たい声で言い放たれた。怖い。
1時間程話をし、帰宅する準備をする。
「じゃあ隼人、悪いけど帰るな。また明日来るから」
「無理しないでいいよ。毎日来るの大変でしょ?」
「俺が隼人に会いたいから来るんだよ。大変なんかじゃない。」
「ありがと。じゃあまた明日ね。」
「おう。じゃあな」
病院を後にする。喋れるまでに回復して良かった。やっぱりおじさんは名医だ。
「ただいまー」
「おかえり、隼人くんどうだった?」
「喋れるまでには回復したよ。まだ退院は無理だけど。」
「それはそうね。お風呂入っちゃって.洗濯しちゃうから。」
「分かった。」
頭と体を洗い、湯船に浸かる。
(早く退院しないかなぁ。まぁまだ先の話だけど。行きたいところがたくさんある。)
俺の頭の中はもう隼人でいっぱいだった。こんなになったのは初めてだ。
風呂から上がると、おじさんからLINEが入っていた。
内容は、あしたから隼人が保護室から一般病棟に移るとのことだった。俺は思わずガッツポーズをした。ってことは今日急速に良くなったってことか。愛の力はすごい。
「今日の夕飯何?」
「唐揚げよ。」
「やった!」
「お、大悟じゃないか。久しぶりだな。」
「あ、兄ちゃん。帰ってたんだ。」
「つれない弟だな。小さい頃はお兄ちゃんお兄ちゃん言ってたのに。」
「何年前の話だよ」
そう言うと、兄ちゃんが笑う。佑樹。俺の兄ちゃんの名前である。3歳上で小さいからからずっと可愛がってくれた。今でも重い位に愛されている。
「いただきまーす」
「ってか母さん、揚げすぎじゃない?」
「鶏肉が安かったからね」
「大悟、隼人くんはどうだった。」
兄ちゃんは隼人のことも訳隔てなく愛してくれた。それは今も同じで、たまに隼人の話題も出してくる。
「うん。喋れるまでには回復してる。明日から一般だって。」
「あら!良かったじゃない!」
「うん。俺も安心した。退院したら色んなところに連れて行ってやりたいなって。」
「大事な幼なじみだからな。無理しない程度に楽しんでくるといい。」
「うん。そうする。」
ご飯を食べ終わり、部屋で今日の講義の復習をしていると、LINEが鳴った。TroopsのグループLINEだ。
「隼人くん大丈夫?」
「明日から一般病棟移るって。」
「良かった。そんな中悪いんだけど、新しく曲出来たから聞いてくれない?」
いいよ、と応えると、楽譜と曲データが送られてきた。
「ははっ。相変わらず難しい曲だな。」
久しぶりにベースを構える。明日隼人の前ベースでも弾いてやるか、なんて思った。




