第31話 手首の傷痕、また一つ増えて。③
それは突然だった。隼人が手首を切って病院に運ばれた、と。おじさんがついて行ったので、おばさんの様子を見て欲しいとのことだった。俺はすぐに隼人の家に駆けつけた。
「おばさん!」
「大悟くん…隼人が、隼人が…」
「大丈夫です、俺がいます。俺がいますから…」
そう言っておばさんの背中をさする。少し落ち着いたところで、隼人の部屋に入る。ビニールシートが引かれて、カッターと血に染まったタオル。そして、大量の血。おそらく動脈まで行ったんだろう。大量の血を前に俺は泣いた。また、また助けられなかった。その事実は重い。
おばさんと病院に行く。そこには点滴と輸血パックに繋がれて眠っている隼人の姿があった。俺は絶望で崩れ落ちそうな体を必死で支えながら、隼人の側に行く。
「あともう少し遅かったら、死んでいたらしい。ギリギリ発見出来たからいいものを…。動脈を深く切ったみたいでな。縫合にも時間がかかったらしい。」
「隼人…」
青白くなった隼人の顔を撫でる。少し冷たいが、温もりは残っていた。
「西野先生ちょっと…」
促されて外に出たおじさんに代わり、隼人の顔近くに座る。目覚めたようだ。
「隼人!」
「ん…あ、大…悟…?」
「起きたか…?」
「…失敗したんだね。」
「何でそんなに深く切った?」
「死のうと思った。動脈まで切るのは痛かったけど、これで楽になるんだったらって我慢した。」
淡々と話す隼人を抱きしめて俺は泣いた。
「死ぬなよ!俺を残して!」
「大悟…」
「隼人は俺の生き甲斐なんだよ!隼人が喜ぶことなら何でもする、だけど…だけど…」
「大悟、ありがとう。もう大丈夫だから。ね?」
「うん…」
その後、隼人は担当医(おじさんの後輩らしい)と主治医のおじさんが話し合い、精神の安定を図るために精神科に入院することになった。開放病棟といって、閉鎖病棟よりも制限は緩く面会も可能とのことだった。俺は大学の帰りに毎回寄ることにした。
「本当に毎日来なくていいのに」
そう言ってくすくす笑う隼人。精神的には少し安定してるみたいだ。
隼人が入院してから10日。そう言えば10日だ。精神疾患の入院ってそんなに長いものだろうか。そんなことを考えていると、おじさんからLINEが入った。大学が終わったら来て欲しいとの事だった。
「お邪魔します。」
おじさんもおばさんもやつれていたように見える。椅子に座ると、おばさんがコーヒーを出してくれた。俺はコーヒーを口にした後、話が始まるのを待った。
「実はね、隼人は今保護室に入っているんだ。あの事件がトラウマになって泣き叫んだり、自分の手首の傷を掻きむしったりしてな。どの薬もマッチしなくて、今は保護室で全身麻酔をかけて眠らしているんだが…」
俺はその話を聞いて全身の血が湧き上がるのが分かった。あのくそMRを張り倒してしまいたくなる。
「それでだな、隼人の側に大悟くんがいて欲しいんだ。もちろんそれが大悟くんの負担に」
「何言ってるんですかおじさん。俺と隼人は3歳から小学生まで、高校生から今までずっと一緒に過ごして来たんですよ?負担もなにもありません。むしろ俺からその話をしようとしてたんです。俺が隼人にとって治療薬になるなら、喜んでしますよ。」
「大悟くん…ありがとう。」
俺にとってできる事はなんでもやる。例えいばらの道だとしてもだ。




