第30話 手首の傷痕、また一つ増えて。②
「ちょっとこれは重症かもしれないわね。」
「姉ちゃんもそう思うか。」
隼人の部屋から、おじさんとおじさんのお姉さん?が出て来た。俺とおばさんが座っているテーブルに座った。
「予想はしていたが、隼人の容体は悪いな。カウンセリングの途中に何回か過呼吸起こしてるしな。」
「週1くらいで私もカウンセリング来るわ。ちょっとこの状態が続くとまずいからね。」
「お義姉さん、本当にありがとうございます…」
「明里ちゃんが謝ることじゃないわよ。ほら、泣かないの。」
「隼人の部屋って入っても大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だよ」
隼人の部屋をノックする。はーいという声が聞こえてきたので中に入る。椅子に座っている隼人がいた。
「何でみんなこんなにいるんだろう?叔母さんとお父さんとも3人で話したし。叔母さんも久しぶりだったなぁ。」
「隼人…」
涙を堪える。泣くな、俺。必死にひざをつねる。隼人が続けた。
「大悟もいて何か不思議な気分だなぁ。でも、大好きな大悟もいて嬉しい。」
「っ」
俺はとっさに隼人の部屋を出る。廊下で声を殺して泣いた。何度も廊下を叩いた。何故隼人を救えなかった?あの時一緒にトイレに行かなかった?何故MR巡りをさせた?
色んな思いが込み上げ、何度も何度も廊下を叩いた。人の家だが。すると、おばさんがおれを抱きしめてくれた。
「ごめんね。大悟くんにも辛い思いさせて…」
「俺っ…隼人を守れなくて…っあの時一緒に行かなければって…!」
「大悟くんのせいじゃない。大丈夫よ。」
泣いた。何度も泣いた。
落ち着きを取り戻すまで少し時間がかかったが、お茶でも、とおばさんが席に俺を誘導した。そこには隼人もいた。
「隼人…」
「大悟、隣来て」
「うん…」
隼人の隣に座る。隼人が俺の肩に頭を乗せる。その隼人の背中をさする。
「隼人の今後の治療なんだけどな」
おじさんが険しい顔で言葉を紡ぎ始める。
「薬をちょっと強くするよ。それから、亜美おばさん隼人も知ってるだろ?」
「うん。」
「亜美おばさんとしばらく話をしてもらう。」
「何を話すの?」
「何でも大丈夫だよ。隼人の思ったことを何でも話して欲しい。」
「うん、分かった。」
「ちなみに隼人。今からちょっと残酷な質問をするけど、教授就任式の時のこと覚えてる?」
「うーん…お寿司が美味しかったかな。あと気づいたら病院にいたね。」
「…そうか。分かった、ありがとう。少し休むか?」
「うん。」
おじさんが俺に目配せをする。隼人を部屋に連れていけの合図だ。
「大悟、ありがとうね。」
「…いいよ。俺にとって隼人は大切な存在だからな」
「ふふっ、大げさ。ありがとう。おやすみ。」
「お、おやすみ」
リビングに戻る。おじさんとおばさんが険しい顔をしていた。
「これはまずいわね…」
「まぁ、あの事件のことを覚えてないのは幸いだったな。」
俺はそっと椅子に座る。おじさんとおばさんの会話をずっと聞いていた。
「とりあえずあの事件の話は隼人の前では話さない。それ以外無いな。」
「そうですね…。俺も全力で支えます。」
「すまないね。」
「3歳から今までずっと一緒だったんですよ?隼人の事は全部分かりますから。」
「頼もしいわ。ありがとうね。」
「頑張ります!」
帰る前に隼人の部屋に入る。すやすやと眠っていた。その頭を撫でる。
そっと部屋を出て、隼人の家を後にする。出来ることはなんでもやってやる。それが俺の贖罪だ。




