第20話 隼人と大悟①
「あ、大悟?LINE見たけどどういうこと?東京科学大学じゃなかったの?」
「いやー、入学準備金とか諸々払う前で良かったよ。俺も隼人と一緒がいいって」
「お父さんとお母さんは許したの?」
「好きにしなさいって」
「えぇー…」
大悟から「筑波大学に合格したよ」というLINEが来て、すぐに電話をした。何でだろうって気持ちが強かったのである。
「何?大悟くんも筑波にしたの?」
「うん。僕と一緒がいいとかなんとかで東科大蹴ったらしい…」
「すごい理由だなぁ」
そう言ってお父さんが笑う。
「まぁ、良かったじゃない。また大悟くんと一緒に勉強出来るんだし。」
「まぁね…」
「にゃー」
「お、さくらちゃん。よいしょ。大きくなったね。」
「にゃあ」
「おかげさまでだって」
「そうなの、さくらちゃん?」
「にゃー」
「そうだね、だって」
笑い合う。ここに大悟が居たらなぁ。なんて。
「そういえば隼人、薬増やしてどうだ?」
「そういえば最近調子いいかも。お父さんの処方は良く効くね。」
「そうか。なら良かった。」
薬の袋を見つめる。いつか飲まなくてもいい日が来るのかな。
「あ、大悟にCD借りてたんだ。返してくる。」
「おぉ、気をつけろよ」
「同じマンション内なんだから大丈夫だよ」
そう言って僕は笑う。
「いってきます」
大悟の家は7階だ。エレベーターに乗って7階を目指す。誰かに拉致されるなど無く、無事大悟の家に着いた。
ピンポーン
「はい、あら、隼人くん」
「こんにちわ。大悟いますか?」
「大悟出かけてるのよね。あ、良かったらお茶に付き合ってくれない?クッキー焼いたんだけど。」
「クッキー!いただきます!」
「さ、上がって。」
いつもそうなのだが、大悟の家はとてもいい香りがするのである。小さい頃からずっと思っていたのだが、何の匂いなんだろう。
「はい、座って。ジャスミンティーなんだけど大丈夫かな?」
「あ、はい。好きです。」
「はい、どうぞ。」
「いただきます。」
話題は大悟の話だ。何で東科大蹴ったんだろう。
「東京科学大学蹴ったじゃないですか、大悟。何かあったんですか?」
「私も分からないのよね。東京科学大学受かって喜んではいたけど、その2日後にはやっぱり筑波大に行くからって出願しちゃったから。」
「そうなんですか…」
「多分隼人くんと一緒にいたかったのかもしれないわね。」
「僕ですか?」
それは何となく感じていた。3歳の頃から含めると9年間一緒にいた訳だから。
「まぁ、でも私も安心してるのよね。」
「安心、ですか?」
「隼人くんと一緒にいる時の大悟、すごく楽しそうだから。」
「僕も大悟と一緒にいると楽しいですよ。」
「なら良かったわ。お茶、おかわりいかが?」
「いただきます。あ、あと借りてたCD、大悟に渡しといていただけますか?」
「あ、これね。返しておくね。」
その後世間話をして、最近飼い始めたというハムスターのミルくんを見せてもらい、大悟宅を後にしエレベーターに乗った。
「お茶に睡眠薬入れられて眠ってる間に…なんて展開はなかったね。」
良かった良かった、と安心していると12階に着いた。自宅のドアを開け、部屋に入る。さて、今日は何しよ…あ、
「母さん、ごめん!筑波の入学準備金明日までだった!」
「用意してあるわよ。いつ言ってくるかと思ったら…まだ銀行間に合うから行くわよ。あと、お買い物付き合ってね。」
「分かった!」
机の上に振込用紙置いといて良かった。振込用紙と財布をポシェットに入れ、母さんを待つ。
「お待たせ。行くわよ。」
「はい。」
「大悟くんちはどうだった?」
「おばさん特製のクッキーとジャスミンティーいただいて世間話したくらいかな。」
「大悟くんいなかったんだ?」
「うん。」
「大悟くんのお母さん話上手だからねぇ。じゃあ先に銀行ね。」
支払いを無事済ませて、筑波大学への入学権を取得した後、銀行を出ると、大悟がいた。
「え、大悟?」
「偶然だね。お母さんこんにちわ。」
「あらー、こんにちわ。」
「銀行に用があってね。ほら、入学金とかその他諸々。」
「あぁ、それでか…」
「じゃあ、また後で。」
「うん、じゃあね。」
大悟と別れて買い物に行く。…後で?
遊びに来るのだろうか。まぁ連絡が来るとは思うけど…。




