第14話 同級生が推しになりまして。④
その日は朝から最悪な日だった。寝坊(前日に飲んだ睡眠薬のせい)・朝の薬を飲み忘れる・爆弾低気圧。僕の気分を悪くするには持ってこいの要素が揃っていた。
駅に着くと、人身事故とやらで電車が遅延していた。悪い事は重なるものである。
頓服を飲み、ひたすら襲ってくる希死念慮を我慢する。
が、線路を見てしまい、全てが弾けた。
人の波をかき分けて、白線ギリギリで立ち止まる。周りがざわついていたが気にしなかった。
これで、楽になれる─
体を重力に任せた瞬間、
危ない!
という声がして僕の体は何者かに抱き寄せられ、飛び込めなかった。しかし、その何者かはとても見たことのある人物だった。
「え…」
僕の体が白線の内側に置かれた。電車は何事も無かったように人を吐き、人を吸い込んでいった。
「良かった、間に合って。」
「え…だ、大…悟…?」
「そうだよ!」
「なん…で…?」
「進学先東京なんだ。また隼人のマンション買ったから。ずっと一緒だよ」
「よく分かったね…」
「なんか今にも飛び込みそうな雰囲気出してたし、カバンに書いてある名前で隼人だって気づいたんだよ。」
僕は1人で驚いていた。あの大悟が目の前にいる。6年間会えなかった大悟が。僕を助けてくれた。気付けば僕は泣いていた。
「…なんか色々ありそうだね。場所変えようか。」
駅ナカの喫茶店。僕はコーヒーを、大悟はオレンジジュースを頼んだ。
「なんだか実感が沸かない…」
「まさか久しぶりの再会なのに自殺を止めることになるとはねぇ」
「…ありがとう。」
「どういたしまして。」
「で、何があったの?」
「…躁うつ病なんだ、結構重めの。」
「うんうん」
「常に自殺衝動が消えなくて、あんな風になっちゃうこともあって…」
「弱くなったねぇ」
大概の精神疾患を持つ人に言う言葉じゃないけど、僕には嬉しかった。
「でも隼人を助けられて良かった。目の前で親友を失うとかさ、東京に帰ってきた意味なくなっちゃうもん。」
大悟は僕の話を親身になって聞いてくれた。次は僕の番だ。
「大悟どこの大学行くの?」
「東京科学大学だよ。」
「そうなんだ。僕は筑波なんだ。医学部。大悟も?」
「そうだよ。お互いに医師の道選ぶって僕たちらしいかもね。」
「うん、まぁ…そうだね。」
「あ、そうだ。今から父さんと母さん迎えに行くんだ。一緒に来てよ。」
「え、僕が?」
「久しぶりでしょ?ここは僕が出すから。」
大悟が支払いを済ませて、外に出る。
「ごめん、奢ってもらっちゃって」
「任せなさい。あ、そういえば僕スリーピースバンドやってるんだ。これCD。僕はベースなんだけどさ。聞いてみてよ。」
CDを受け取る。あ。あの時の。
「大悟だったんだ…」
「うん?」
「こないだテレビで見たよ。何か違和感があったんだけど、大悟だったんだね。」
「違和感ってなんだ違和感って」
そう言って僕の頬をつねる。懐かしい感覚だ。
「あ、父さんと母さんだ。」
手を振る大悟。僕は会釈をした。
「隼人くんじゃない!大きくなったわねぇ」
「前に見た時はこんな小さかったのになぁ。」
「何年前の話してるんだよ…。」
「そういえば隼人くん今日電車に突っ込もうとしたんだって?」
「え、何で知ってるんですか?」
「大悟から聞いたわ。心配したのよ。」
「すみません、ご心配をおかけしまして…」
一緒に帰ることにした。両親には一応報告しておいた。




