第12話 同級生が推しになりまして。②
「次は渋谷〜、渋谷です。」
降りた瞬間人の多さに辟易した。だから渋谷は嫌いなんだ。じゃあ何故渋谷に髪を切りに来たかというと、小さい頃から髪を切ってくれた人が独立して店を構えたからだ。頓服を飲み、ふらふらしながら店に向かう。
「あ、隼人くんいらっしゃい。髪伸びたねぇ。ここ座って。」
「はい。今日は千尋さん1人?」
「今日は3人だよ。髪どうする?ばっさりいっちゃう?」
「お願いします。生徒指導に掛けられちゃうんで、前髪もばっさり。」
「了解。じゃあ切ってくね。」
さよなら僕の髪。千尋さんが話しかけてくる。
「隼人くん国立医大受かったんだって?すごいじゃん。」
「いや、僕も受かるとは思ってなかったんで…」
「そうなんだ。でも受かったんだからすごいよ。」
「ありがとうございます。」
前髪が額まで切られた。久しぶりに目を見られる訳である。
「ほら、イケメンが台無しだよ。」
「イケメンじゃないです…。」
「十分イケメンだよ。それにしても切り甲斐のある髪だねぇ。これくらいかな。シャンプーしてく?」
「お願いします。」
「じゃあこっち来て。」
シャンプーも終わり、ドライヤーで短くなった髪の毛を乾かしてもらう。なんだか小さい頃を思い出すな…。
「はい、終わり。お疲れ様。」
「ありがとうございました。」
「3000円ね。」
「はい。ちょうどで。」
「毎度あり。気をつけて帰るんだよ。」
「ありがとうございます。」
千尋さんの店を出て駅まで向かう。ヘッドホンをしながら。早くこんな街出よう。
足早に渋谷駅へ向かう。幸い誰かに襲われたりはしなかった。渋谷は怖い街だ。
「次は南町田グランベリーパーク〜南町田グランベリーパークです。降り口は右側です。」
はっ。乗り過ごした。あざみ野で降りなきゃいけないのに。
急いで反対側渋谷方面の電車に乗る。立っていよう。
携帯をいじっていると、宣伝でバンドのPR広告が流れて来た。スリーピースバンドのPR広告である。普段は聞き流すが、何故かその動画に目がいった。なんか見たことあるような…。
誰か分からないまま、あざみ野に着いた。PR広告を閉じ、家へ向かう。でも誰だろう…。
「おかえり。いい男になったじゃん。さすが私の息子。」
「母さんまで…やめてよ。」
「いいじゃない。あなたはいつまでも私の可愛い息子よ。」
「…ありがと。」
「これからお父さんに診て貰うんでしょ。シャワー浴びたら?」
「いや、汗かいてないからいいよ。行ってくるね。」
僕にうつ病の診断を下したのは、精神科医の父である。
僕的には躁うつ病だと思うんだけど…。
「西野隼人さん、1番にどうぞ」
「失礼します。ただいま父さん。」
「おかえり。調子はどうだ?」
「父さん、僕うつ病じゃなくて躁うつ病じゃないかと思うんだ。」
「そうだな。ちょっとそっちの感じになってきたな。薬変えてみるか。」
「うん。最近眠れないんだ。」
「じゃあ眠剤変えてみるか。」
父は僕の言うことをほぼ肯定してくれる。僕にとっては日本一の精神科医だと思う。
「じゃあ薬出しとくから。隣で貰えよ。」
「うん。ありがとう。」
その後薬局で薬を貰い、家に帰る。母が買い物に行くらしいので、それに付き合わされた。
「いやー、荷物持ちがいて助かるわー。」
「そりゃどうも。」
「今日は重いよ。お米買うからね。」
「米位ならまぁ…」
「お米舐めちゃだめよ。今日は4袋買うから」
「はぁ?4袋は買いすぎだろ…」
「特売なのよ。おひとり様2袋まで。
スーパーに着く。人でごった返していた。
「あんた、人混み大丈夫?」
「さっき頓服飲んだから大丈夫。」
米や肉など、4人家族には多すぎる買い物をし、半分以上を僕が持つことになった。
「いやー、やっぱり息子産んどいて良かったわー。」
「そりゃどうも…」
スーパーから家までは約20分。この重い荷物を20分も持つのか…。
帰宅。中学3年生の弟、啓斗が帰って来ていた。
「あ、お母さん、お兄ちゃんおかえり」
「ただいま。あー重かった。」
「母さん半分以上僕に持たせたじゃん…」
「助かったわ。ありがとう。」
「…どういたしまして。」
自室に帰り、今日の復習を終わらせる。今日のPR広告がやけに気になってしょうがない。
「何か見たことあるんだよなぁ…」
もやもやとした気持ちになっていくうちに、眠気が襲ってきた。まずい、まだご飯もお風呂も済ましてないのに。
襲ってくる眠気に抗えず、僕は意識を手放した。




