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我が騎士道とは、剣に捧ぐことと見つけたり ~剣に恋する王女に口説かれる日々~  作者: アレセイア
第二章

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第7話

「昨日ぶりね。シズマ」

「お招きいただき、ありがとうございます」


 翌朝、静馬の姿は再び王城の敷地内にあった。

 敷地の外れにある調練場。そこに呼び出され、足を運んだ静馬はアウレリアーナに対して拝礼する。だが、彼女は気さくに手を振って崩すように促した。


「お師匠様から聞いていると思うけど、これはあくまで私的な場であり、個人的に貴方を客人として招いたの――興味あるでしょう? 騎士たちの訓練」

「ええ、是非見たいと考えていました」


 静馬はそう言いながら視線を調練場に向ける。少し離れた場所では騎士たちが剣をぶつけ合わせていた。その白熱した雰囲気を見ながら目を細める。


(まさか、訓練の視察に呼んでもらえるとはな)


 今日のアウレリアーナの誘いは、訓練の視察の同行だった。

 地方騎士からの意見をぜひ伺いたい、という言葉もあったので、すぐに同意して言伝を預かった騎士に案内してもらったのだ。

 遠目から見ても、調練している騎士の熱気が伝わってくる。アウレリアーナは隣に並ぶと、その様子を見ながら微笑んだ。


「折角なら、この様子を見ながら貴方と剣術談義したいと思っていたのよ。早速、見に行ってみましょうか」

「お供します。殿下」


 畏まりながら静馬が応えると、アウレリアーナは首を振って彼の腕に手を添えた。


「堅苦しいのは抜き。今の貴方は騎士ではなく、私の客人なのだから」

「……しかし」


 視線をアウレリアーナの背後に向ける。

 そこには昨日まで供をしていたヘロスの姿はなく、代わりに小柄な侍女が控えていてじっと静馬を見ている。静馬の視線にすぐに気づき、彼女は頭を垂れる。


「私のことはお気になさらず。私は殿下の侍女に過ぎません」


 そう告げる彼女の声は小声であり、存在感が薄い。どこか儚げな印象だ。アウレリアーナは彼女を振り返ると、微笑みながら告げる。


「この子はユーラ。信頼できるし、融通も利くわ。仮に貴方が不敬を働いたとしても、いきなり斬り捨てたり、讒言するような真似はしないわ」

「不埒な真似をすれば、その限りではありませんが――細かい口調などは気にしません。私のことも、どうぞユーラと呼び捨てにしていただければ」


 静かな口調で告げるユーラに、承知しました、と静馬は頷き返す。


「目が光っていることは覚えておきます。ユーラ殿」

「……敬語も敬称も不要ですが」

「お言葉だけありがたく。礼を失するわけには参りませんので」


 その言葉にユーラは少しだけ目を見開いたが、口元に淡い笑みを浮かべた。


「礼儀正しい方なのですね。シズマ様は。殿下が気に入られるのも分かります」

「まさか。騎士として、剣士として当然です」

「それができない騎士も多いのよ。シズマ」


 アウレリアーナは軽く肩を竦めながら告げると、訓練場の方を手で示した。


「行きましょう。シズマ。貴方の意見も聞かせてくれると嬉しいわ」

「かしこまりました。殿下」


 アウレリアーナに付き従い、静馬は訓練場に足を踏み入れた。近づくと気合のこもった声が次第に大きくなる。打ち合っている騎士たちの姿が目に入ってきた。


「てあああぁっ!」

「……っ!」


 剣をぶつかり合わせる騎士たち。王族であるアウレリアーナが視察しているのを自覚しているのか、誰もが気迫に満ちている。

 アウレリアーナは足を止めると一人一人に視線を向けながら小さく囁いた。


「ヘロスが連れてきた直属部隊と、近衛騎士の王城警護部隊の手合わせよ」


 どちらも精鋭と名高き部隊だ。噂は田舎の第三軍にも聞き及んでいる。

 視線を少し外せば、そこにはヘロスが厳しい顔つきで歩き回っているのが視界に入る。いつもの温和な物腰とは異なり、時折鋭い声を飛ばしている。

 だが、すぐにアウレリアーナと静馬の視線に気づき、少しだけ眼差しを緩めて軽く会釈した。静馬は軽く目礼を返すと、ヘロスはすぐに騎士たちに視線を戻した。

 静馬も視線を騎士たちに向ける。目を引くのはやはり、第五軍の騎士たちだ。


「さすがヘロス将軍の部隊。一人一人の実力は違いますね」

「分かるかしら」

「ええ、余裕のある立ち回りなので」


 一対一で打ち合っている騎士に目を留める。近衛の軍服を纏った騎士の攻撃をヘロス直属の騎士は巧みな剣捌きで凌いでいる。時折、逆に踏み込むことで相手の出鼻を挫き、攻撃の勢いを削いでいる。


「言うなれば、負けない立ち回り方、でしょうか」

「ええ、実際、彼の配下の騎士たちは粘り強い剣が魅力だわ。そこまで気づいているなら、他に気づいていることがあるわよね」


 アウレリアーナはそう言いながら視線を近衛騎士の方に向ける。静馬はその視線を追いかけると、しばらく黙っていたが遠慮がちに口を開く。


「――正直に申し上げて良いのであれば」

「構わないわ」


 アウレリアーナの即答に静馬は頷き、剣戟の喧騒に紛れるように小さく告げる。


「近衛騎士の練度は、そこまでではありませんね」


 その言葉は確かに彼女に聞こえたのだろう、わずかに口角を吊り上げた。アウレリアーナは少しだけ距離を詰めると小声で応じた。


「ご明察よ。正直、近衛騎士の腕は知れているわ。もちろん、近衛の中でも筆頭部隊の練度は目を見張るものがある。だけど、それ以外は全くよ――この部隊は自称、精鋭らしいけど」


 なるほど、と静馬は頷きながら近くの近衛騎士たちに視線を向ける。

 アウレリアーナが近くに来ただろうか、その騎士は俄然やる気を出し、勢いよく相手に打ち込む。その動きは様にはなっているが、やや大振りで隙が多い。


(剣の型を学び、やり込んでいるのだろうが――)


 型から型の繋ぎも荒く隙が見える。明らかに型稽古しかおらず、実戦慣れしていないのだろう。剣を振り抜いた姿勢は隙だらけだ。

 だが、受け手の騎士――ヘロスの部下はその隙を突かず、一歩大きく退きながら構え直す。そこへ近衛騎士が再び打ち込んでいく。


「……随分と消極的ですね。ヘロス将軍の騎士は」

「そのような指示が出ているのでしょう」


 静馬が口にした疑問に答えたのは、隣を歩くユーラだった。彼女は無表情ながらも、嫌そうな眼差しを近衛騎士たちに向ける。


「ここにいる近衛騎士たちは実家が皆、名家です。貴族か、あるいは親が高官であるなど。そのため、彼らの面子を潰すようなことをすれば目をつけられます。故に、いい勝負に見られるように打ち合うように指示されているのでしょう」

「――それはまた面倒な……」

「仕方ないかと。ここでアウレリアーナ殿下の目に留まれば、あわよくば彼女の護衛を任されるかも――などと下心ありきで考えている者も少なくありません」

「俗物ですね」

「同感です。シズマ様を見習っていただきたい」


 ユーラはしみじみとした口調で言い、アウレリアーナは振り返って大きく頷いた。


「そうね。私は俗物のような騎士には興味ないわ。仮に私の傍仕えを任せるとすれば、それは私と互角に打ち合える騎士よ。どこかにいないかしら?」

「とのことですが? シズマ様」

「はて、心当たりはありませんね。自分も未熟です故」


 空々しく静馬が答えると、なるほど、とアウレリアーナは頷いて言う。


「つまり、貴方に負かされそうになった私はもっと未熟ということね」

「……殿下、その返し方は卑怯では?」


「貴方が白々しいことを言うからよ。シズマ」

 アウレリアーナはくすくすと笑みをこぼし、立ち合いを続ける騎士たちに視線を向け――ふと何かに気づいたように表情を曇らせ、視線を逸らした。

 静馬もそれに気づく。王城の方から騎士を連れた男が近づいている。

 身に纏っているのは飾り立てた軍服。将軍格を示す階級章は遠目からでもはっきり分かる。だが、その見た目は明らかに若々しく、整った顔立ちは目を強く引く。


(……閲兵式のときに顔を見たことがあるな)


 アウレリアーナはすぐに気づくことができなかったが、そんな静馬でもすぐに気づいた。

 この男こそ次代のこの国を担う王族。

 ギルバルド王子だ。

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