表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我が騎士道とは、剣に捧ぐことと見つけたり ~剣に恋する王女に口説かれる日々~  作者: アレセイア
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/32

第3話

 目の前に立つのは兜を被った騎士。口元しか見えないが、その唇が微かに弧を描いている。

 迫り合うその刃が力強く、隙がない。隙を見せれば、押し切られかねない。


(一体、何者だ――)


 王城の庭園で、白昼堂々の蛮行。正気の沙汰とは思えない行為だ。

 だが、それを問い質す余裕を与えてくれそうにない。


「――ッ」


 静馬は地を蹴って素早く距離を取りながら剣を順手に構え直す。が、すぐに騎士は地を蹴って間合いを詰める。隙を与えず、畳みかけるように鋭く刃が振り下ろされる。

 瞬時に静馬は太刀を寝かせてその一撃を防いだ。

 だが、防ぐや否や敵の刃は軽やかに跳ね、次の一撃へとつながる。

 横薙ぎ、斬り上げ、斬り下げ、逆袈裟斬り、刺突。

 防いだ次の瞬間、次の一撃が瞬く間に襲い掛かってくる。風を切って迫り来る連撃は刃だけでは受け止め切れず、静馬は後退を強いられる。


(見事な連撃だ……っ、体勢を立て直しきれない……っ!)


 攻撃から攻撃へのつなぎ目が滑らかであり、付け入る隙がない。辛うじて刃を合わせて耐えているが、加速する連撃がそれをこじ開けようとしてくる。

 このままだと押し切られるのは時間の問題――。


(だが、動きが愚直だな……!)


 踏み込みと同時に放たれた刃。その軌道を静馬ははっきりと見定めると、わずかに身を逸らして躱した。空を切る刃――だが、その直後には騎士は刃を返しながら踏み込んだ。

 放たれたのは疾風のような突き。静馬はそれを今度は刃で受ける。のみならず、傾けることで刃をわずかに逸らし、軌道を変化させる。騎士は動きを乱しながらもすぐさま刃を返し、真上から斬り下ろし――。


 その軌道上にすでに静馬は刃を置くように構えていた。刃と刃がぶつかって火花を散らし、力が拮抗。正面から鍔迫り合い、両者の視線がぶつかる。

 直後、同時に突き放す形で弾かれたように分かれる。が、すぐに騎士は踏み込み、苛烈に剣を振るって攻め立てる。だが、静馬はそれを悉く刃で防いでいく。


(相手の動きが読めれば、防ぎきることもできる――)


 無論、容易いことではない――相手の攻撃の速さは尋常ではないのだ。

 判断が一瞬でも遅れれば、その素早い一撃で崩されてしまう。だからこそ、静馬は神経を研ぎ澄ませ、感覚で敵の刃の動きを捉えて対応する。

 その剣戟の中で、いつの間にか静馬の後退は止まっていた。

 対して攻め立てる騎士の呼気がわずかに乱れる。その隙に静馬は刃を加速させた。騎士の斬撃を弾き返し、一歩踏み込んで上段から斬りかかる。


「――ッ」


 騎士は一歩引いてその斬撃を躱す。そこへ畳みかけるように静馬は踏み込みながら振り下ろした刃を跳ね上げる。騎士は剣を薙ぎ払ってそれを受け止める。中空で刃が激突し、鋭い金属音が耳をつんざき、再び視線が行き交う。

 直後、弾かれたように静馬と騎士は刃に力を込め、後ろに跳んだ。一瞬で開く距離。だが、それを二人は踏み込みで消し飛ばす。

 静馬が振り下ろした刃を騎士は身を逸らして避けて突きを放つ。

 鋭い突きを静馬は刃を跳ね上げ、上へと弾き飛ばす。だが、騎士は一歩引きながら剣を振り返し、踏み込みながら鋭く振り下ろす。

 静馬はそれを横薙ぎで鋭く弾き飛ばした。そのまま手元に太刀を引き寄せると、諸手突きを放つ。胸元に迫る突きを騎士はひらりと身体を回転させて回避。その勢いを利用した回し斬りを放つ。静馬は身を逸らしてそれを躱し、次の攻撃の隙を伺う。


 互いの攻守が目まぐるしく切り替わる激しい連撃の応酬。絶え間ない金属音と共に、何合も斬り合いは続いていた。永遠に続くかのような剣のぶつかり合い。

 だが、その切れ目はすぐに訪れた。静馬が騎士の斬撃を太刀で押し切った瞬間、騎士の呼気が詰まった。反撃の刃が微かに乱れ、大振りになる。


 静馬はわずかな隙を見逃さなかった。雑な反撃に刃を合わせ、絡めるようにして脇に流す。そうしてこじ開けた隙に静馬は一歩踏み込んだ。

 太刀を最上段に構え、一気に振り下ろす。騎士は背後に跳んで斬撃を躱す。だが、静馬の動きは止まらない。振り下ろした刃を瞬時に返す。そのまま、一気に太刀を振り上げていた――燕返し。


 十分な踏み込みで放たれた必殺の一撃。並大抵の敵ならばこれにて決着だ。

 だが、相対する騎士は尋常ならざる者。体勢を崩しながらも、反射神経だけで上体を逸らしていた。わずかに切っ先が捉えることができたのは、辛うじて兜の端。

 澄んだ音と共に兜が跳ね上げ、宙を舞う。それと共に風が吹き、兜に隠されていた金髪が燦然と煌めいた。露わになった素顔に静馬は目を見開く。


 そこにあったのは――美麗な女性の、弾けるような笑顔だったからだ。


 静馬の動揺の隙に、彼女は素早く距離を取りながら口を開いた。


「さすがの腕前ね。シズマ・ナカトミ。想像以上よ」


 涼しげな声が、静馬を賞賛する。彼は残心の姿勢からゆっくりと正眼に構えた。

 風に揺れる長き金髪。すっきりと整った顔立ち――そして何より射抜くような、真紅の眼光。嬉しそうな笑みを見せる彼女に静馬は眉を寄せた。


「……あんた、何者だ?」


 その言葉に彼女は微かに目を細めた。顔の横に剣を持ち上げ、切っ先を静馬に突きつけるように構える――霞の構え。気迫を迸らせながら、彼女は告げる。


「答えは剣で引き出しなさい」


 放たれる気迫に自然と静馬は気迫を研ぎ澄ませていく。


(……挑発に乗るのは悪手かもしれないが)


 事実、ここで時間を稼いでいればヘロスが戻ってくるか、あるいは異変に気付いた騎士たちが駆けつけるはずだ。それまで粘ればいい。

 だが――それで、いいのだろうか?


(いいはずがない)


 そう答えたのは理性ではなく、本能だった。

 静馬の中で激しく脈打つ剣士の鼓動が叫んでいる――戦え、勝て、と。静馬は自然と口角を吊り上げながら、太刀を握り直した。

 折角の好敵手を前に、腑抜けた選択肢は不要だ。


「承知した――ならば、来い」


 静馬は低い声と共に気迫を返す。彼女は口角をわずかに吊り上げ、微かに爪先に力を込める。直後、両者は同時に地を蹴った。


 踏み込みと同時に放たれるは、彼女の鋭い刺突。風を引き裂く一撃を静馬は一歩横にずれて回避。隙を見せた彼女に真っ向から斬りかかる。

 だが、彼女は瞬時に刺突を引き戻し、跳ぶように退がっていた。静馬の剣が空を切った瞬間に踏み込み、横薙ぎ一閃を放つ。だが、静馬は瞬時に手首を返し、刃を跳ね上げていた。中空で鋭く刃が激突し、火花を散らす。

 一瞬の膠着。それを破ったのは静馬の太刀だ。静馬が力を込めて彼女の剣を弾き返す。だが、彼女はそれに合わせて身体を捻っていた。静馬の力を取り入れ、その場で鮮やかに廻り、回転斬りを放つ。刃が流れた静馬の身体は無防備――。


 その身体が、がくんと沈んだ。


 咄嗟に彼は膝を抜くことで体勢を低くしたのだ。刃を紙一重で回避しながら彼は地を蹴り、重心を下げる勢いを横方向に変換。滑るように距離を取りながら体勢を立て直した。そして今度は静馬から踏み込んで斬撃を放つ。

 真っ向からの唐竹割。上段からの鋭い斬撃に彼女は一歩退きながら剣を振りかぶる。そして刃を振り抜いた彼の頭を斬るべく一歩踏み込み。


 ()()()()()()()()に、彼女は大きく目を見開いた。


 静馬は手首を返すだけで刃を振り下ろしたと見せかけたのだ。剣を握る腕はまだ振り抜かれておらず、さらに手首を返すことで刃を彼女の眼前に構えている。

 虚実の太刀。剣技に巧みに織り交ぜられたフェイントだ。

 そのまま、彼女の無防備な首に突きを放つ。


「――ッ」


 虚を衝かれた彼女は咄嗟に身体を捻りながら地を蹴り、側面に跳んで回避。着地は大きく乱れ、息も荒々しい。だが、彼女の瞳からは戦意は消えていない。


(ここで、畳みかける――ッ!)


 静馬は爪先に力を込め、地を蹴っていた。太刀を肩に担ぐようにし、彼女に肉迫する。それを前に彼女は地を踏みしめ、片手で鋭く突きを放つ。

 だが、それは苦し紛れの一撃。見切るのはあまりにも容易い。

 顔をわずかに傾けるだけでその刃を躱すと、踏み込みと同時に左手の拳を放った。それが彼女の肩を捉え、完全に体勢を崩させる。

 そして彼の動きはそれにとどまらない。担いだ太刀は流れるように最上段に据えられていた。踏み込んだ爪先に力が込められ、気迫が溢れんばかりに身から噴き出す。

 下腿、上腿、腰、背、上腕、前腕――全ての筋肉がほぼ同時に、だが滑らかに連動する。

 踏み込みから生じた力を余すことなく増幅。裂帛の気合に応じるように刃が紫紺の淡い光を放ち、真っ直ぐに振り下ろされる。


(この刃、防ぐこと能わず――!)


 静馬が確信した瞬間、不意に側面から気配が駆けた。


 気づいた瞬間、二人の間に人影が割り込んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ