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我が騎士道とは、剣に捧ぐことと見つけたり ~剣に恋する王女に口説かれる日々~  作者: アレセイア
第五章

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第29話

 闘技場に立った瞬間、ぱっと何か光が横切った気がした。

 束の間の眩しさに瞬きし、辺りを見渡す――気づけば時刻は夕方に差し掛かり、西日が差し始めてきたようだ。とはいえ、闘技場は直接日が差さない構造になっている。

 視線を正面に向ければ、そこには一人の騎士が気迫を滾らせて立っている。


 オリバルト・モレル。第二軍に所属する騎士であり、その手には槍を持っている。彼らは観客に見せるようにくるくると回してから、石突で地面を突いた。

 そして、ぎらぎらと瞳に戦意を滾らせてこちらを睨んでくる。

 それを平然と静馬は受け流しながら、剣を握り直す。


(槍遣いか――正直、やりづらいんだよな……)


 何しろ、間合いが違い過ぎるのだ。剣では届かない間合いでも、槍では易々と届くことがある。ただ、弱点もあり、懐に飛び込まれれば取り回しやすい剣の方が有利という点もある。

 とはいえ、それは相手も承知しているはず。それを補う手段も用意しているだろう。

 武器はその遣い手によって長所も短所も化けるのだから。


(ここまで勝ち上がってきた実力派。油断はできないだろうな――)


 深呼吸を一つし、相手と視線を交錯させる。互いに礼をしてから、武器を構える。強者たちの対決を前に観客たちのボルテージが上がり、歓声が上がり――。

 対する静馬の意識からは、観客の声が遠くなっていく。

 目の前の光景に集中。相手の一挙一動に注目し、神経を尖らせていく。その中で気迫は徐々に高ぶっていく――その意識の端で、審判の声が響き渡った。


「始め!」


 その声が響き渡ると、静馬とモレルは動いた――極めてゆっくりと。

 間合いを一気に潰すのではなく、足を擦るようにして間合いを詰める。視線の先で立つ相手もまた、小刻みに槍の穂先を揺らしながら一歩、また一歩と進む。

 互いに間合いを測る読み合い。そして微かにまた足を踏み出した瞬間、ぴり、と張り詰めた空気が肌を刺す。ぴくりと相手の槍の穂先も動いた。


 ここが相手の間合い。やはり剣の間合いからすると遠い。

 迂闊に踏み込めば槍の餌食になる。呼吸を整えながら隙を窺う。微かに相手の穂先が動くのに反応し、静馬は身体を動きそうになる。

 だが、気力で抑え込む――まだだ、相手の身体が動いていない。

 相手の動きと呼吸を見極める。揺れる槍の穂先。相手の爪先に力が込められる。


(――ッ)


 瞬間、弾かれたように両者が動いた。モレルは一瞬で踏み込み、同時に槍が放つ。それを静馬は半身を逸らして躱した。身体の脇を銀閃が迸る。

 カウンターを狙って踏み込もうとした瞬間、滑るように槍が彼の手元に戻る。

 直感が背筋を迸った。咄嗟に上体を逸らした瞬間、鋭い突きが眼前を駆け抜ける。突きは再び彼の手元に引き戻される。連続で突きを放つ構えだ。

 殺気が迸るのは、足元――。


(ならば――ッ!)


 静馬は上体を逸らした状態から地を蹴った。後ろにとんぼ返りを切った瞬間、足元を駆ける槍の穂先。宙を舞った静馬を見たモレルは瞬時に地を蹴りながら槍を構える。

 放たれる下方からの槍。静馬は中空を舞いながら合わせるように刃を振るった。

 槍の先端を刃の腹で受け止める。空中で刃と槍が交錯し、火花が飛び散った。静馬は突き押される力を上手く利用して宙を舞うと、距離を取って素早く着地する。


 鋭く槍を放ったモレルは驚きで目を見開きながら、槍を構え直す。軽く舌打ちするような音を聞きながら、静馬は冷静に体勢を立て直して地を蹴った。

 下段に構え、素早く踏み込む。真下から掬い上げるように斬り上げを放つ。それを咄嗟にモレルは後ろを下がりながら、槍を手元に引き寄せて防いだ。


(――手元に引き寄せたな?)


 つまり、ここからは剣の間合いだ。

 静馬は不敵に笑い、モレルは自身の悪手に気づいて表情を歪める。槍を払いながら飛び退こうとするが、その動きは荒い。必殺技を捌かれた動揺が動きに出ている。


 静馬はそれを見切ると、身を低くして槍の払いを回避。のみならず、その重心移動を前への推進力に変え、滑るように前へと踏み込んだ。

 その力を載せるように刃を横薙ぎに放つ。モレルは辛うじて槍を引き寄せ、柄でそれを受け止める。激しい火花を散らす中、モレルはそれを突き放そうとし。

 その槍の柄を静馬はむんずと強引に片手で掴んだ。

 武器が掴まれ、硬直するモレル。その姿はあまりにも隙だらけだ。


(貰った――っ!)


 静馬は勝利を確信し、片手で刃をモレル目掛けて突き出し――。


 瞬間、視界を眩しい光が貫いた。


「――っ!」


 眩い閃光に目が眩みながらも、剣を突き出す――だが、手応えはない。

 代わりに静馬の身体を襲ったのは、重たい蹴りだった。至近距離から蹴り飛ばされ、静馬は真後ろに転がる。息を詰まらせながらも彼は受け身を取って跳ね起きる。

 それからまばたきして光の残像を追い払い、剣を構え直した。


(今のは一体――)


 かなり強い光。まるで陽光を直視したようだった。

 だが、西日はここに差していない。静馬は呼吸を整えながら視線をモレルに移す。モレルも槍を構え直し、じりじりと歩み寄ってくる。

 舌打ちをこぼしそうになる。距離が開き、また最初から仕切り直しだ。静馬は冷静さを取り戻すべく、呼吸を整えながら目の前の敵に集中。

 一挙一動を見逃すまい、として――その視界にぱっと光が横切った。


「――っ!」


 咄嗟に回避しようとしたが、光の残像が視界に残り、相手の動きが見づらくなる。だが、静馬はその光の出処を一瞬で捉えていた。


(観客席から……っ、一体、何が……?)


 一歩後ろに退きながら観客席を視界に捉える。その中できら、と輝く何かを持っている人影が見える。それの正体に静馬はすぐに感づいた。


(――っ、鏡か……っ!)


 観客席にいる者が、手にした鏡で西日を反射させ、静馬の顔に当てているのだ。恐らく静馬が勝つことを面白くない者がやっているのだろう。

 悪戯か、妨害か。いずれにせよ、試合に水を差されて不愉快だ。


(……この場合、中断しないのか?)


 審判の様子を伺うが、平然とした表情で異常に気付いていなさそうだ。

 あるいは、気づいていて無視しているか――。

 静馬の思考を遮るようにモレルは地を蹴り、槍で鋭く突きかかってくる。その動きを視界に捉えた瞬間、視界をぱっと白い光が埋め尽くした。


「――っ」


 咄嗟に静馬は大きく退がり、距離を取る。くそ、と内心で毒づきながら剣を握り直した。


(光を当てられ過ぎて、視界が利かない……っ)


 静馬の視界に光の残像がこびりついてしまい、動きが見切れない。

 ならば、と静馬は横に擦るように足を動かした。モレルもそれに応じ、正面を向きながら横に動いていく。両者、弧を描くような動きで立ち位置を変化させる。


(これで鏡を持った奴が視界に入らないようにすれば――)


 瞬間、再び光が視界に入り、静馬の動きが一瞬止まりかけた。

 幸い、モレルはそれを隙と捉えなかったようで動かない。だが、その間にも何度も光が視界に飛び込んでくる。それも一つや二つではない――。

 まさか、と冷や汗を滲ませながら一瞬、観客席に視線を移す。


 直後、観客席から向けられた無数の光が視界を白く染め上げた。

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