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我が騎士道とは、剣に捧ぐことと見つけたり ~剣に恋する王女に口説かれる日々~  作者: アレセイア
第四章

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第23話

「……兄上」


 歩みが遅くなったアウレリアーナに代わり、ギルバルドが前に進み出て気取った声で告げる。


「随分、元気そうだね、アウレリアーナ……体調が悪いと聞いていたけど」


(相変わらず、癇に障るというか)


 どうやら遠回しにアウレリアーナの仮病のことを非難しているらしい。言い回しが腹立たしいのを抑え、静馬も軽く顔を伏せさせる。

 アウレリアーナは軽く後ろに下がるよう静馬たちに後ろ手で合図しながら兄に答えた。


「ええ、心の内が鬱屈しておりましたので、気晴らしをしていました」

「はは、なるほど。相変わらずお転婆だね。アウレリアーナ。けれど、そんなお転婆は止した方がいい。あまり王族としての外聞がよろしくないからね」


 それから視線を背後の静馬に注ぎ、顔を顰めて言葉を続ける。


「特にどこぞと知れない男と連れ立って歩くのはね」

「お言葉ですが、兄上」


 それに鋭い声をアウレリアーナは差し挟む。それに驚いたように目を見開いたギルバルドに対し、彼女ははっきりと告げる。


「シズマは武勇猛々しい騎士――それは近衛騎士との立ち合いで兄上もご覧になったはずです。私はその武勇に見込み、彼を傍に置くことに決めました」

「へぇ……私は賛成しないな、その身勝手な人事は」


 ギルバルドは小さくため息をつくと、凍てついた視線を注ぐ。


「この男の剣技は見たが、あそこはあくまで訓練の場。少し花を持たせてやった部分もある。それに――この男は礼も尽くさずに立ち去ったではないか。そんな男を近衛に入れるのは、認めがたいな」

「……兄上が決められることとでも?」

「ああ、私が決めることはない。王族の私的な人事は当事者及び第一軍の将軍が決めることだ。だが、第一軍の将軍――アルバレア将軍に意見をすることはできるだろう?」

「――っ」


 悔しそうに言葉を詰まらせるアウレリアーナ。静馬も内心で怒りが込み上げてくる。


(……なんという男だ……こいつは)


 恐らく、静馬があの場で素っ気なく接したことを根に持っているのだろう。だからこそ、それも込めてこうやってアウレリアーナをいびっているのだ。

 まだ主ではない、とはいえ、尊敬に値する方の尊厳が踏みにじられている。

 それに腹の底から灼熱の怒りが湧く。だが、彼女が耐えている今、暴発すべきではない。耐えていると、ギルバルドは淡々と言葉を続けた。


「第三軍の、実力も未知数な、ただの部隊長をいきなりアウレリアーナの傍に置くのは認めがたいな――まぁ、アウレリアーナが今後、心を入れ替えて王族の務めに全うする、というのであれば、口を利いてやっても構わないがね」

「……っ」


 アウレリアーナの肩が大きく震えている。怒りを堪えているのが誰もが分かっている。それをギルバルドは薄く笑みを浮かべて見ている。

 その酷薄な瞳の光を見た瞬間、静馬の思考が急速に冷えていく。

 溶岩のような怒りが凍り付き、肚の底で固まっていた。


(……もはや、この男に怒る価値もない)


 こんな妨害紛いなことで自尊心を満たすなど、つまらないにも程がある。

 その男を黙らせるとすれば、圧倒的な実力を見せつけるしかない。

 有無を言わさず、誰もが文句をつけられないような実力を。


 そして――その心当たりが、静馬にはある。


 今までは避けていた。だが、今ならそれを有効活用できるはずだ。

 覚悟は、もう決まっている。

 静馬がゆっくりと前に進み出て口を開く。


「実力をお見せすれば、よろしいのですね。殿下」


 その言葉にギルバルドとアウレリアーナの視線が静馬に向けられる。静馬はアウレリアーナを振り返ると、その瞳を真っ直ぐに見て告げる。


「アウレリアーナ殿下、一つだけお願いがあります――推薦を、いただきたいのですが」

「推薦……? 何の……?」

「御前試合です」


 その言葉にアウレリアーナは大きく目を見開いた。静馬はギルバルドに向き直って言葉を続ける。


「御前試合は王国中の騎士たちが集まり、陛下の御前で腕前を披露する舞台――そこで勝ち上れば、充分な実力者だと認めていただけますよね?」


 その言葉にギルバルドはしばらく黙り込んだが、やがてにこりと笑みを見せて頷いた。


「ああ、もちろんだとも。だが、栄えある王族の近衛になりたいとなれば、並大抵な戦績では許されないぞ、ナカトミ」

「もちろんです――生温いことは申し上げません」


 静馬は頷き、はっきりとした口調で告げた。


「御前試合で、優勝させていただきます」


 意気込みもなく、ごく自然な口調で告げた言葉だ。

 ギルバルドは微かに瞳に驚きを見せたが、やがて冷ややかな口調で告げる。


「……大言壮語だね」

「そう思われるのでしたら、結構。大会で実力を見せます――確か、王族の方が直々に推挙していただければ、本選に優先的に出場できますよね」

「ああ、その通りだとも。そして、それはアウレリアーナの自由だ」


 ギルバルドはアウレリアーナに視線を向ける。静馬も彼女に向き直ると、彼女は真紅の瞳で真っ直ぐに彼を見つめた。互いの視線が刃のように交わり、揺らぐことはない。

 そして、彼女ははっきりとした口調で告げる。


「シズマ・ナカトミ――貴方を御前試合に推薦します。必ずや勝ち抜き、貴方の実力を世に示しなさい」

「仰せのままに。殿下」


 二人の言葉には何の疑いもない。あるのは信頼だけだ。

 ギルバルドはその様子を見ていて、ふん、と軽く鼻を鳴らした。


「そんな田舎者に折角の招待枠を使うとはね。私ならもう少しまともな騎士を選ぶが」

「出自や家柄など関係ありません。確かな剣の腕前を持ち、そして私に仕えようとしている騎士なのです。つまらぬことで目を曇らせる方が愚かだと私は思います」


 ギルバルドとアウレリアーナの視線がぶつかり合う。苛立ったような彼の眼差しに対し、彼女の視線は落ち着いた冷ややかなものだ。

 やがてギルバルドは視線を外し、淡々とした口ぶりで告げる。


「御前試合が楽しみだ――後悔しないといいな、二人とも」

「ええ、本当に楽しみです」


 アウレリアーナは穏やかな口調で返すと、彼は荒々しく踵を返した。取り巻きの騎士たちを連れ、その場から立ち去る。彼女は小さく吐息をこぼすと、静馬を振り返って眉根を下げた。


「ごめんなさい。また面倒に巻き込んでしまったわね」

「いえ、これは自分が選んだことです――ただ少し、申し訳ないと思う点がありますが」

「何かしら」

「……グノーシス将軍に、休暇を伸ばしていただかなければなりません」


 本来ならば明日には任地に戻り、明後日には職務に復帰しなければならない。

 だが、御前試合は四日後。いただいた休暇では賄いきれない。その分は有給を使用するにしても、職務に穴を空けることになってしまう。

 グノーシスなら許してくれそうだが、さすがに申し訳ない。

 その言葉にアウレリアーナはおかしそうに笑いながら、なるほどね、と頷いた。


「それに関しては私から書状を送るようにするわ。私が推薦するのだから当然だけど……でもいいのかしら、貴方は御前試合に出るのは遠慮していたでしょう?」

「それは出世に興味がなく、しがらみに巻き込まれるのが面倒だっただけなので」


 ギルバルドに目をつけられた今、もうすでにしがらみに巻き込まれているのだ。ならば、騎士団の猛者たちが集う御前試合に挑むにもまた一興だ。

 それに、と静馬はアウレリアーナを見つめて力強く告げる。


「殿下に仕えるための試練ならば、望むところ」

「……嬉しいわ。シズマ。貴方が仕えてくれると決断したことも含めて」


 アウレリアーナは微笑みを浮かべて頷く。そして凛とした声で告げる。


「貴方の剣の腕ならば、心配はしていないわ――必ず、勝ち抜きなさい。シズマ」

「ええ、もちろんです」


 真紅の瞳は揺るぎなく、信頼を込めて静馬を見せている。

 その瞳が曇らせることは、あってはならない。

 胸に決意を秘め、静馬は恭しく頭を垂れた。

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