第22話
もう、迷いはなかった。
目を開ければ、アウレリアーナの真紅の瞳が見つめている。真っ直ぐと、静馬の心を射抜くかのように見つめて離れない。その瞳に魅入られるようにして口を開く。
「――アウラ様に、お仕えします」
ふわりと風が吹き、彼女の長い金髪が舞い散った。
雲の切れ間から差し込んだ陽光が降り注ぎ、光を散らす。どこか幻想的な景色の中、彼女は大きく目を見開いていた。静馬はその前に跪き、その手を取る。
そして、はっきりとその意思を口にする。
「自分も貴女と一緒に歩みたい――貴女とならばきっと、この剣の道の先が見えるから」
「――シズマ……っ」
顔を上げれば、彼女の瞳は大きく揺れていた。真紅の瞳が食い入るように静馬を見つめ――やがて、その瞳からぽろり、と大粒の涙が流れる。
その涙がどこか温かいものに感じる。その涙の中で彼女は微笑む。
「嬉しい……本当に、いいのよね……?」
「剣士に二言はありません」
断言すると、彼女の瞳からさらに涙がこぼれだす。それに戸惑ったように頬に手を当て、震える声で笑って見せる。
「あは……あれ、おかしいな、嬉しいのに……涙が止まらない……」
「アウラ様――」
懐からハンカチを取り出して差し出すと、彼女はそれを手に取って涙を拭いて微笑む。
「……ありがとう。シズマ。貴方の言葉は何より嬉しい。得難い友を得た気分だわ」
「友……ですか?」
「うん、私が勝手にそう思っているだけ、だけど」
王族からそう言っていただけるのは恐れ多いことだ。
(だけど、アウラ様なら本心から告げられる――)
静馬は目を細めながら微笑み、言葉を返した。
「ならば、これから友になりましょう。アウラ様」
「……シズマ……」
「同じ剣士として、そして主従として、これから理解を深めていけるはずですから。二人で行く先を見つけていけば良いのです」
その言葉に彼女は目を細めると、うん、と幼子のように小さく頷き。
やがてふんわりと花咲くような柔らかい微笑みをこぼした。
「これから――よろしくお願いするわね。シズマ」
「はい。アウラ様」
彼女の手をしっかりと握り返しながら、その顔を見上げる。
陽の光の下で微笑む彼女は、誰よりも可憐で美しく見えた。
◇
「すっかり日暮れね……つい楽しくなってしまったわ」
王都に戻る頃には辺りは暗くなっていた。
存分に馬を乗り回し、さらには手合わせをするなど、王都の外で静馬とアウレリアーナは充実した時間を過ごしていたのである。
その甲斐があってか、城門を潜ったアウレリアーナは満足げな表情を浮かべている。付き従う静馬は思わず苦笑を浮かべながら訊ねる。
「大丈夫なのですか、丸一日外出していたわけですが」
「騎士たちが上手くごまかしているはずよ。あとは気取られないように戻ればいいだけ。王城まではお供してくれるかしら、シズマ」
「仰せのままに、殿下」
王都に戻ったので呼び方を改めると、彼女は少し不服そうに唇を尖らせる。だが、仕方なさそうに一つ頷くと、軽やかな足取りで王城までに道を辿り始める。
もちろん、ユーラも一緒だ。彼女は静馬の隣に並ぶと、目を細めて囁いた。
「これにて一件落着、でしょうか。シズマ様」
「ええ、そのようです。あっさりと決めてしまいましたが」
「転機とはそのようなものでしょう。これで私たちは同僚、となりますね」
「そうなるでしょうね。そのときはどうぞよろしくお願い致します」
「はい――それより同僚になるのならば、敬語も敬称も不要ですよ」
ユーラの目が微かに笑う。ほんの少しだけ口角を吊り上げて言葉を続ける。
「どうぞ、ユーラと呼び捨てていただければ――今回は、受けてくれますよね?」
「ああ、そうだな――うん、よろしく頼む。ユーラ」
「はい、よろしくお願いします。シズマさん」
同僚になる仲間と笑みを交換する。アウレリアーナは後ろを振り返り、目を細めながら告げる。
「とはいえ、シズマを引き抜くのにいろいろ手続きがあるから、まだ少しかかる予定だけどね。根回しも必要になってくるでしょうし」
「……いろいろと面倒なのですね」
「でも、そんなに待たせるつもりはないわ。第三軍のグノーシス将軍、第一軍のアルバレア将軍と相談して、すぐに移籍できるようにするわ。その辺の根回しは任せなさい、シズマ」
「はい、楽しみにしています」
静馬がそう言葉を返すと、アウレリアーナは嬉しそうに表情を緩めた。長い金髪を艶やかに揺らし、鼻歌を微かに響かせる。
だが、その上機嫌さが続いたのは王城の門前までだった。
門前に立つ複数の人影。それを見てアウレリアーナが黙り込む。
ユーラは表情を曇らせ、顔を伏せさせた。静馬は眉を寄せながら視線を向ける。近づくにつれて、その姿がはっきりしてくる。
多く立つのは近衛騎士たち。その中心に立つのは煌びやかな服に身を包んだ男。
第一王子のギルバルドだ。




