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我が騎士道とは、剣に捧ぐことと見つけたり ~剣に恋する王女に口説かれる日々~  作者: アレセイア
第一章

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第1話

 任務を遂行し、執務室へ報告に来た中臣静馬は思わず目を丸くしていた。

 その命令を下したのは、サイラス・グノーシス――第三軍を率いる将軍である。身体はかなり大柄であり、見た目も髭面で厳めしい。いかにも胡散臭そうな風貌で、軍服を身に纏っていなければ蛮族か何かと勘違いしそうな見た目をしている。

 執務室の机に向かう彼は面倒くさそうに頭を掻き、言葉を続けた。


「王都から来いという命令が発せられてな。ほれ、これがその令状だ」

「――拝見します」


 差し出された書状を受け取り、静馬は目を通す。そこに記された第一軍の将軍の署名を確認してから思わず眉を寄せる。


「でもなんで、わざわざ第一軍が下っ端の自分をご指名でしょうか」


 王国騎士団は第一軍から第五軍まであり、その中でも第一軍は王都の警備を管轄している。所属しているのは貴族出身や腕の立つ精鋭など、エリートで固められている。

 だが、静馬は第三軍――王都から少し離れた田舎を管轄する部隊に所属している。

 その中で彼は取り立てて武勲を立てているわけでもない。

 多少の野盗や魔獣討伐で活躍したことはあるが、あくまで、ただの部隊長に過ぎない。

 静馬は首を傾げていると、ふん、と将軍も鼻を鳴らした。


「俺も知らねぇよ。ただ、第一軍が注目していたとしても、無理はねえと思う」

「そうでしょうか……?」

「例えば半年前、第四軍の援軍にお前を向かわせたが――大分暴れたそうじゃねぇか」

「いや、兵站部隊を守っただけで、そんな活躍をしたわけでは」


 そのときは異民族の戦いであり、彼らは兵站部隊を襲撃しようとしていた。

 だから静馬は一隊を率いて先回りし、寡兵で襲撃を防いでいた。その際にそれなりに異民族を討ち取っている。


(けど、その分の戦果は少なめに報告したんだがな――)


 討ち取った数も部隊全体で五十人程度であり、静馬自身は指揮に専念したと報告している。つまり実質、静馬の手柄はないように扱われているはずだ。

 だが、グノーシス将軍は全て見通したように目を細める。


「あの後、実は第四軍の将軍から連絡が来てな。報告にはなかったが、兵站部隊の隊員がお前の活躍を大いに語ってくれてな。何でも三百人斬りだって?」

「まさか。精々、二百――」


 そう言いかけ、口を噤む――その静馬の反応に将軍はにやりと笑った。


「やっぱりサバ読んでやがったな」

「……いえ、気のせいでした」

「ごまかさんでもいい。お前が毎回、戦果を過小に報告し、その分を部下に花を持たせてやっていることはよく知っているからよ」


 グノーシス将軍はそう言いながら小さくため息をつき、半眼を静馬に向けた。


「ったく、自分の戦果くらい誇ってみせろよ、ナカトミ。それだけの戦果を挙げていれば、給料も上がるし、出世もできるぞ?」

「どちらも不要ですから。将軍――自分が求めるのは、ただ一つ」

「剣の道、か」


 将軍の呟きに、ええ、と頷いて静馬は苦笑を返した。


 静馬は生粋の剣士である。

 剣士の一族に生まれ出て、物心ついた頃から剣を握り、剣と共に生きてきた。楊心流剣術の道場で皆伝をいただいてからは、各地を流浪しながら剣の修行を続けてきた。

 より高みを目指すために。強者との戦いを求めるために。

 こうして騎士として今、第三軍に籍を置いているのは付き合いと成り行きでしかない。時期が来れば旅立とうと思っているし、グノーシス将軍もそれは承知している。


「全くもったいないことだが――ナカトミがそれを目指すなら致し方ない」


 だが、と言葉を切り、静馬の手にある令状を指さしながら将軍は続ける。


「その隠された戦果に気づいた誰かが第一軍の将軍に上申し、お前を呼び出している、という可能性は無きにしも非ず、だな」

「そんなものですかねぇ……?」

「ああ。しかもその男は御前試合にも出場しないと来た」

「それは任務がありましたから、仕方ないかと」

「わざわざ、他の奴とシフトを変わってまでして、な」


 グノーシスの指摘に静馬は無言で肩を竦めた。将軍は苦笑しながら机の上の手帳を持ち上げ、大きな手でめくっていく。


「いずれにせよ、目をつけられたのなら仕方ねえ。大人しく出頭して話を聞いてこい。もしかしたら、第一軍へ引き抜いてもらえるかもしれねえぞ」

「まさか。それにもしそうであっても、頷くつもりはありませんよ」


 静馬としては、この第三軍の部隊長という肩書は気に入っていた。

 何せ、余っている時間は剣の訓練に好きなだけ費やすことができ、部下は文句を言いながらもそれに付き合ってくれる。そんな日々を彼は満喫しているのだから。


「とはいえ、命令ですからね――行きますか」

「そうだ。命令だ。だから、出張手当と路銀は多少、経費から出してやる。そうだな、来週から一週間ぐらい、王都でのんびりしてこい」

「……一週間、ですか?」


 王城に出頭するだけならば、行き来する時間を含めて三日もあれば充分なのだが。だが、グノーシスは手帳を閉じて、きっぱりとした口調で続ける。


「一週間だ。お前は少し働き過ぎなんだよ。だから職務にかこつけて少しサボって来い。その間のシフトはカバーしてやる。何ならもう少し休暇を取るのも構わんぞ。確かその頃は御前試合の本選があるからな」


 ぶっきらぼうにそう言いながらグノーシスは書類を引っ張り出し始める。


(……全く、この将軍は)


 大柄で屈強なサイラス・グノーシスはその厳めしい顔に似合わず、細やかな気遣いができる上司なのだ。部下想いであり、こういう気配りをしてくれる。

 見た目は山賊の親玉みたいなのだが。


「いえ、一週間で大丈夫です。ありがとうございます」

「礼などいらんよ。なら一週間分、都合をつけてやる」

「了解しました。引継ぎを済ませ、週明け、王都に向かいます」

「おう、引継ぎが終わったら今日は上がっていいからな……ああ、あと」


 立ち去りかけた静馬はグノーシスの言葉に振り返る。グノーシスは腕組みをすると真っ直ぐに静馬を見てにやりと口角を吊り上げた。


「もし王都で何かいちゃもんをつけられたら俺様に報告しろ。近衛騎士だろうが知るか、落とし前をきっちりつけてやるからよ」

「……分かりました。将軍。頼りにしています」


 釣られて静馬も笑みをこぼしてしまう。あまりにも頼もしい上司だ。静馬は深々と拝礼してから執務室を後にした。廊下を歩きながら書状に視線を落とす。


(……用件はどうあれ、初めての王都か)


 静馬は一度もこの国の王都に行ったことがない。こんな形で足を運ぶことになるとは思わなかったが。折角ならいろいろ見てくるのも悪くない。


(その前に引継ぎか……ついでにお土産は何がいいかも聞かないとな)


 今日、静馬の所属する部隊は調練の予定だ。仲間たちはせっせと汗水を流して鍛練に勤しんでいることだろう。きっと王都に行く彼を羨むはずだ。

 その仲間たちに何と言おうか考えながら、静馬は調練場に足を向けた。

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