表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我が騎士道とは、剣に捧ぐことと見つけたり ~剣に恋する王女に口説かれる日々~  作者: アレセイア
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/33

第17話

 庭園のガゼホには、いろとりどりの甘味が並んでいた。


「……これは……」


 遠目から分かるほどの色鮮やかさに静馬は少し目を見開く。

 彼は離宮の庭園に続く道を歩きながら横を見やる。案内してくれたユーラは相変わらずの無表情だったが、静馬の視線に気づくと片目を閉じてみせた。

 思わず苦笑をこぼしながらガゼホに向かう――そこには、アウレリアーナがそわそわした様子で待っていた。周りに騎士は置かず、たった一人で。


(一応、遠くで警護しているようだが)


 ちら、と庭園の外側を見る。そこに立つ近衛騎士の位置はガゼホからかなり遠い。恐らく話し声は聞こえない位置――つまり、一瞬では駆けつけられない。

 つまりは、アウレリアーナは静馬をそれだけ信頼してくれているのだろう。

 少し面映ゆい気持ちになりながら、ガゼホに近づいていく。アウレリアーナは彼を視界に入れるなり、ぱっと表情を輝かせて立ち上がる。


「シズマ! 待っていたわ」


 アウレリアーナが歩み出て歓迎するのを見て、ユーラは小さく嘆息する。お茶会の作法としては、あまり良いものではないのだろう。

 だが、歓迎の意図は充分に伝わってきた。静馬は歩み寄りながら軽く一礼する。


「本日はお招きいただき――といったご挨拶は必要ですかね?」

「もちろん、不要よ。そんな社交辞令を交わす暇があるなら、手合わせをしていた方が有意義だわ――今日の趣旨は、剣術談義だけどね」


 気さくに笑う彼女はとても楽しそうだ。まるで昔からの友人に対するような、無防備な親しさ。砕けた口調で彼女はガゼホのテーブルを示した。


「折角だからと思って、今日はたっぷりと茶菓子を用意したわ」

「ユーラ殿から聞きましたか?」

「ええ、充分に。昨日はいろいろ楽しんだみたいね。いい剣は見つかった?」

「それがなかなか」


 静馬は肩を竦めながら席につくと、ユーラが素早く傍に進み出て紅茶の支度を始めてくれる。アウレリアーナも静馬の正面の席について頷いた。


「そうでしょうね。貴方の太刀以上のものになると、なかなかないと思うわ」

「ただ、いろいろ勉強になりました。ユーラ殿との買い物も楽しめましたし」

「ふふ、それなら良かったわ。遣わせて良かった」

「ええ。殿下にも感謝を。ありがとうございます」

「どういたしまして。シズマ」


 親しみを込めた笑みで答えるアウレリアーナ。その前にユーラが静かにティーカップを置く。静馬の前にも置き、軽く一礼した。

 アウレリアーナはカップを持ち上げると、片目を閉じて明るく告げる。


「じゃあ、お茶会と洒落込みましょうか。紅茶をどうぞ」

「はい、かしこまりました。いただきます」


 静馬も紅茶を口に運ぶ。芳醇な香りが口の中に広がり、思わず吐息がこぼれる。アウレリアーナも目を閉じてじっくりと紅茶を楽しんでいる。

 やがて瞼を開くと、燃えるような真紅の瞳で静馬を見つめて微笑む。


「今日は一日時間があるし、じっくり話せるわね。何かしら話そうかしら」

「そうですね。この前は東方剣術と西方剣術の違いについて話しましたし」


 静馬は少し迷っていると、ふと静かな声が小さく差し挟まれた。


「――殿下のことを知っていただくのはいかがでしょう」


 その声に視線を上げる。声の主はアウレリアーナの傍に控えているユーラだ。声を発したとは思えないほど、無表情である彼女を振り返り、アウレリアーナは少し困ったように首を傾げる。


「……私のことを? でも話すようなことなんて」

「では、例えば」


 ユーラが表情を動かさずに口を開く。その瞳が一瞬悪戯っぽく光ったのは気のせいか。わずかに嫌な予感がする中、ユーラは静かに告げる。


「先日、アウレリアーナ殿下がお寝坊されたお話とか」


 とんでもない爆弾発言だった。

 思わず静馬がぎょっとする一方、アウレリアーナも表情を引きつらせる。表情を変えないのは暴露したユーラだけだ。彼女は淡々とした口調で続ける。


「殿下はたびたび、そういう失態をされますので。そういうところを知っていただいた方がよろしいかと。殿下」

「だ、けど……ユーラ、貴女ねぇ……不敬じゃない?」

「ありのままの事実を言っているだけですが」


 ユーラは悪びれもせず、心なしか楽しそうな声色だ。


(……侍女が主の失態を暴露するなんてな……)


 ただ、アウレリアーナは表情を引きつらせているものの、怒っている雰囲気はない。仕方なさそうに眉尻を下げ、ため息をついていた。

 恐らくこういったやり取りは頻繁にあるのだろう。上司や部下、主従の関係とは思えない。まるで長年連れ添った友人同士、あるいは仲間同士に思える。

 私的な場ではこうしたやり取りも許し、気安い関係を築いているようだ。

 思わず釣られて笑みをこぼすと、アウレリアーナは恥ずかしそうに頬を染め、視線を少し泳がせながら口を開いた。


「――そうね、寝坊したのは事実よ……公爵主催の夜会を、すっぽかしてね」

「公爵閣下の夜会をですか……」


 表情を引きつらせる。この国の公爵は何人かいるが、誰もが有力貴族。それをすっぽかすなど、かなりの大事だ。機嫌を損ねられてもおかしくはない。

 ユーラは小さくため息をついて補足説明をする。


「その日はかなり激しい稽古をしていたため、夜会までのわずかな時間、少し休憩すると告げて自室に戻られたのです。ですが、時間になっても出て来ず、部屋に入ってみれば」

「殿下が寝ていらしたと」

「ええ。とんでもない寝相で」

「一言余計よっ、ユーラっ」


 アウレリアーナは噛みつくように突っ込み、ユーラは表情を変えずに軽く頭を下げる。


「失礼しました。ただ、事実ですので。頭もぼさぼさ、汗も流せていない状況だったので、当然、時間までに支度が間に合うはずもなく」

「……結局、仮病でごまかしたのよ。兄上からお小言をもらったけど」


 それを思い出したのか、深くため息をこぼしたアウレリアーナ。何も言えず静馬は愛想笑いをこぼしながら紅茶を口に運んだ。

 それから、ちら、とユーラに視線をやって訊ねる。


「……ちなみに、こういうのがたびたび?」

「そうですね、年に数度は。こんな大ポカはあまりありませんが」

「それは大変ですね、ユーラ殿」

「はい、殿下の面倒を見てくれる騎士様を募集中です」

「自分には少し荷が重いかもしれませんね……」

「……貴方たちねぇ……」


 アウレリアーナは顔を上げると、半眼でユーラと静馬を見やりながら唇を尖らせる。


「ユーラはともかく、シズマも遠慮がなくなってきたわね」

「殿下が親しみやすい方だと実感したので――不敬でしたか?」

「ううん、まさか。これくらい遠慮がない方がありがたいわ」


 不機嫌そうな表情から一転、嬉しそうにくすりと笑うアウレリアーナ。その可憐な笑顔に一瞬、目を奪われてしまう。

 だが、すぐに気を取り直し、静馬はアウレリアーナに訊ねる。


「で、その夜会は仮病でごまかして大丈夫だったのですか?」

「まぁ、それに関しては手紙を送って謝罪したからひとまずはね。次もやったらさすがにまずそうだから出席しないといけないけど……エプト公爵かぁ……」


 アウレリアーナは憂鬱そうに小さく吐息をこぼす。はて、と静馬は首を傾げる。


(聞き覚えがあるな。確か――)


 南方の公爵家だ。元々は子爵家だったそうだが、領地改革をして交易路を確保し、それで財を為したのだ。それ故に口性のないものは成金公爵と呼んでいるのだが。

 騎士たちからすると別の異名があり、好ましく思われていない。


「その……エプト公爵でいい噂を、あまり聞かないですが……」

「……ああ、貴方たちも聞いている? 口外しないから、話してくれる?」

「いやその……好色公爵とか、好色閣下、とか」

「事実ね」


 ずばりとアウレリアーナは言い放ち、ユーラはしみじみと頷いている。


(――まぁ、そうだよな)


 その公爵の噂が遠く離れた北方まで流れており、それはどれも似たようなものだ。

 はっきりしているのは、公爵はもういい歳の中年だが、金をつぎ込んでは女をかき集めているということ。自身の護衛の騎士すらも全て若い女で固めている徹底ぶりだ。

 お気に入りの女騎士にはどんどん金を振舞う一方、他の騎士たちの待遇は良くなく、薄給。それに我慢できず、第三軍に流れてきた騎士もいるくらいだ。

 アウレリアーナは深くため息をこぼすと、遠い目をして告げる。


「大金を叩いて名剣を買うのだけど、使わずに飾らせるのもどうかと思うし。他にも私はもちろん、随伴している近衛騎士にすら色目を使ってくるのよ。私の目の前で引き抜きをかけてきたときは唖然としたわね」

「それは気に食わない」

「でしょう? だから元々、サボるかどうか迷っていたの。それをぐるぐる考え込んでいるうちに、寝ちゃって、ね……」


 小さくため息をつきながら頬杖をつくアウレリアーナに、静馬は相槌を打つ。


「心中お察しします」

「ありがと。エプト公爵に限らずだけど、ああいう夜会は正直、気が乗らないのよ。私は当然未婚。連れていく女騎士は既婚者を選んでいるけど、それでもいろいろセクハ――もとい、ちょっかいを受けるのよ」


(今、セクハラって言おうとしたのか……)


 出所は不詳だが、巷で流行っている俗語らしい。アウレリアーナは親しみやすいだけでなく、そういった世俗にも詳しいようだ。

 アウレリアーナは小さくため息をつくと、わずかに視線を伏せさせる。


「とはいえやはり寝坊は良くなかったわ――さすがにダメ、よね」


 顔色を伺うように上目遣いで見つめてくるアウレリアーナに、思わず静馬は言葉を詰まらせてしまう。その仕草は可憐で目を奪われてしまう。


(この人はどれだけ魅力的なんだか……)


 また惹かれてしまう。それを自覚して視線を泳がせると、アウレリアーナはわずかにきょとんとしていた。静馬は咳払いをし、改めて口を開く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ